精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究

文献情報

文献番号
202018047A
報告書区分
総括
研究課題名
精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究
課題番号
20GC1021
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
西 大輔(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 精神看護学分野)
  • 神庭 重信(日本うつ病センター)
  • 竹島 正(大正大学地域構想研究所)
  • 亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)
  • 臼田 謙太郎(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 公共精神健康医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども期の逆境体験(ACEs)の頻度は高く、米国では研究参加者の52.1%が18歳以前に1つ以上の、6.2%は4つ以上のACEsを経験しており、4つ以上のACEsを体験している人はACEsがない人に比べて非常に多くの精神・身体疾患の発症リスクが増大することが示されている。
ACEsの頻度の高さと影響の大きさが明らかになったこと等から、近年「トラウマインフォームドケア(TIC)」が注目されている。TICはPTSDに特化した治療ではなく、ACEsのようなトラウマ体験の影響を理解し、当事者がトラウマを体験したことが明らかではなくともその可能性を念頭に置き、それを踏まえた対応を通常の医療やサービスの中に組み込んでいくことである(2)。TICは患者の症状緩和や支援者の燃えつきを予防する可能性がJAMAでも指摘され、既にTICのための手引きも出版されている。
ただ、わが国においてTICの実践に向けた取り組みは進んでいるとは言えない。そこで本研究では、精神保健に関わる支援者がトラウマ体験の影響をどのように認識し、潜在的なトラウマ体験者にどのように対応しているかについて実態を把握するとともに、TICのための有用な研修および指針を作成することを目的とする。令和2年度は精神保健福祉センター・保健所および医療従事者のTICに関する実態把握と、研修・指針の試案を作成することを目的とした。
研究方法
1.医療従事者のTICに関する実態把握
TICに関する知識・態度・力量・実施へのハードル・実践について評価する自己記入式質問紙TIC Provider Surveyの日本語版を開発し、医療従事者のTICに関する実態を把握することを目的として、医療従事者を対象としたオンライン調査を行った。
2.精神保健福祉センター長を対象とした調査(調査1)、保健所長を対象とした調査(調査2)、精神保健福祉センター相談スタッフを対象とした調査(調査3)の3つの調査を行った。調査1は全国69箇所の精神保健福祉センター長を対象として、TICに関する現状での実践状況やニーズ等について各センターの状況を代表して回答を求めた。調査2は全国47の保健所長を対象として、TICに関する現状での実践状況やニーズ等について各保健所の状況を代表して回答を求めた。47の保健所は、各都道府県の代表保健所を対象とした。調査3は各精神保健福祉センターで普段相談業務を担当している常勤スタッフ(各センター5名を最大として)を対象とした調査を行った。
3.研修と指針の作成
先行研究およびエキスパートからの意見をもとに指針試案とインタビューガイドを作成したうえで、精神科医療機関で勤務経験のある看護師(研究参加者としては1人、分担研究者・研究協力者として5人)および精神科医療機関に入院経験のある当事者(4人)からヒアリングを行い、その内容を踏まえて研修資材と指針を開発することとした。
結果と考察
1.医療従事者のTICに関する実態把握
日本の医療従事者は、米国の医療従事者と比較してTICに関する知識や力量、実践が不足している可能性が示唆された。また、時間的制約・業務範囲の制約・研修を受けられないこと・TICに関するエビデンスの分かりにくさ・TICを行うことでさらに患者に精神的負担をかけてしまうのではないかという心配が、TICの実践の障壁となっていることが示唆された。また、TIC Provider Survey日本語版は、2021年に実施予定の、TIC研修の効果を検討する実証研究の看護師アウトカムとして用いられる予定である。
2.精神保健福祉センターと保健所におけるTICに関する実態把握
調査1では、具体的な取り組みを行っている精神保健福祉センターは全国的にはまだ少ない一方で、約6割のセンターはTICに関する研修を実施する必要性を感じており、TICの知識・スキルを研修で向上させたりスライド資料が提供されたりすれば多くのセンターがTICに関する取り組みを発展させる可能性が考えられた。
調査2では、保健所においてはTICという言葉に触れる機会自体がまだ少なく、概念の普及が進んでいないことが示唆された。
調査3では、精神保健福祉センター職員には一定程度TICの概念が既に浸透していること、ケース対応においてTICの潜在的なニーズがあることが示唆された。
結論
オンライン調査や精神保健福祉センターの調査からは、医療従事者や精神保健福祉センターではTICに関する一定の知識やニーズはあるものの、研修の不足等がTICの実践の障壁となっていることが示唆された。本研究班で先行研究とエキスパートからの意見、およびヒアリングに基づいて作成した研修動画およびガイダンスの有効性が担保されれば、わが国におけるTICの普及発展に少なからず寄与するものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202018047Z