非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究

文献情報

文献番号
202020004A
報告書区分
総括
研究課題名
非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究
課題番号
H30-エイズ-指定-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
藤谷 順子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター リハビリテーション科)
研究分担者(所属機関)
  • 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
  • 江口 晋(国立大学法人長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 遠藤 知之(北海道大学病院)
  • 三田 英治(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) 消化器科)
  • 四柳 宏(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
  • 大金 美和(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 小松 賢亮(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 潟永 博之(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 石原 美和(神奈川県立保健福祉大学実践教育センター)
  • 竹谷 英之(東京大学医科学研究所 附属病院 関節外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
55,770,000円
研究者交替、所属機関変更
なし

研究報告書(概要版)

研究目的
非加熱血液製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養上の問題点を、患者視点に配慮しつつ検討する。
研究方法
サブテーマ1肝臓その他の合併症管理・医療連携:肝臓の予後予測のために、ケモカインの網羅的測定を行った。線維化マーカーとしてのM2BPGi の意義を検討した。肝細胞癌以外の疾病を対象に、「総合的健康把握事業」を開始した。PMDA個別支援事業の解析を行った。虚血性疾患のスクリーニング研究を行った。サブテーマ2運動機能の低下予防とリハビリテーション技法の検討:全国5か所でのリハビリ検診会を予定していたが、コロナ禍により、4か所は個別形式となった。在宅で筋電気刺激装置を用いる前向き試験を継続した。サブテーマ3神経認知障害及び心理的支援:フォーカシングアプローチの有効性に関する準ランダム化並行群間比較試験無作為前向き試験を継続して実施した。サブテーマ4生活レベルでの健康・日常生活実態の調査と支援:手法a)支援を伴う患者実態調査、手法b)訪問看護師による訪問健康相談、手法c)iPadによる双方向性の支援を含む生活状況調査、手法e)専門施設近隣への転居による変化の調査、を実施した。また、コーディネーターナース(以下CN)のタイムスタディを行った。サブテーマ5生活の質:全国規模のWEBによるQOL調査を実施し、非感染血友病症例との差を検討した。25年前に調査を受けているHIV/AIDS 患者へのQOL調査を継続した。
倫理面への配慮:すべての研究は必要な倫理面の配慮を行い、各分担研究者の所属する施設・団体の倫理審査を経て行われている。
結果と考察
サブテーマ1肝臓その他の合併症管理・医療連携:5つのケモカインがバイオマーカーの候補と示唆されたM2BPGi は種々の肝機能マーカーと有意な相関を示し、線維化の有意上昇を検出できていた。「総合的健康把握事業」では日程や評価項目について多数の意見があった。PMDA個別救済126 名中、疾患関連は76 件、医療費関連が46 件、在宅・療養環境調整12 件、手当相談などが26 件であった。虚血性心疾患のスクリーニングの結果、NCGMでは23.4%がCAG 適応で、CAG実施者の56%が治療適応であった。北海道内では29%に高度狭窄が認められた。サブテーマ2運動機能の低下予防とリハビリテーション技法の検討:リハビリ検診の参加者85名の平均年齢は52歳で、関節可動域の低下、筋力低下を認め、歩行速度は遅かった。関節痛を9割が訴え、日常生活動作の低下を認めた。杖の使用者は2割、通院手段は自動車が49%であった。親の家事負担があり、自己注射ができないものが9.4%であった。北海道大学およびNCGMで、動画の配信を行った。在宅筋電気刺激研究には、予定全症例がエントリーし、9名が最終評価を修了した。サブテーマ3神経認知障害及び心理的支援:他研究と同一の対象者に研究をすすめていることが指摘され、研究を中止した。サブテーマ4生活レベルでの健康・日常生活実態の調査と支援:手法a) 患者の健康状態は悪化・複雑化する傾向にあり、「親亡きあとの不安」の訴え、施設希望もあった。手法b)訪問は、貴重な相談機会ととして、病状の悪化の感知と対応につながった。手法c)外出自粛で体重増加、抑うつ状態の一時悪化があった。手法e)転居の安心感は大きかったが、生活費の増加があった。CNは、5日間に65件の患者面談、75件の院内外多職種連携を行い、その合計は30時間18分であった。サブテーマ5生活の質:身体と全体的な健康状態は高齢になるほど低下していた。疼痛指標が高いと、QOLの複数項目が有意に低かった。
考察:M2BPGi はHIV/HCV 重複感染者における肝線維化マーカーとして有用であることが示された。「総合的健康把握事業」は、項目・自由度を改善して活かしていきたい。薬害被害患者には無症状であっても高率に冠動脈狭窄が存在することが明らかとなった。PMDA 個別支援事業およびCNのタイムスタディからは、支援のための人材確保の必要性が示唆された。高率に運動機能の低下が認められ、日常生活動作、社会参加・家事・就労・通院・自己注射等に、今後さらに問題が増えてくることが予想された。疼痛管理も重要と考えられた。訪問看護や、iPad を用いた遠隔支援の重要性は今後さらに高まると思われた。
結論
非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養には、多疾患への同時対応が必要となりつつあり、予防的取り組みとが必要である。受診した場合の医療費支援だけでなく、個別の病病連携、医療福祉連携、生活支援、通院支援、運動機能低下への治療、検診事業やリハビリ検診会等の予防的取り組み、訪問などのアウトリーチ、ITを用いた遠隔支援、居住地の選択への支援などを組み合わせた体制の構築が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020004B
報告書区分
総合
研究課題名
非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究
課題番号
H30-エイズ-指定-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
藤谷 順子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター リハビリテーション科)
研究分担者(所属機関)
  • 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
  • 江口 晋(国立大学法人長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 遠藤 知之(北海道大学病院)
  • 三田 英治(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) 消化器科)
  • 四柳 宏(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
  • 大金 美和(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 小松 賢亮(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 潟永 博之(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 石原 美和(神奈川県立保健福祉大学実践教育センター)
  • 竹谷 英之(東京大学医科学研究所 附属病院 関節外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
なし

