遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究

文献情報

文献番号
202019034A
報告書区分
総括
研究課題名
遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究
課題番号
20HA2008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
斉藤 久子(千葉大学大学院医学研究院 法医学)
研究分担者(所属機関)
  • 河岡 義裕(東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野)
  • 秋冨 慎司(医療社団法人 医凰会 医療危機管理部)
  • 鈴木 忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 牛久 哲男(東京大学大学院 人体病理学・病理診断学)
  • 槇野 陽介(東京大学大学院 医学系研究科法医学)
  • 永澤 明佳(千葉大学 大学院医学研究院附属 法医学教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
36,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の解剖事例報告が海外に比べて少なく,COVID-19遺体に関するデータが少ない.本研究では,国内における「COVID-19遺体解剖における感染管理マニュアル」策定のために,COVID-19遺体における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染性評価に関する11課題の分担研究を実施した.
研究方法
 1)COVID-19患者病理解剖実態(2020年12月~2021年1月)を調査した.2)SARS-CoV-2迅速検出であるスマートアンプ法を検討した.3)SARS-CoV-2感染実験動物死体と非感染動物との同居によるウイルス伝播を調査した.4)COVID-19遺体に残存する感染性ウイルスを調査した.5)COVID-19法医解剖事例(2021年1月~12月)における死後CT所見を検討した.6) COVID-19遺体解剖での検体の感染病理学的解析及びネクロプシーを検討した.7) COVID-19遺体の検視・検案における課題を抽出した.8)令和2年7月豪雨時(熊本県)におけるご遺体の歯科所見採取実態を調査した.9)COVID-19遺体への遺体衛生保全(エンバーミング:EM)処置効果を検討した.10)COVID-19遺体における解剖及びCT撮影に関する感染管理マニュアルを策定した.11)COVID-19遺体解剖に適切な感染対策用ロングガウンを検討した.
結果と考察
 1)アンケート調査に回答した227施設中,剖検実施は10施設であった.多くの施設において,設備の不十分な感染対策や個人防護具の不足などにより,解剖実施において消極的にならざるを得なかったと考えられた.2)スマートアンプ法は,ご遺体の鼻咽頭及び口咽頭でPCR法と同じ結果であった.本法は,検出がPCR法より短時間であり,モバイル型の機器の使用により解剖現場や遺体安置所でも有用であると思われた.3)感染動物死体と非感染動物の同居により,ウイルスは死体から生体へ伝播したが,感染動物死体の鼻腔,口腔及び肛門の封鎖を行った結果,死体から生体へのウイルス伝播を認めなかった.従って,COVID-19遺体の腔部への封鎖処置が重要であることが示唆された.4)COVID-19遺体の鼻咽頭及び肺組織において,11例中6例,30検体中13検体で感染性ウイルスが残存した.ご遺体に残存する感染性ウイルスの有無は,感染から死亡,死亡から発見までの温度や時間及び環境に影響されることが示唆された.5)COVID-19解剖事例での典型的な死後CT所見は,組織学的にはびまん性肺胞傷害の所見とよく対応しており,この所見があれば,体内のウイルス量が多い傾向を認めた.鼻咽頭のウイルス検査と死後CTの組み合わせは,感染リスクを最小限に抑え,死因究明にも役立つものと考えられた.6) COVID-19遺体の肺組織における感染病理学的解析手法を整備した.ネクロプシーは,複数の肺組織検体を用いた組織評価及び遺伝子検査にて正確な病態評価が可能となることが示唆された.7)検視・検案時の課題点としては,濃厚接触者と接した関係者の暴露からの感染リスク,ご家族の心情への配慮やグリーフケアの観点などが挙げられ,ご遺体に携わる職種への感染症遺体の取扱いに関する指針や研修が必要であると思われた.8)身元確認のための歯科所見採取は,口腔内写真より行なわれたため感染防護体制などは評価できなかったが,感染症蔓延時の災害時身元確認では各関係機関の連携体制が重要であると思われた.9)COVID-19遺体のEM処置後では,鼻咽頭の抗原検査は陰性,PCR検査はほとんどの事例の外表では陰性となり,ご家族は対面での葬儀が可能となった.EMはご家族のグリーフケア効果にも繋がると思われた.10)施設,個人防護具及び作業手順の3要素に基づく「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方の解剖及びCT撮影に関する感染管理マニュアル」を策定した.新たな変異株の感染経路が従来と異なる場合には,本マニュアルの改訂を行うべきである.11)COVID-19遺体の解剖では,電動ファン付き呼吸用保護具(Powered Air Purifying Respirator: PAPR)と感染対策用ロングガウンの組み合わせが望ましいと思われる.
結論
 COVID-19遺体に残存するSARS-CoV-2は感染力を有している場合もあることから,解剖は施設,個人防護具及び作業手順を考慮した感染防護体制で実施すべきである.また, COVID-19遺体にはエンゼルケア(逝去時ケア)様の腔部封鎖処置が有効である.今後,感染症遺体は増加すると思われることから,国,行政機関及び関係施設は,当該経験を踏まえて,感染防護体制のさらなる検討を行う必要があると考える.

公開日・更新日

公開日
2023-02-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-02-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202019034C

収支報告書

文献番号
202019034Z