細菌の薬剤耐性機構解析に基づいた多職種連携による効率的・効果的な院内耐性菌制御の確立のための研究

文献情報

文献番号
202019014A
報告書区分
総括
研究課題名
細菌の薬剤耐性機構解析に基づいた多職種連携による効率的・効果的な院内耐性菌制御の確立のための研究
課題番号
19HA1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
大毛 宏喜(国立大学法人広島大学 病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 八木 哲也(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 矢原 耕史(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 医学部 臨床感染症学講座)
  • 村木 優一(京都薬科大学 薬学部 臨床薬剤疫学分野)
  • 小椋 正道(東海大学 医学部 看護学科)
  • 清祐 麻紀子(九州大学病院 検査部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 感染防止対策加算を算定していない比較的小規模な医療機関や高齢者施設に対する感染対策の必要性に着目して本研究を開始した.限られた医療・介護資源を有効に活用するには,期待できるアウトカムなど明確な根拠が求められる.基礎的な解析やデータベースを活用し,多職種の視点による政策提言を目的とする.
研究方法
 特に基礎研究者と臨床の多職種連携を特徴とする本研究班は,その特性を生かしてデータに基づいた根拠のある効率的な薬剤耐性対策の立案を目指している.初年度に引き続き2年目は①高齢者施設における耐性菌保有状況とその影響の調査,②地域での薬剤耐性菌の分子疫学解析に基づいた伝播メカニズム検討,③二次医療圏での抗菌薬使用調査,④Diagnostic stewardshipガイドの原案作成,を主に行った.①では広島県内の社会福祉施設5施設で,入所者より口腔内ぬぐい液および便検体を採取し,ESBL産生菌およびカルバペネム耐性腸内細菌科細菌の分離同定と遺伝子解析を行った.また耐性菌保菌の影響評価として,高齢者医療施設において同意が得られた入所者を対象に,耐性菌の保菌軍と非保菌群とで各種パラメータの比較と観察を行った.②では地域連携施設でのカルバペネマーゼ産生菌のプラスミド解析や,高病原性MRSAクローンの流行状況調査を実施し,分子疫学的な伝播経路の解析を試みた.③では広島県の二次医療圏における抗菌薬使用状況の把握を田辺班で入手したナショナルデータベースにおける二次医療圏の集計表情報を使用して評価した.さらに厚生労働省より公表されている平成29年度のDPCデータを用いて,カルバペネム系薬の標準化/予測使用モデルの構築を行った.④では抗菌薬適正使用の基本となる微生物検査について,検査前・検査・検査後のそれぞれのポイントで押さえるべき注意点を整理した.
結果と考察
 高齢者施設における薬剤耐性菌の保菌調査および感染症の予後に関する研究では,高齢者施設における入所者の耐性菌保菌調査で,口腔内および便検体から高頻度にESBL産生菌等の耐性菌を分離した.ESBL産生菌の保菌は抗菌薬投与歴との間に関連を示唆する結果が得られた.また口腔内ESBL産生菌の分離が生存期間との有意な関連を示していた.
 分子疫学解析に基づいた地域連携に関する研究では,地域連携を通じて収集したカルバペネマーゼ産生株の分析で特定のシークエンス型が複数の医療機関広がっていることが明らかになった.また菌血症から分離されたMRSAと予後との関係を検討した結果,TSST-1やSEAといった毒素遺伝子を産生する株を分離した症例の予後が不良であることが明らかになった.
 抗菌薬使用状況の解析に関する研究では,抗菌薬含有外用薬の使用量は,経口・注射用抗菌薬の40%を占めていることが明らかになった.適正な抗菌薬選択のためのDiagnostic Stewardshipに関する研究では,検体提出時のチェック表や,検査結果の具体的な報告例を盛り込んだものを作成中である.また検査の標準化を目指す上で課題となる外部委託検査については,現状調査を継続して行い,その結果に基づいた対応を検討した.
結論
 高齢者施設での薬剤耐性菌の保菌が予後に影響することを証明したのは,検索しうる限りでは本研究が初めてと考える.しかもその拡がりは地域連携と密接に関与しており,地域単位での耐性菌対策が不可欠である.検査の適正化とそれに基づいた抗菌薬適正使用を,高齢者施設での耐性菌対策に加味すれば,根拠と厚みのある薬剤耐性菌対策の施策立案が可能と考えている.

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202019014Z