拠点病院集中型から地域連携を重視したHIV診療体制の構築を目標にした研究

文献情報

文献番号
202020003A
報告書区分
総括
研究課題名
拠点病院集中型から地域連携を重視したHIV診療体制の構築を目標にした研究
課題番号
H30-エイズ-一般-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
猪狩 英俊(国立大学法人 千葉大学 医学部附属病院感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 信一(順天堂大学医学部附属浦安病院 呼吸器内科)
  • 鈴木 明子(御子神 明子)(城西国際大学 看護学部)
  • 鈴木 貴明(千葉大学医学部附属病院薬剤部)
  • 坂本 洋右(千葉大学 医学部 附属病院 歯科顎口腔外科)
  • 谷口 俊文(国立大学法人 千葉大学 医学部附属病院・感染制御部)
  • 塚田 弘樹(東京慈恵会医科大学付属柏病院)
  • 高柳 晋(千葉大学 医学部 附属病院 感染制御部)
  • 葛田 衣重(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
拠点病院集中型のHIV 診療から地域連携を重視したHIV 診療体制の構築を目的とする。
背景として、強力な抗ウイルス療法が開発され、HIV/AIDS は長期生存が可能な疾患となった。この結果、HIV感染症患者の高齢化が確実に進み、求められる医療も多様化してきた。
このような課題に対処するには、HIV感染症患者のニーズと病態に配慮した柔軟な診療体制が求められる。これまでは、HIV 拠点病院集中型の診療を行ってきた。しかし、このような課題に対応するために、HIV 拠点病院と地域の医療機関との連携を重視した診療体制を構築することが必要になってきたと考える。
研究方法
千葉県HIV 拠点病院会議の活動基盤を利用する。千葉県内には拠点病院が10医療機関あり、千葉県内のHIV感染症診療体制を整備してきた。拠点病院会議は、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・ソーシャルワーカー・カウンセラーなどから構成される多職種組織である。
結果と考察
HIV感染症患者の地域分布と地域連携の基盤
千葉県の免疫機能障害で自立支援医療を受けている者は、1394人であった。(2020年3月31日現在) 免疫機能障害患者の増加と高齢化が現れている。
千葉市・船橋市・市川市・松戸市・柏市・浦安市の6自治体でおおよそ60%の免疫機能障害者がいる。
千葉市では72%の患者が千葉県内の医療機関を受診し、地域密着型の診療が行われていた。しかし、その他の東京隣接自治体では多くの患者が東京都内の医療機関を受診する東京依存型である。これらの潜在的HIV感染症患者を過小評価した場合、HIV感染症診療が後手に回るリスクがある。
高齢者福祉施設におけるHIV感染者受け入れ
HIV感染症患者の受入を目的に、高齢者福祉施設を対象に研修会を開催してきた。約6割がHIV感染症患者の地域連携、7割がHIV感染症患者の受入に理解を示した。高齢化したHIV感染症患者の円滑な受入れのためには、職員と管理者に対する正しい知識の周知・啓発が必要不可欠である。
心理カウンセラーの役割
千葉県内でHIV感染症のカウンセリングを担当できるカウンセラーは限定されていることが分かった。
HIV感染症患者の歯科医療体制整備
歯科医療機関における感染対策は脆弱であり、協力歯科医療機関が増加しない一因であことから千葉大学歯科口腔外科の関連病院を中心にHIV感染症患者の診療体制を整備した。
透析患者・慢性腎臓病患者の地域連携
千葉県透析医会からの協力を得て、積極的にHIV感染症患者で透析を必要とする患者を受け入れる体制を構築した。
地域の保険薬局の役割
自立支援医療の指定を受け、抗HIV薬の調剤に対応できる薬局は人口密度に準じて千葉県下の広範囲に立地している。地域の保険薬局での薬剤受け取りを希望する患者の要望に概ね応えることができると考えられた。
看護手順の標準化
規則的な受診、メンタルヘルスケア、合併症に対する聞き取り、家族関係、就業に関するものなどのデータベースを作成し、支援体制を整備した。これらは、千葉大学病院の診療に有用なものである。これをモデルケースとして、HIV感染症の診療経験のない医療機関でも応用できるものを目指した。
地域の看護体制
拠点病院と施設との地域連携を推進する目的で意見交換会を行い、効果的な啓発活動の在り方を検討した。HIV感染症が知られるようになってから30年以上経過しているが、知識と理解が停滞している医療従事者が多数おり、基礎的講習会の重要性を確認した。特に、HIV感染症患者からの講演は、極めてインパクトがあった。HIV感染症患者の診療については、概ね共感を得ることができ、積極的受入を表明する事業者も現れた。
