愛玩動物由来感染症のリスク評価及び対策に資する、発生状況・病原体及び宿主動物に関する研究

文献情報

文献番号
202019002A
報告書区分
総括
研究課題名
愛玩動物由来感染症のリスク評価及び対策に資する、発生状況・病原体及び宿主動物に関する研究
課題番号
H30-新興行政-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 道雄(国立感染症研究所獣医科学部)
  • 森嶋 康之(国立感染症研究所寄生動物部)
  • 福士 秀人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 宇根 有美(岡山理科大学獣医学部)
  • 小野 文子(岡山理科大学獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
年々高齢化が進んでいるが、愛玩動物の飼育者は増加し、飼育形態や関係の変化により、その距離もますます近く、ひいては感染リスクも増大している。イヌ・ネコだけでも20%を越える世帯で飼育され、高齢者世帯でも高い飼育率を示している。特にこの1年は、新型コロナウイルス感染症流行下での生活環境の変化に伴い、愛玩動物との接触時間の増加のみならず、安易な購入・飼育開始も増えたようである。ホストの免疫状態低下や高齢は感染のリスク因子だが、愛玩動物由来感染症に関する知識不足もリスク因子の一つである。本研究では、最も身近なイヌ・ネコ由来感染症、野生動物から愛玩動物を介して感染する感染症、愛玩鳥類由来感染症、エキゾチックペット及び輸入動物由来感染症、愛玩動物の耐性菌について検討し、エビデンス等の成果を反映して情報発信を行う。
研究方法
(1) 各種愛玩動物由来感染症の発生状況調査、(2) Capnocytophaga canimorsus国内分離株の薬剤耐性遺伝子の同定と莢膜遺伝子型のタイピング、(3) エキノコックス症は、愛知県の野犬の陽性率調査、北海道の農村部飼育犬調査と飼育管理状況と認知度等のアンケート調査、(4)クラミジア目感染症では、ドバトのChlamydia psittaci、野良猫ではC. felisの保有状況調査、(5) 愛玩用エキゾチックアニマルの流通過程や展示施設における動物の異常死、集団死、大量死事例を検索し原因解明と対策情報の提供、 (6) 薬剤耐性菌では、地域猫および家庭飼育猫における薬剤耐性菌保有率調査、(7) 得られた知見を元に一般飼育者・国民に対する啓発のための情報発信を行う。
結果と考察
(1) 多くの愛玩動物由来感染症があるが、実は感染症法対象外の疾病が多く患者発生状況の把握が困難である。法整備や医療機関との連携、市民を対象としたアンケート等による実態調査が必要である。(2) 国内臨床分離株で97%を占める莢膜型A~Cが国内イヌ・ネコ口腔分離株26株からは検出されなかった。国内症例は累計114例、大半が敗血症の重症例で、致死率は約20%である。近年、質量分析装置が普及し病院検査室で菌種同定が可能になったが、感染症法による届出義務がなく症例数把握が難しく実態把握も困難である。(3) 愛知県の野外採取犬糞便1/62検体が陽性だった。北海道農村部のイヌ飼育管理者のアンケート調査により、イヌのエキノコックス感染経路の知識が十分ではなく、啓発が必要だと思われた。 (4) 本調査ではドバト糞からクラミジアは検出されなかったが、保有には季節性があるとの報告があるので継続調査が必要である。野良猫調査により44/198がC. felis感染していた。野外の猫に触れる場合には、感染リスクを考慮する必要がある。また、41/95匹のマダニからクラミジア目細菌が検出され、環境クラミジアと考えられた。(5) アメリカから輸入したフェレット50匹すべてが空港到着時に死亡しており、調査により感染症ではなく熱中症と推察した。ただ、フェレットと近縁のミンクがSARS-CoV-2に感染しヒトへの感染源として報告されていることから、同様の事例に注意が必要である。TNRでは、SFTS抗体保有猫はいなかったが、4/100頭からC. ulceransが分離され、ジフテリア毒素遺伝子も有していた。(6) 臨床猫検体6/13、地域猫検体5/20よりESBL産生菌の可能性のある菌株が検出された。伴侶動物の大腸菌からESBL産生菌の分離率は約11%という報告があり、現在、臨床例からは13%検出され、ほぼ同様の結果だった。一方、地域猫は検出率3%と低く、人為的な要因の関与が強く示唆された。(7) 研究班の成果を踏まえたアウトプットとして、「動物由来感染症ハンドブック」を2021版へ改訂した。本改訂では、SARS-CoV-2の情報を追加した。(8) 犬ブルセラ症検査用のB. canis抗原のシングルサプライヤーが急遽、製造中止を決めた。そのため、民間臨床検査機関で検査ができなくなる事態がもたらされた。シングルサプライヤーとしての社会的重みを考えると、中止にいたる準備・周知期間等に改善される余地があった。このような事態が二度とは起こらないよう、類似する状況にある事柄に対して行政対応が必要である。
結論
愛玩動物由来感染症について総合的な視点でそのリスクを評価し、これを低減させる取り組みを科学的な根拠に基づいて提案できる研究班として位置付けられるものである。その成果の一環として発信される愛玩動物由来感染症の知識(現状、病原体、感染経路、予防法など)に関する情報を発信してきた。愛玩動物に関わりを持つ者には啓発となり、愛玩動物由来感染症対策を講じる行政関係者等に対しては知見と方策を提供する。

