エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究

文献情報

文献番号
202020001A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
課題番号
H30-エイズ-一般-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 塚田 訓久(国立国際医療センター戸山病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日に改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。このために、エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理するとともに、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家との討議を通じて各種課題を解決の方策を議論する。令和2年度は、昨年度に引き続き「予防指針に基づく課題の一覧表」とHIV関連の研究事業の報告書の解析結果に基づき、以下の3課題に着目した研究を行った。即ち1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含むLate Presenterに対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題である。
研究方法
第34回日本エイズ学会学術集会にてシンポジウムを企画し、予防指針にかかわる多くの専門家や当事者を集めて議論を深めた。ART早期治療導入の妨げとなる要因を明らかにするため、診療録を用いた後方視的検討を行った。近年増加を続ける伝播クラスタの背景因子調査の為、HIV薬剤耐性班のクラスタについてベイズ推定法による時間系統樹を推定し、患者背景と合わせて解析した。また、クラスタの背景にあるMSM集団の行動様式やグループ化傾向を知るため、NGOにヒアリングを行った。これにより明らかとなったコミュニティの把握困難な層(hard-to-reach層)の心理的特徴を検討する手法「AIによるフリーテキスト解析」を開発した。変化する予防啓発の分野におけるPrEPやU=Uなどの認知度に関するモニタリングのため、一般成人におけるインターネット調査を試みた。
結果と考察
新規感染予防における全世界共通の2大戦略は「早期診断・早期全例治療」と「高リスク者を対象とした曝露前予防内服(PrEP)」であるが、日本においてはいずれの体制も整備されていない。加えて、令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで予防啓発の基盤としていたMSMコミュニティの活動も一時休止状態となり、保健所での検査機会も減少した。一方でU=Uの浸透は低く、PrEPの個人使用は増加した。またHIV陽性者も新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、早期受診、定期受診の遅れ、受診中断が増えている恐れがあり、継続的に動向を把握し、対応できる体制を整備していく必要がある。これまでの研究で、国内には、二つの大きな伝播クラスタが存在することが明らかとなった。一つは、中高年で小さなグループを形成する群であり、もう一つは比較的若年で従来のコミュニティとの交流が難しい群が想定された。HIV-1の国内伝播クラスタの大半が縮小傾向にある中で、HIVの伝播が止まっていないことを示した。NGOへのヒアリングは、MSMグループの多様化で把握困難な層が存在することを再確認できた。これらの症例の早期発見のため、マーケティング研究の手法を用いたテキストマイニング調査を企画したが、コロナ禍のため実施は延期された。国立国際医療研究センターのデータによると、初診時から全例治療可能となった場合、診断後3ヶ月で他者への感染性が失われることが示唆された。予防指針において早期治療導入の検討は、国が主体として取り組むべき課題と明記されており、HIV感染症と診断された全例が早期に抗HIV療法を開始し継続できるよう、認定基準の見直し,あるいは身体障害者手帳・自立支援医療制度を補完する新たな医療費負担軽減システムの構築を進める必要がある。
結論
日本においてART開始の必要条件となる身体障害者手帳の認定基準が、予防指針に掲げられた目的達成の支障となっており、現状に即した医療費助成制度への修正が必要である。新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで予防啓発の基盤としていたMSMコミュニティの活動も一時休止状態となっており、保健所での検査機会も減少している。一方でU=Uの浸透は低く、PrEP使用も増えてきている。またHIV陽性者にも新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、早期受診、定期受診の遅れ、受診中断が増えてくることが予測される。そのため、今後も継続的に動向を把握し、対応できる体制を整備していく必要がある。また、予防啓発に関わる人が日本では圧倒的に少ない。予防啓発を持続的に広範囲に進めるには、コミュニティワーカーのような、コミュニティの中で動ける専門家の育成が重要である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202020001B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
課題番号
H30-エイズ-一般-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 塚田 訓久(国立国際医療センター戸山病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界におけるエイズ/HIV感染症を取り巻く状況は、抗ウイルス療法(ART)の飛躍的進歩によって大きく変貌した。ARTの早期導入は生命予後の改善ばかりではなく、パートナーへの感染予防効果も示し、U=Uというメッセージ性に強い普及啓発に至った。また、暴露前予防投与(PrEP)の有効性が証明され、新規感染例が半減するなどの効果が報告されている。一方、我が国におけるエイズ対策は、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(エイズ予防指針)に沿って展開されてきたが、新規感染者数・患者数の減少は限定的である。本研究の目的は、平成30年1月18日付けで改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。