ソーシャルワーキング
HIV陽性者は、治療継続に必要な公的制度は適切に利用でき、生活を支えるサービスも利用に困らない状況だったが、施設サービス利用は進んでいなかった。施設サービス利用を促進するために、HIV陽性者が利用できる「千葉県制度の手引き」を作成した。
結論
千葉県内には、HIV感染症患者に対応可能な医療インフラが存在することを確認した。
HIV感染症患者の受診行動をみると地域差がみられた。東京に隣接する地域では、患者数が多いにも関わらず、多くは東京都内の病院を受診している。HIV感染症患者の高齢化の実態が顕在化していない可能性がある。一方、千葉市内では、拠点病院を核とする診療体制が確立し、地域連携を行いやすい環境にあった。
地域連携は多職種連携である。しかしながら、HIV感染症に対する正しい知識が普及していない現状がある。このような状況は、患者の受入拒否の原因であり、地域連携の阻害因子になっている。医療従事者に正しい知識をもっていただくために、継続的な教育啓発活動は不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020003B
報告書区分
総合
研究課題名
拠点病院集中型から地域連携を重視したHIV診療体制の構築を目標にした研究
課題番号
H30-エイズ-一般-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
猪狩 英俊(国立大学法人 千葉大学 医学部附属病院感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 谷口 俊文(国立大学法人 千葉大学 医学部附属病院・感染制御部)
  • 高柳 晋(千葉大学 医学部 附属病院 感染制御部)
  • 葛田 衣重(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
  • 鈴木 明子(御子神 明子)(城西国際大学 看護学部)
  • 鈴木 貴明(千葉大学医学部附属病院薬剤部)
  • 塚田 弘樹(東京慈恵会医科大学付属柏病院)
  • 佐々木 信一(順天堂大学医学部附属浦安病院 呼吸器内科)
  • 坂本 洋右(千葉大学 医学部 附属病院 歯科顎口腔外科)
  • 丹沢 秀樹(千葉大学大学院医学研究院口腔科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
拠点病院集中型のHIV 診療から地域連携を重視したHIV 診療体制の構築を目的とする。
背景として、強力な抗ウイルス療法が開発され、HIV/AIDS は長期生存が可能な疾患となり、HIV感染症患者の高齢化・医療ニーズの多様化に対応できる医療体制が必要になった。我々は、エイズ拠点病院集中型の診療から、地域医療機関との連携を重視した診療体制を構築することを目的とする。
研究方法
千葉県HIV 拠点病院会議の活動基盤を利用し、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・ソーシャルワーカー・カウンセラーなどの多職種による研究を行った。
結果と考察
HIV感染症患者の地域分布と地域連携の基盤
千葉県の免疫機能障害で自立支援医療を受けている者は、1394人であった。(2020年3月31日現在) 年齢階級では、65歳以上、40-64歳以上の割合が徐々に高くなっている。
千葉市・船橋市・市川市・松戸市・柏市・浦安市の6自治体でおおよそ60%の免疫機能障害者がいる。
千葉市内のHIV感染症患者の受診動向と地域連携の基盤調査
HIV感染症患者の高齢化は、50歳以上は44%と高い状態が続き、受診医療機関は70%が千葉県内の医療機関を受診していたため、、地域連携の基盤が整備されていると考えられる。
東京近接地域の地域連携の可能性に関する研究
東京近接地域では東京依存型の受診行動であり、潜在的HIVの感染症患者を過小評価し、地域の現状インフラを過大評価すると、HIV感染症診療が後手に回るリスクがある。
地域病院へのHIVの感染症診療の連携
HIV感染症患者の居所(市町村)と感染防止対策加算1を算定している病院をマッピングすると、ほぼ一致することを確認した。医療インフラストラクチャーとして感染防止対策加算1を算定している医療機関は有力な地域連携の担い手である。
高齢者福祉施設におけるHIV感染者受け入れ 教育啓発活動についての調査
HIV感染症患者の受入を目的に、高齢者福祉施設を対象に研修会を開催した。研修成果として、約6割がHIV感染症患者の地域連携に理解を示し、7割がHIV感染症患者の受入に理解を示した。HIV感染症患者の高齢者福祉施設等への円滑な受入れのためには、正しい知識の周知・啓発が必要不可欠である。
心理カウンセラーの役割
千葉県内でHIV感染症のカウンセリングを担当できるカウンセラーは限定されていることが分かった。