研究報告書(概要版)

研究目的
非加熱血液製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養上の問題点を、患者視点に配慮しつつ検討する。
研究方法
サブテーマ1肝臓その他の合併症管理・医療連携:ソホスブビルを用いた治療の有効性・安全性・長期予後、肝予備能について追跡調査を行い、線維化マーカーとしてのM2BPGi の意義の検討を行った。重複感染者のHCC 合併と治療の実態調査を行った。肝細胞癌以外の悪性腫瘍の評価実態を検討し「総合的健康把握事業」を開始した。PMDA個別支援事業の解析を行った。虚血性疾患のスクリーニング研究を行った。サブテーマ2運動機能の低下予防とリハビリテーション技法の検討:リハビリ検診会を全国で実施し、コロナ禍においても個別リハ検診を行った。サブテーマ3神経認知障害及び心理的支援:フォーカシングアプローチの有効性に関する準ランダム化並行群間比較試験無作為前向き試験を継続して実施した。サブテーマ4生活レベルでの健康・日常生活実態の調査と支援:調査票と面接による患者・介護者実態調査、訪問看護師による訪問健康相談、iPadによる双方向性の支援を含む生活状況調査、専門施設近隣への転居による変化の調査を実施した。コーディネーターナース(以下CN)による連携支援例の事例検討を行い、業務時間分析を行った。サブテーマ5生活の質:全国規模のWEBによるQOL調査を実施し、非感染血友病症例との差を検討した。倫理面への配慮:すべての研究は必要な倫理面の配慮を行い、各分担研究者の所属する施設・団体の倫理審査を経て行われている。
結果と考察
サブテーマ1 肝臓その他の合併症管理・医療連携:HCV の排除は発がん抑止効果のあることが示された。引き続き炎症と線維化の経過観察が必要である。M2BPGi は肝線維化の検出マーカーとして有用であった。肝がんの外科手術については、ガイドラインより小規模の選択がされていた。「総合的健康把握事業」では日程や評価項目について多数の意見があった。PMDA個別救済126 名中、疾患関連は76 件、医療費関連が46 件、在宅・療養環境調整12 件、手当相談などが26 件であった。虚血性心疾患のスクリーニングの結果、NCGMでは23.4%がCAG 適応で、CAG実施者の56%が治療適応であった。北海道内では29%に高度狭窄が認められた。サブテーマ2運動機能の低下予防とリハビリテーション技法の検討:リハビリ検診参加者は経年的に増加した。令和3年の5か所での参加者85名の平均年齢は52歳で、関節可動域の低下、筋力低下を認め、歩行速度は遅かった。関節痛を9割が訴え、日常生活動作の低下、応用動作・家事能力の低下、屋外移動能力の低下を認めた。
サブテーマ3神経認知障害及び心理的支援:他研究と対象者が重複していることが指摘され、研究を中止した。
サブテーマ4生活レベルでの健康・日常生活実態の調査と支援:質問紙調査の1/3はこの1 年間の健康状態の悪化を自覚し、移動、日常活動、痛み/ 不安感に問題を抱えるものが各7 割を超えていた。親の加齢により、施設の要望が増加し、専門的医療機関近くへの転居は安心感につながるが、経済的課題があった。訪問看護師の訪問は変化の感知と受療に効果があった。iPad を用いたシステムは、コロナ禍での体重の増加や抑うつなどの問題把握の機会となっていた。被害者における問題は多彩であり、その支援を行うため、コーディネーターナースは、患者面談、多職種連携に多く(5日間に1,818分)を費やしていた。サブテーマ5 生活の質:身体と全体的な健康状態は高齢者ほど引くかった。疼痛指標とQOLの低下は関連していた。