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202019002B
報告書区分
総合
研究課題名
愛玩動物由来感染症のリスク評価及び対策に資する、発生状況・病原体及び宿主動物に関する研究
課題番号
H30-新興行政-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 道雄(国立感染症研究所獣医科学部)
  • 森嶋 康之(国立感染症研究所寄生動物部)
  • 大屋 賢司(岐阜大学応用生物科学部)
  • 福士 秀人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 宇根 有美(岡山理科大学獣医学部)
  • 小野 文子(岡山理科大学獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者の交代:大屋賢司(平成30年4月1日~30年10月31日)→福士秀人(平成30年11月1日以降)。大屋賢司の所属機関変更のため。

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、愛玩動物の飼育者は増加し、飼育形態や関係の変化など、緊密化により感染リスクも増大している。一般的に感染症は、ホストの免疫状態が低下すればするほど易感染性となり、かつ重症化しやすく、高齢はその重要なリスク因子でもある。よって、愛玩動物由来感染症は今後、注意を要し、対策を早急に講じておくべき公衆衛生上の問題である。本研究では、その発生状況、病原性発現機構、各宿主動物における侵淫状況等を検討し、リスク評価を行い、また、そのリスクに応じた適切な検査・治療方法、対処・予防方法を開発、明示していく。このことは、公衆衛生上、強く要望されている事項である。
研究方法
1) 感染症法に基づく感染症のうち、広義の動物由来感染症と考えられる疾病について、その患者報告数を調査。2) カプノサイトファーガ感染症発生状況の調査、臨床分離株の収集、莢膜型遺伝子タイピング。薬剤感受性試験と薬剤耐性遺伝子探索。3) エキノコックスの感染実態調査。北海道の犬飼育者の意識調査。野犬発生状況調査。4) クラミジア検出法の精査と、鳥類、ネコ、ダニにおけるクラミジアの保有状況を調査。5) 愛玩用・展示用エキゾチックアニマルの異常死や大量死事例の病性鑑定を実施し、原因を検討。当該者に対応について助言。TNR活動で地域ネコの病原体保有調査。6) 地域ネコ、動物病院での健常ネコや疾患ネコから大腸菌を分離しAMRの検索・同定。家庭動物に関するアンケート調査。
結果と考察
