高次脳機能障害の診断方法と診断基準に資する研究

文献情報

文献番号
202018044A
報告書区分
総括
研究課題名
高次脳機能障害の診断方法と診断基準に資する研究
課題番号
20GC1018
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
三村 將(慶應義塾大学 医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邉 修(東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座)
  • 高畑 圭輔(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構  量子生命・医学部門 量子医科学研究所)
  • 村松 太郎(慶應義塾大学 医学部精神・神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
失語・失行・失認等を除いた「いわゆる高次脳機能障害」ないし「行政的高次脳機能障害」は比較的日本で特有に発展してきた概念である。したがって現在の日本の高次脳機能障害診断基準ガイドラインは、国際的診断であるICDやDSMにおける器質性精神障害の概念とは今一つそぐわない面を持ちつつも、医療現場等で活用されてきた。現在、現行の高次脳機能障害診断基準ガイドラインが築定され、高次脳機能障害者支援の手引きの中にまとめられた平成20年と比べると、高次脳機能障害に関する知見も著しく増大しており、診療報酬請求や障害者手帳申請に直接かかわるICDが第11版となる令和3年に向けて高次脳機能障害者診断の再整理を行うことは意義が大きい。
 本研究はこの目的のため、臨床現場での高次脳機能障害の診断についてのデータを十分に収集したうえで、臨床神経心理学、精神科診断学、脳画像解析などの各領域に造詣の深い研究者が、高次脳機能障害の診断について包括的で十分な議論を行う場を構築する。高次脳機能障害の診断においては、MRI、CT、脳波などにより脳の器質的病変の存在が確認されることが診断基準に入っているが、明らかな脳損傷の機転があっても通常臨床で用いられる脳画像検査で特異的な所見が得られないことはしばしば経験する。このような例をどう扱うかはクリテイカルな問題であり、さらに精密かつ先端的な画像診断によって客観的所見を見出すことができるかも本研究の一つの目的である。また、そのようにしてもなお画像所見が得られないケースにおいて、高次脳機能障害の診断根拠を見出す精緻な神経心理学検査や評価法の検討・開発も行う。
研究方法
研究分担者である渡邊と研究協力者の深津が、我が国の現場での高次脳機能障害の診断実態をアンケートによって明らかにする。全国の500施設に調査票を配布し、300施設程度からの回収を期待する。このうち特に、脳画像所見が陰性で診断名がつかず、支援に苦慮した症例100例を収集する。
脳画像診断、特に脳外傷慢性期の画像診断を専門とする研究分担者の高畑が、高次脳機能障害についての従来の画像診断法及び最新の画像診断法についてレビューを行う。これらの手法の中から、頭部外傷による慢性期の症状に関連するマーカーの抽出を試みる。また、近年国内外で社会問題になっている慢性外傷性脳症(CTE)など、頭部外傷によって引き起こされる遅発性脳障害の実態についてのレビューも行う。
神経心理学を専門とする村松太郎が、高次脳機能障害の診断における神経心理学的検査について、臨床および社会(民事・刑事裁判を含む)での適用の実態についてレビューを行う。このとき、神経心理学的検査以外の臨床症状はもちろん、脳画像所見や、対象者をめぐる社会的状況といった要因の影響にも着目する。さらに村松は精神科診断学の立場から、我が国の臨床現場で用いられている診断体系における高次脳機能障害の位置づけを症候学をもとに文献レビューにより整理する。ICDについては特に重視し、新たなICD-11における器質性精神障害と日本の高次脳機能障害診断基準ガイドラインの関係を明らかにする。
結果と考察
高次脳機能障害の診断実態調査については、アンケート作成中である。脳画像診断、神経心理学的検査については、文献レビューを開始した。このうち、医学文献については、医学論文データベース(Pubmed)を「高次脳機能障害」をキーワードとし、総計約3000件の原著論文から100件を抽出して全文を精査し、今後のレビュー等の方向性を考察した。また、法学文献については、判例データベース(LEX/DB)を「高次脳機能障害」をキーワードとし、総計約900件の刑事・民事判例から約400件を抽出して全文を精査し、今後のレビュー等の方向性を考察した。
結論
文献レビューにおいては、方向性が定まりつつあるという意味では大きな進歩が得られている。すなわち、医学文献については、単に高次脳機能障害をキーワードとして検索を進めるのではなく、社会的行動障害等に焦点を絞る方が有意義であるという結論が得られつつある。法学文献については、現行の高次脳機能障害診断基準ガイドライン、さらにはWHOの軽度外傷性脳損傷(MTBI)、自賠責の「脳外傷による高次脳機能障害」といった複数の概念が高次脳機能障害をめぐる裁判実務で用いられていることが判明した。文献レビュー以外の課題については、開始準備を進めている段階である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202018044Z