急性弛緩性麻痺、急性脳炎・脳症等の神経疾患に関する網羅的病原体検索を含めた原因及び病態の究明、治療法の確立に資する臨床疫学研究

文献情報

文献番号
202019012A
報告書区分
総括
研究課題名
急性弛緩性麻痺、急性脳炎・脳症等の神経疾患に関する網羅的病原体検索を含めた原因及び病態の究明、治療法の確立に資する臨床疫学研究
課題番号
19HA1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 林 昌宏(国立感染症研究所ウイルス第1部第3室)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 原 誠(日本大学 医学部 内科学系 神経内科学分野)
  • 八代 将登(岡山大学病院 小児科)
  • 細矢 光亮(公立大学法人福島県立医科大学 医学部 小児科学講座)
  • 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部 医学教育推進講座)
  • 鳥巣 浩幸(九州大学 大学病院 小児科)
  • 森 墾(東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻放射線医学講座放射線診断学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
8,223,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2015・2018年に多発したAFPの全国調査を行い、治療・予後改善法を検討する。AFPの電気生理学的特徴を明らかにし、神経障害の病態解明に繋げる。AFM小児例の運動障害の長期的な転帰と障害レベルを明らかにし、腕神経叢病変の研究を行う。2015・2018年発症AFPの画像所見を比較し特徴を明らかにする。
自己免疫性脳炎の診断法を開発し、地衛研においては急性脳炎・脳症、AFP病原体検査の実態調査を行う。感染研においては、日本脳炎(JE)及びダニ媒介脳炎(TBE)の鑑別診断を行い、網羅的病原体検索を実施する。検体採取法、保管・搬送法、検査・診断法・手順を確立し、国内検査フローの改善を図る。COVID-19流行下における小児の鼻咽頭ぬぐい液の採取にウイルスガードが応用可能かどうかを明らかにする。福島県においては、小児の神経疾患入院例を全数把握し、発生動向と原因を調査する。
研究方法
①AFP症例の症状、病原体検索、神経画像所見、神経生理学的所見について解析し、AFMの病態解明を行う。②感染症発生動向調査(急性脳炎・脳症・AFP)を疫学的に解析し、国内のdisease burdenを明らかにする。③福島県で小児急性脳炎・脳症・AFPの全数把握を行い、感染症発生動向調査の補足率を検討する。④COVID-19流行下での検体採取法の確立と病原体検索の重要性について啓発を行う。⑤自己免疫性脳炎の診断法確立のため、抗神経抗体測定系の確立から臨床応用に繋げる。⑤地方衛生研究所における急性脳炎・脳症・AFPの病原体検索の現状を明らかにし、病原体不明急性脳炎・脳症・AFPの病原体検索を行う。⑥適切な臨床検体の採取時期・採取法・保管・搬送法を全国の医療機関に普及させ、網羅的な病原体解析を行う。⑤で病原体不明であった症例については、国立感染症研究所(感染研)の倫理承認(平成31年承認)に基づいて、臨床・疫学情報、急性期5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)及び急性期と回復期のペア血清を搬送依頼し、網羅的病原体遺伝子の検出を行い、JE、TBE特異的IgM抗体測定を行う。
結果と考察
2009-20年に感染症発生動向調査に報告された急性脳炎・脳症は6,319人で、2020年は過去5年と比較して少なく488人であった。原因不明急性脳炎・脳症14人から採取された100検体について網羅的病原体検索を実施し4人(29%)から発症に関与した可能性がある病原体が検出された(PV-B19、Ad-56、CoxA4、Mumpsウイルス+ヒトボカウイルス)。JE及びTBEは否定された。自己免疫性脳炎の診断アルゴリズムについて検討した。
2018年5月~2020年第16週までに257人のAFPが報告された。2019、20年は推定年間報告数(154人)より少なかった。年齢中央値4歳、男女差はなかった。検出病原体はライノウイルス、Coxウイルス、EV-D68が続いた。ポリオウイルスは検出されなかった。
AFM症例は半数に長大な脊髄縦走病変を認め、急性期は灰白質+白質に病変を認めた。Gd造影効果は、発症早期には低率で、やや遅れて出現した。AFM症例の神経生理学的特徴は、運動神経の軸索型障害であった。2018年のAFM画像所見は、2015年と類似し再現性があった。AFM発症3年後予後調査では、障害レベルは全般的に改善し、運動機能障害の改善が期待できた。AFMは脊髄前角ニューロン以外に腕神経叢も障害されている可能性があった。
2020年1年間に、福島県で発生した小児急性脳炎・脳症は5人(fluA:1例、水痘:1例、不明:3例)で、AFP、ADEMはなかった。AFP由来検体の病原体検査フローの問題点を検討し「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き 」改訂作業を進めた。急性脳炎・脳症・AFPについて、地衛研で実施している病原体探索内容を明らかにした。小児、特に乳幼児において鼻咽頭拭い液採取にウイルスガードは有用であった。
結論
2020年は過去5年間と比較し急性脳炎・脳症は少なかった。原因不明症例29%から発症に関与した可能性のある病原体が検出され、JE及びTBEは否定された。AFP症例からポリオウイルスの検出はなかった。地衛研での病原体探索内容を明らかにした。「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き 」改訂作業を行った。AFMの神経生理学的特徴は、運動神経の軸索型障害で、画像所見は長大な脊髄縦走病変が多く、急性期には灰白質+白質に病変を認めた。ガドリニウム造影効果はやや遅れて出現した。AFM発症3年目の長期予後調査では障害レベルは全般的に改善していた。

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202019012Z