1) 日本は世界でも例外的に動物由来感染症の発生が少ない。感染症法の対象外の疾患の方が患者数は多いようである。細菌や寄生虫感染症が多く、ウイルス感染症が少ない。2) (1) C. canimorsus国内分離株のゲノム上に存在するβ-ラクタマーゼ等の薬剤耐性遺伝子を同定し、その保有状況を明らかにした。(2) C. canimorsus国内分離株の莢膜遺伝子型のタイピングにより、患者分離株で主要な莢膜型が、イヌ・ネコ口腔内分離株では検出されず、両者の莢膜遺伝子型の構成比が大きく異なることを明らかにした。3) (1) 愛知県知多半島の野犬調査により継続的にエキノコックス陽性例を検出し、その定着中心地を明らかにした。(2) 北海道の農村部飼育犬は実際には従来の知見よりもエキノコックス感染率が高いことを明らかにした。4) クラミジア感染症では、愛玩鳥における保有率が4.8%と変わりなくリスクが継続していることを示した。TNR猫(Trap-Neuter-Release)の調査により、22.2%がC. felisに感染していることを示した。5) エキゾチックアニマル関連では、(1)展示施設や流通過程の異常死・大量死の原因を解明し、動物および人への感染拡大阻止対策を行った。(2)TNR猫におけるSFTSV、C. ulcerans、クラミジアなどの感染状況調査を実施し、その公衆衛生上のリスクをTNR事業者、地方自治体などに注意喚起した。(3) 海外からの動物由来感染症侵入阻止のため、愛玩用に輸入され国内の空港に死着したフェレットを疫学的、病理学的、ウイルス学的に検討し感染症でないことを示した。6) (1) TNR猫の薬剤耐性菌保有率を明らかにした。(2)動物病院に来院した家庭猫のうち、治療処置を行っている動物は、むしろTNR猫よりも高いAMR保有率を示し、多剤耐性菌も認められた。7) これらの成果は論文、学会報告、総説等により適宜、情報発信を行った。また厚労省HP「カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A」の更新、さらに、「動物由来感染症ハンドブック」の2019版への改訂において、その改訂作業を担当し、当研究班の目的とする、一般国民に啓発する必要がある、国内で感染患者が報告されている、より身近な(愛玩)動物からの感染が危惧される動物由来感染症に重点をおいた改訂を行った。以降も毎年、当該ハンドブック更新版への改訂作業に協力している。
結論
愛玩動物の飼育に伴う、感染症を含め種々の問題を考える上でリスク「0」はあり得ない。従って、愛玩動物飼育時は、リスクを「0」に近づける努力や注意、知識の習得が必要である。飼育者や愛玩動物に業として携わる者に、適切な情報を提示し、どのようなリスクが存在するのか、どうすればリスク低減が可能となるかなどについて、理解してもらうことが必要である。本研究では、現在国内で起こっている感染症を中心に、さらに、認知度は低いが重篤な症状の感染症、あまり注意が払われていなかった愛玩動物と耐性菌の問題など、国民が現実的に直面しうる問題に焦点を当てた。これら成果を元に、国民に対して適切な情報・知識の啓発を行うことは、愛玩動物由来感染症の発生数の低下をもたらし、公衆衛生行政への寄与に結びつく、継続して実施されるべきことである。

