文献情報
文献番号
202018050A
報告書区分
総括
研究課題名
精神疾患患者の身体リスク管理を行う上で必要な手順書の作成
課題番号
20GC1024
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
染矢 俊幸(新潟大学 大学院医歯学総合研究科精神医学分野)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木 雄太郎(新潟大学医歯学総合病院)
- 須貝 拓朗(新潟大学 医学部総合医学教育センター)
- 古郡 規雄(獨協医科大学 医学部精神神経医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
精神疾患を有する患者の身体的健康管理を行う上で向精神薬によって惹起される身体リスクの問題は欠かせないが、中でも心電図異常や悪性症候群、lithium 中毒、重症薬疹といった素早く対応しなければ短期間で患者の生命予後に影響を及ぼすものと、肥満や糖尿病のような長期の経過の中で死亡率増加につながるものがある。身体リスク発症を事前に予測することは現時点で困難であり、向精神薬を用いる際は、身体リスクの早期発見、早期対応のために、定期的なモニタリングが不可欠であるが、実臨床では十分に行われていない。また、向精神薬の副作用に対応したガイドラインは数多くあるものの、現時点でこれらガイドラインが有効に活用されているかは疑問である。
本研究の目的は、生命予後にも影響し得る代表的な5つの身体的リスク(①糖・脂質代謝異常 ②心電図異常 ③lithium 中毒 ④重症薬疹 ⑤悪性症候群)に関しこれらを管理するうえで必要な手順書を作成することにある。
本研究の目的は、生命予後にも影響し得る代表的な5つの身体的リスク(①糖・脂質代謝異常 ②心電図異常 ③lithium 中毒 ④重症薬疹 ⑤悪性症候群)に関しこれらを管理するうえで必要な手順書を作成することにある。
研究方法
本研究は、令和2年11月13日~令和3年3月31日にかけ、以下の方法を用いて行われた。
1. 生命予後に影響を与えうる重篤な身体リスク(①糖・脂質代謝異常 ②心電図異常 ③Lithium中毒 ④重症薬疹 ⑤悪性症候群)に関するガイドラインを文献検索サイト(PubMed、NIH、NML、CiNii)により網羅的に検索する。
2. 文献検索により、各ガイドラインにおける薬剤選択、用量設定、増量速度、薬剤置換の条件、身体モニタリング(体重・身長測定、血液生化学検査、心電図)の頻度などを国際間で比較分析する。
上記結果を包括的に分析し、本邦の精神科医療体制に適した手順書を作成した。
1. 生命予後に影響を与えうる重篤な身体リスク(①糖・脂質代謝異常 ②心電図異常 ③Lithium中毒 ④重症薬疹 ⑤悪性症候群)に関するガイドラインを文献検索サイト(PubMed、NIH、NML、CiNii)により網羅的に検索する。
2. 文献検索により、各ガイドラインにおける薬剤選択、用量設定、増量速度、薬剤置換の条件、身体モニタリング(体重・身長測定、血液生化学検査、心電図)の頻度などを国際間で比較分析する。
上記結果を包括的に分析し、本邦の精神科医療体制に適した手順書を作成した。
結果と考察
本研究では糖・脂質代謝異常、心電図異常、Lithium中毒、重症薬疹、悪性症候群の5領域のガイドラインを取り上げ、文献レビューを行った。いずれの領域でも薬剤選択について、リスクの高い薬剤から低いものへの変薬が推奨されているが、症状悪化のリスクも伴うため、患者との相談など共同意思決定のプロセスが有用である可能性がうかがえた。
糖・脂質代謝異常に関するガイドラインは主に統合失調症治療を念頭としたガイドラインでの記載が多かった。モニタリングについては、細部の違いはあるものの、投与開始当初の3カ月は比較的高頻度、それ以後はリスクが高い患者以外では1年に1回まで緩和されるスケジュールであった。
心電図異常については、投与開始前、増量中の頻回な検査を除けば、1年に1回の検査実施を推奨するものが多かった。全ての患者について、心血管疾患の既往歴、家族歴の聴取を行ったうえ、リスク因子を複数有する患者においては高用量、多剤併用を避けることも重要である。