考察:HCV の排除には発がん抑止効果があったが、引き続き炎症と線維化の経過観察が必要で、M2BPGiは肝線維化の検出マーカーとして有用である。調査とPMDA支援結果より、肝がん発症時の治療の選択については、引き続き情報提供と病病連携の必要があると思われた。また、肝がん以外の悪性腫瘍、冠動脈疾患の早期発見のための体制づくりが必要である。多疾患を有し、連携支援を要する患者のために、支援人材確保が必要である。高率に運動機能の低下と疼痛が認められ、その治療対応が必要であるとともに、今後の日常生活動作・社会参加・家事・就労・通院・自己注射等の課題の増加が予想される。居住地変更・施設入所関連の支援も重要と考えられた。訪問看護や、iPad 等のITを用いた遠隔支援の重要性は今後さらに高まると思われた。
結論
多疾患と運動器障害・疼痛への同時対応が必要となりつつある。個別の病病連携、医療福祉連携、生活支援が必要で、通院支援、運動機能低下への治療、検診やリハビリ検診会等の予防的取り組み、訪問などのアウトリーチ、ITを用いた遠隔支援、居住地の選択への支援などを組み合わせた体制の構築が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等者の長期経過という未体験の分野の研究の学術的価値は国際的にも高い。
共感染HCVの治療後の経過観察と観察のためのマーカーの提示、虚血性心疾患の潜在率が高いことをしめしたこと、連携や支援の必要性の実態、運動機能やADLの公表意義は大きい。
臨床的観点からの成果
実践的な研究であるため、臨床にすぐ役立つ知見が得られている。肝繊維化マーカーや肝癌治療法、虚血性心疾患のスクリーニング、リハビリテーションの必要性などは主治医の疾患管理上、すぐに役に立つ。本人の訴えがなくても、課題整理のためにCNやMSW、心理士、リハビリ専門医との面談を設定することも有用であることが本研究からわかる。成果物の動画やチェックリスト類も有用である。
ガイドライン等の開発
エビデンスに基づいたガイドラインに収載されるためには、継続して研究成果の論文化が必要である。指針/マニュアル等のためには、すでにある本研究班及び先行木村班、あるいは他班の成果を、いかにターゲットゾーンに利用される形で示すか、医療体制班等との連携を要する。
その他行政的観点からの成果
薬害被害者の長期療養に関する実践的な研究であるため。研究自体が支援になっていること、実現可能性にも配慮した支援体制の構築を提案していること、患者視点を取り入れた研究をしていることから、国の責務である薬害被害者への恒久的支援に直接的に貢献し、行政的な価値が高い。また、予防や悪化予防の視点があり、医療経済学的にも効果的である。
その他のインパクト
薬害によるHIV感染血友病等症例は、比較的若く、複数の、専門的治療を要する疾患を有しつつ、介護等支援を要するようになりつつある、家族力が弱い、という特色がある。専門的な診療を担う医療機関と、慢性期維持期を管理するケア的医療の分化図式では対応できない。しかしいずれは、多くの他の日本人も、マルチモビディティ化し、また若年重症疾患からのサバイバーも増え、家族力はさらに低下が予想される。したがって、今後を先取りしたモデルの構築に繋がりうる。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
5施設でリハビリ検診会を開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
202020004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
72,500,000円
(2)補助金確定額
72,494,414円
差引額 [(1)-(2)]
5,586円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 21,071,844円
人件費・謝金 20,279,835円
旅費 265,426円
その他 14,147,309円
間接経費 16,730,000円
合計 72,494,414円

備考

備考
分担施設の北海道大学で残額が発生したため。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-