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202019002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
第1・2回以降の追記事項:特記事項なし。その後の研究成果等については「21HA2001」に継承されている。
臨床的観点からの成果
第1・2回以降の追記事項:特記事項なし。その後の研究成果等については「21HA2001」に継承されている。
ガイドライン等の開発
第1・2回以降の追記事項:特記事項なし。その後の研究成果等については「21HA2001」に継承されている。
その他行政的観点からの成果
第1・2回以降の追記事項:民間検査機関で検査不能となったブルセラ症抗体検査について、検査用Brucella canis抗原を作成し、行政検査としてブルセラ症疑い患者の抗体検査・診断を継続して実施している。その後の研究成果等については「21HA2001」に継承されている。
その他のインパクト
第1・2回以降の追記事項:特記事項なし。その後の研究成果等については「21HA2001」に継承されている。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
Q&A作成1件、民間検査機関で検査実施が不可能となったことに伴うブルセラ症検査診断体制の構築と検査実施開始(厚労省との協議・打ち合わせによる。変更に関して自治体、医療関連機関への厚労省からの通知発信)
その他成果(普及・啓発活動)
2件
プレスリリース2件(ヘビ真菌症、エキノコックス症関連。それぞれ複数のプレスに対して)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukui H, Shimoda H, Kadekaru S et al
Rabbit hemorrhagic disease virus type 2 epidemic in a rabbit colony in Japan.
J Vet Med Sci , 83 (5) , 841-845  (2021)
10.1292/jvms.21-0007
原著論文2
Tamukai K, Minami S, Kadekaru S et al
New canine parvovirus 2a infection in an imported Asian small-clawed otter (Aonyx cinereus) in Japan.
J Vet Med Sci , 83 (3) , 507-511  (2021)
10.1292/jvms.20-0480
原著論文3
Suzuki M, Umeda K, Kimura M et al
Capnocytophaga felis sp. nov. isolated from the feline oral cavity.
Int J Syst Evol , 70 (5) , 3355-3360  (2020)
10.1099/ijsem.0.004176
原著論文4
Tamukai K, Minami S, Kurihara R et al
Molecular evidence for vaccine-induced canine distemper virus and canine adenovirus 2 coinfection in a fennec fox.
J Vet Diagn Invest , 32 (4) , 598-603  (2020)
10.1177/1040638720934809
原著論文5
Kuroki K, Morishima Y, Neil J et al
Intestinal echinococcosis in a dog from Missouri.
J Am Vet Med Assoc , 256 (9) , 1041-1046  (2020)
10.2460/javma.256.9.1041
原著論文6
Kouguchi H, Furuoka H, Irie T et al
Adult worm exclusion and histological data of dogs repeatedly infected with the cestode Echinococcus multilocularis.
Data Brief , 29  (2020)
10.1016/j.dib.2020.105353
原著論文7
Tamukai K, Sugiyama J, Nagata Y et al
Epidemic nodular facial myxomatous dermatitis in juvenile Cranwell's horned frogs Ceratophrys cranwelli.
Dis Aquat Organ , 134 (1) , 57-64  (2019)
10.3354/dao03358
原著論文8
Irie T, Yamada K, Morishima Y et al
High probability of pet dogs encountering the sylvatic cycle of Echinococcus multilocularis in a rural area in Hokkaido, Japan.
J Vet Med Sci , 81 (11) , 1606-1608  (2019)
10.1292/jvms.19-0307
原著論文9
Takami Y, Nam KO, Une Y et al
First report of ophidiomycosis in Asia caused by Ophidiomyces ophiodiicola in captive snakes in Japan
J Vet Med Sci. ,  83 (8) , 1234-1239  (2021)
doi: 10.1292/jvms.21-0177
原著論文10
Takami Y, Nam KO, Une Y et al.
First report of ophidiomycosis in Asia caused by Ophidiomyces ophiodiicola in captive snakes in Japan
J Vet Med Sci , 83 (8) , 1234-1239  (2021)
doi: 10.1292/jvms.21-0177
原著論文11
Suzuki M, Imaoka K, Kimura M et al.,
Capnocytophaga catalasegens sp. nov. isolated from feline oral cavities
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology , 73 (3)  (2023)
doi: 10.1099/ijsem.0.005731

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
2024-05-28

収支報告書

文献番号
202019002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,393,897円
人件費・謝金 682,688円
旅費 449,350円
その他 1,124,072円
間接経費 1,350,000円
合計 10,000,007円

備考

備考
消耗品の購入に際して差が生じた。自己資金にて充当した。

公開日・更新日

公開日
2022-03-29
更新日
-