治療抵抗性統合失調症薬の安全性の検証による望ましい普及と体制構築に向けた研究

文献情報

文献番号
202018043A
報告書区分
総括
研究課題名
治療抵抗性統合失調症薬の安全性の検証による望ましい普及と体制構築に向けた研究
課題番号
20GC1017
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
上野 雄文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部)
  • 古川 壽亮(国立大学法人京都大学 大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野)
  • 古郡 規雄(獨協医科大学 医学部)
  • 稲田 健(東京女子医科大学医学部精神医学講座)
  • 新津 富央(千葉大学 大学院医学研究院 精神医学)
  • 金沢 徹文(大阪医科薬科大学 神経精神医学教室)
  • 宇野 準二(桶狭間病院藤田こころケアセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,463,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治療抵抗性統合失調症患者への薬物療法としてクロザピンの投与が推奨されている。しかし他の薬物療法に比べて副作用の発現が多く一旦発症すると致死的になる可能性が 指摘されているために使用をためらうということが考えられる。ガイドラインが非常に厳しく使用にあたってはデータベースに登録が義務付けられ内科医との連携ができる病院のみに使用が許されている。そのため処方率が極めて低く治療抵抗性患者にとっては唯一の薬物療法であるクロザピン加療にあずかることの出来ない例が多くあると考えられる。そのためデータベースに登録されている白血球数、好中球数をもとに解析を行い理解を深めることが重要と考えられる。血中濃度を把握している症例もあり副作用に与える影響も検討可能である。また 諸外国の処方の現状を調査することで本邦との違いが何によって起こるものかを研究する。施設、患者の側からも何がクロザピン導入の妨げになっているのかをアンケートによって調査する。このような検討を行い治療抵抗性統合失調症患者へのクロザピンの導入をしやすくすることを目指す。
研究方法
1.現在国内でクロザピンを処方する際に登録を行っているCPMSデータを解析した。2009年~2020年についてのデータの解析を行った。 
2.クロザピン処方における投与基準に関して諸外国での承認時の資料や国内外の文献を用いて比較を行った。
3.血中濃度の測定を行なっている患者の中で中止になった事例がどれほど含まれているかを研究した。
4.クロザピン治療に関する医療機関へのアンケートの素案を作成した。促進因子・阻害因子となり得る項目を検討した。
5.クロザピン治療に関する当事者・家族へのアンケート調査を作成した。予備的調査を行なった。
結果と考察
1. 全体の年齢の中央値は40歳で、男性4470人、女性は3793人であった。クロザピン使用量の中央値は280.4mg。白血球減少は352例(52週以前)と106例(52週以降)で認め、無顆粒球症は52週以前の発生は79例で、52週以降の発生も5例に認めた。中断について40歳以上、オランザピンに耐容性不良群、クロザピンの再投与群、白血球数6000/ mm3未満が独立したリスク因子である。
2. 各国の白血球数や好中球数の基準や、採血間隔に関する本邦および西欧各国の基準を比較した。クロザピンの導入時に入院を義務付けているのは本邦だけである。導入するときの基準では白血球数は諸外国が3500/ mm3以上に対して本邦は4000/mm3以上と基準が厳しい。投与中止の基準では本邦と比べ、カナダでは白血球数の基準が2000/mm3未満とより緩く、アメリカでは好中球数が1000/mm3未満の場合に投与中止としている。安定期の本邦の採血間隔は最長2週に1回に対して、諸外国では採血間隔を最長4週間にしている。耐糖能モニタリングの比較において諸外国では基準やモニタリングの間隔は定めていない。諸外国では空腹時血糖を治療開始時、1ヶ月後、その後は4-6ヶ月 ごとに測定することを推奨しているのみである。
 一方、本邦では糖尿病リスクの度合いによりプロトコールA、B、Cの基準に分け、血糖値あるいはHbA1cのための採血頻度を規定している。さらに、プロトコールごとへ糖尿病内科へのコンサルトの度合いを定めている。このように血糖値・HbA1cの規定は日本特有であり、諸外国とは大きく異なる。
3.クロザピン血中濃度を追跡できている症例は329例であり、中止を確認できている症例は9例(うち白血球減少症が4例)。白血球減少症での血中濃度は1例で低値、3例で高値であった。
4. クロザピン治療に関する医療機関へのアンケートの素案を作成し、予備的調査を行った。クロザピン使用医療機関の8割が、CPMS基準の緩和を希望していた。「外来での採血間隔の延長」「18週の入院期間」「白血球/好中球数の基準」の緩和の希望が多かった。クロザピン使用医療機関の8割が、 クロザピン血中濃度測定の利用を希望していた。
5. クロザピン治療に関する当事者・家族へのアンケート調査の一部を作成し、予備的調査を行った。通院間隔は2週と4週のどちらが良いかというアンケートによる予備的調査を患者あるいは家族に行ったところ、A.血球減少リスクの観点から27% vs 46% 、 B.高血糖リスク・21% vs 46% 、C.採血の点から・33% vs 46% D.治療費の点から・17% vs 67%、E.通院時間・16% vs 64%、F.活動影響を受ける・17% vs 63%、総じて通院間隔は・13% vs 71%と4週間隔を希望するものが多かった。
結論
副作用の危険度を把握しつつ患者ニーズに答えていくことでクロザピンの導入がしやすくなると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
2023-10-03

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202018043Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,000,000円
(2)補助金確定額
11,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,788,948円
人件費・謝金 2,708,304円
旅費 4,160円
その他 2,961,661円
間接経費 2,537,000円
合計 11,000,073円

備考

備考
支出のうち73円は自己資金で賄った。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-