研究方法
エイズ予防指針の課題を基礎・臨床・社会の各分担研究者を通じて、研究協力者と各分野の視点で整理し、課題解決の方策について意見交換した。第32~34回の日本エイズ学会学術集会にて、予防指針に関連するシンポジウムを企画、問題点を整理した。関連する厚労省研究班並びにシンポジウムに出席し、情報収集を行い意見交換した。ART早期導入の妨げとなる要因を探るため、診療録を用いた後方視的検討を行った。薬剤耐性動向班で集められたHIVの遺伝子配列を再分析し、「最初の90」が達成できない集団の特徴を解析した。性産業従事者(CSW)におけるHIV検査行動などに関し、A社が保有するアンケートモニター登録者を対象に調査した。PrEPやU=Uなどの認知度に関するモニタリングのため、一般成人におけるインターネット調査を試みた。MSMコミュニティとの共同研究や情報交換のため、コミュニティセンターHACO(福岡)、ぷれいす東京(東京)、acta(東京)、dista (大阪)、Mabui(沖縄)において会議を開催した。
結果と考察
初年度は、予防指針改定に合わせて、どのような施策が計画されたか、実態調査を行い、併せて優先的に取り組むべき課題を整理した。課題整理の方法として、エイズ予防指針の各項目について「課題チェックシート」を作成した。見出された82の「課題の一覧表」の中で、特に改訂で加えられた施策のキーワードである「郵送検査」「医療機関での検査」「早期治療導入」「根治治療」「ゲノム療法」「外国人」「抗HIV薬」「PrEP」「ワクチン」「動向調査」「MSM」について、過去の研究課題をマイニングしたところ、エイズ予防指針と関連の深い2種類のクラスタが判明した。これらはケアカスケードの「最初の90」達成のための研究と推測できた。様々な専門家(医療従事者、基礎研究者、NGO団体関係者、行政担当者等)との討議を深めた結果、次の予防指針改定までに議論を深めるべき優先順位が高い課題として、1)早期診断治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含む”Late Presenter”に対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題が確認された。早期診断の標的集団を明らかにするため、耐性動向研究班で集められた遺伝子配列を再分析したところ、最近拡大したクラスタの特徴として若年と中年以上の層という2つのキー集団が明らかとなった。我が国においては、現行の免疫機能障害の認定基準に適合する症例であっても、診断から治療開始までに72日間を要している。基準に適合しない症例や受診中断する症例も10%程度存在した。我が国の新規症例の半数を占める“Late Presenter”対策に関して討議を重ね、「AIによるフリーテキスト解析」の企画を立ち上げた。PrEPの日本への導入に向けた諸課題の整理を行い、コミュニティの役割などへの理解が深まった。わが国におけるCSWのHIV検査・予防の取り組みの実態を明らかにした。
結論
「エイズ予防指針に基づく課題の一覧表」を用いた分析の結果、議論を深めるべき優先順位が高い課題として、1)早期診断・治療のための仕組み作り、2)エイズ発症例を含む”Late Presenter”に対する対策、3) PrEP導入を踏まえた日本におけるコンビネーションHIV予防の3課題が確認された。予防指針に沿った施策の実現のため、行政・医療・コミュニティの協働は必要不可欠だが、感染予防やARTの進歩に対応した施策の提案が必要である。具体的には、PrEP導入をきっかけとして、community advisory boardを設置し、コミュニティと協働して感染予防と検査勧奨に係る人材の育成が喫緊の課題である。予防指針の目標達成に重要な「早期治療」を実現するためには、国が主体となった制度面の工夫も必須である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202020001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV対策を考える上で早期診断(recent infection)やlate presenterの把握は重要な課題である。世界では診断時のCD4数に加え、いくつかの指標を組み合わせたMulti Assay Algorithm (MAA)が用いられている。我が国のHIV検査体制にavidity testを組み込むことは現実的ではないため、ウイルスゲノムデータと臨床データのみから早期診断の判定を試み、国際学会に報告した。
臨床的観点からの成果
エイズ予防指針に基づく施策に関して、都道府県を対象としたモニタリング調査を継続した。HIV対策は自治体の感染症専門部署や拠点病院を中心に行われてきたが、HIV担当者が他の感染症にも担当する為、コロナ禍では大きな影響を受けた。各自治体の負担軽減のためには、業務の外部委託や対面からWebへの移行に加え、先行する成功事例に関する情報共有など自治体の枠を超えた連携体制の構築が有用であった。医療体制では、HIV感染者の高齢化に対応した、医療・福祉・介護などの領域が連携した取り組みが期待されている。
ガイドライン等の開発
日本エイズ学会内に組織したPrEP導入準備委員会にて、水島班、谷口班と共同して地域におけるPrEP導入促進のためのガイドライン(PrEPの診療指針、国内承認後の実施体制)を作成し、学会のホームページに公開し、当事者を含めた幅広い人々の意見を集約した。現在、プライベートクリニックで行われている郵送検査やPrEPの現状に関して、第37回日本エイズ学会で討議した。
その他行政的観点からの成果
令和5年度に行われた「第1回~3回 エイズ予防指針の見直しに向けた打合せ会」において研究成果を報告した。令和6年度に計画されているエイズ予防指針の改定に生かされる予定である。

その他のインパクト
第37回日本エイズ学会総会にて、「エイズ予防指針・新時代の課題」というシンポジウムを企画、12名の登壇者を始めとして多くの参加者による討議を行った。HIV検査体制がコロナ禍により大きな影響を受け、早期検査が大きく後退したままになっている地域がある。郵送検査の活用を含めたウィズコロナ時代における検査体制の構築が急務である。また、プライベートクリニックで行われている郵送検査やPrEPにおける問題点も指摘され、我が国におけるPrEPの体制整備に関しても多くの意見が得られた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-07-05
更新日
2024-06-13

収支報告書

文献番号
202020001Z