Lithium中毒については、投与開始前、増量中の頻回な検査を除けば、6カ月に1回の検査実施を推奨するものが多かった。一方、これに付随して行われる甲状腺機能、腎機能、カルシウム値の検査については、頻度はガイドラインごとに違うものの、Lithiumの濃度測定のものよりは頻度が下がっていた。
重症薬疹については、独立して章立てられることは少なく、カルバマゼピンやラモトリギンの副作用として記載されているガイドラインが多かった。後者については増量の速度を緩徐にしておくこと、併用薬に注意することが共通して強調されることが多かった。薬疹を管理するためのモニタリング計画を示しにくいこともあり、早期の治療的介入を可能とするため、心理教育の一環として適切な副作用の情報提供を行う有用性が高いと考えられた。
悪性症候群については、おおよそ投与開始初期に生じえる副作用であることがうかがえた。抗精神病薬を中止し、全身のモニタリング管理、輸液などの身体治療を行う方向性と、追加的治療として、ベンゾジアゼピン系薬剤、ダントロレン、ブロモクリプチン、ECTなどを挙げることも共通していた。抗精神病薬の中止、全身のモニタリング管理および輸液で症状が改善するのであれば、追加的治療を全例に推奨しなくてもよい可能性がある。
糖・脂質代謝異常に関するガイドラインは主に統合失調症治療を念頭としたガイドラインでの記載が多かった。モニタリングについては、細部の違いはあるものの、投与開始当初の3カ月は比較的高頻度、それ以後はリスクが高い患者以外では1年に1回まで緩和されるスケジュールであった。
心電図異常については、投与開始前、増量中の頻回な検査を除けば、1年に1回の検査実施を推奨するものが多かった。全ての患者について、心血管疾患の既往歴、家族歴の聴取を行ったうえ、リスク因子を複数有する患者においては高用量、多剤併用を避けることも重要である。
Lithium中毒については、投与開始前、増量中の頻回な検査を除けば、6カ月に1回の検査実施を推奨するものが多かった。一方、これに付随して行われる甲状腺機能、腎機能、カルシウム値の検査については、頻度はガイドラインごとに違うものの、Lithiumの濃度測定のものよりは頻度が下がっていた。
重症薬疹については、独立して章立てられることは少なく、カルバマゼピンやラモトリギンの副作用として記載されているガイドラインが多かった。後者については増量の速度を緩徐にしておくこと、併用薬に注意することが共通して強調されることが多かった。薬疹を管理するためのモニタリング計画を示しにくいこともあり、早期の治療的介入を可能とするため、心理教育の一環として適切な副作用の情報提供を行う有用性が高いと考えられた。
悪性症候群については、おおよそ投与開始初期に生じえる副作用であることがうかがえた。抗精神病薬を中止し、全身のモニタリング管理、輸液などの身体治療を行う方向性と、追加的治療として、ベンゾジアゼピン系薬剤、ダントロレン、ブロモクリプチン、ECTなどを挙げることも共通していた。抗精神病薬の中止、全身のモニタリング管理および輸液で症状が改善するのであれば、追加的治療を全例に推奨しなくてもよい可能性がある。
結論
精神疾患罹患者の生命予後に影響を与えうる重篤な身体リスクに関するガイドラインについて、文献レビューを行った。糖・脂質代謝異常、心電図異常、Lithium中毒のモニタリング計画に関しては、おおよそ共通する部分もあり、そこからわが国の実情に適した計画を立案できるものと推察された。重症薬疹については添付文書の記載を遵守するだけでなく、心理教育の一環としてこうした副作用についての情報提供を行う有用性が高いと考えられた。悪性症候群では、抗精神病薬の中止、全身のモニタリング管理、輸液といった基本的介入を中心に必要に応じて追加的治療を検討する方向性を検討すべきである。
公開日・更新日
公開日
2021-09-14
更新日
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