HIV感染症患者の歯科医療体制整備
協力歯科医療機関の登録が滞っている。その原因に、歯科診療施設の脆弱な感染対策がある。歯科医療機関単独での感染対策には限界があり、地域の医療機関との連携も必要であるため、千葉大学歯科口腔外科の関連病院を中心にHIV感染症患者の診療体制を整備した。
透析患者CKD患者の地域連携
千葉県透析医会からの協力を得て、積極的にHIV感染症患者で透析を必要とする患者を受け入れる体制を構築した。
地域の保険薬局の役割
自立支援医療の指定を受け抗HIV薬の調剤に対応できる薬局は人口密度に準じて千葉県下の広範囲に立地しており、地域連携の基盤が整備されていた。
拠点病院の看護体制て
千葉大学病院では、HIV感染症患者の看護手順の標準化に向けた資料作成を行った。これをモデルケースとして、HIV感染症の診療経験のない医療機関でも応用できるものを目指している。
地域の看護体制
介護関連の施設では、HIV感染症に対する知識と理解が停滞している医療従事者が多数いるためHIV感染症に関する基礎的講習会を開催した。その結果、HIV感染症患者の診療への共感を得ることができ、積極的受入を表明する事業者も現れた。
ソーシャルワーキング
HIV陽性者は、治療継続に必要な公的制度は適切に利用でき、生活を支えるサービスも利用に困らない状況だったが、施設サービス利用は進んでいなかった。利用促進のために、HIV陽性者が利用できる「千葉県制度の手引き」を作成した。
結論
千葉県内には、HIV感染症患者に対応可能な医療インフラが存在することを確認した。
HIV感染症患者の受診行動をみると地域差がみられた。東京に隣接する地域では、東京依存型の受診行動であった。HIV感染症患者の高齢化の実態が顕在化していないが故に地域連携の障壁になる可能性がある。一方、千葉市内では拠点病院を核とする診療体制が確立し地域連携を行いやすい環境にあった。
地域連携は多職種連携であるが、HIV感染症に対する正しい知識が普及していない現状がある。それは患者の受入拒否の原因となり、地域連携の阻害因子になっている。医療従事者に正しい知識をもっていただくために継続的な教育啓発活動は不可欠である。
地域連携が進んでいった場合、拠点病院には、地域の指導的役割と地域連携統括機能をもつ存在が重要になると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
歯科診療機関における感染対策についての脆弱性が明らかになりました。マニュアルの整備(整備しているのは49%)、感染対策に関する講習(未実施が51%)など、感染対策の基本的な部分不十分でした。HIV感染症患者への歯科診療の機会を拡充することが求められています。しかし、このような状況では、針刺し事故などが発生するリスクは高く、事故発生時に適切な対応がとれない可能性があることが示されました。
臨床的観点からの成果
HIV感染症患者の透析医療について、千葉県透析医会との協力関係を構築しました。千葉県透析医会からは、HIV感染症患者の積極的な受け入れを表明していただきました。千葉大学医学部附属病院では、HIV感染症患者の感染対策に関する講習、HIV感染症の最新治療に関する情報提供を通して、継続的に透析医療機関の支援を行います。
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発はありません。
その他行政的観点からの成果
HIV陽性者は、治療継続に必要な公的制度は適切に利用でき、生活を支えるサービスも利用に困らない状況だった。しかし、施設サービス利用は進んでいなかった。施設サービス利用を促進するために、HIV陽性者が利用できる「千葉県 制度の手引き」を作成した。
千葉県HIV拠点病院会議を年2回開催し、多職種による課題の抽出と、討論の場を設定した。
その他のインパクト
千葉県健康福祉部が実施する街頭HIV匿名検査(毎回200人、年4回)へ医師・カウンセラーを派遣しその取り組みを支援しています。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
40件
講演11件、講習会29件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
2024-06-05

収支報告書

文献番号
202020003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,892,070円
人件費・謝金 4,375,359円
旅費 5,680円
その他 2,687,999円
間接経費 3,000,000円
合計 12,961,108円

備考

備考
新型コロナウイルス感染症拡大により、経費の支出に想定外の減少があったため。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-