文献情報
文献番号
202018040A
報告書区分
総括
研究課題名
電話リレーサービスの担い手となる通訳者の養成のための研究
課題番号
20GC1014
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
中野 聡子(国立大学法人群馬大学 共同教育学部)
研究分担者(所属機関)
- 金澤 貴之(群馬大学 共同教育学部)
- 能美 由希子(群馬大学 共同教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
11,550,000円
研究者交替、所属機関変更
能美由希子(令和2年4月1日〜令和3年11月30日)→能美由希子(令和2年4月1日〜令和3年3月31日)
研究報告書(概要版)
研究目的
令和2年6月12日に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が公布され,令和3年7月1日から公共インフラとしての電話リレーサービス(Telecommunication Relay Service, 以下TRS)が開始された。質の高いTRSを提供するための要件の1つが,聴覚障害者と聴者のやりとりをつなぐ手話通訳オペレータ,文字通訳オペレータの養成教育である。本研究では,オペレータのなり手として想定されている手話通訳・要約筆記資格所持者の実態を明らかにしたうえで,TRSの利用者の特性や通訳オペレーション業務に関わる本質的理論と実務上の知識技能を身に着けた問題解決力の高いオペレータを養成可能にするカリキュラムを構築する。
研究方法
研究1:「通話者/通話内容の多様性」「通訳オペレーションに必要な言語/通訳スキル」「TRSと意思疎通支援事業の通訳者の役割における違い」「現行の手話通訳・要約筆記制度との比較にみるTRS通訳の機能・役割」「デマンド・コントロール・スキーマからみた職業倫理に則った判断」「オペレータの身体的/心理的負担」の観点から,TRSに関する文献研究を行った。また,手話通訳者の言語スキル不足について,養成段階に遡り,成人聴者の第二言語としての日本手話習得の実態把握を行った。
研究2:定量調査(通訳資格所持者,日本財団TRSモデルプロジェクトのCA及び利用者を対象としたオンラインアンケート調査)を実施した。
研究3:定性調査(事業者,CA,利用者を対象としたインタビュー調査)を実施した。
定量調査については,要約筆記資格所持者の回答結果の分析と考察,定性調査については,事業者と手話通訳/文字通訳オペレータのインタビュー結果の分析と考察まで終了している。
研究2:定量調査(通訳資格所持者,日本財団TRSモデルプロジェクトのCA及び利用者を対象としたオンラインアンケート調査)を実施した。
研究3:定性調査(事業者,CA,利用者を対象としたインタビュー調査)を実施した。
定量調査については,要約筆記資格所持者の回答結果の分析と考察,定性調査については,事業者と手話通訳/文字通訳オペレータのインタビュー結果の分析と考察まで終了している。
結果と考察
①手話通訳・要約筆記の資格保持は,TRSの通訳オペレーションの一部においてアドバンテージとはなりうるものの,TRSのオペレータに求められる機能・役割は,障害者総合支援法の意思疎通支援事業を初めとして,現行の手話通訳・要約筆記制度において求められるものと異なっており,厚生労働省の手話通訳者養成カリキュラム,要約筆記者養成カリキュラムにおいて学ぶ知識やスキルのみで,TRSに通訳オペレーション業務に対応することは難しい。②文字通訳リレーサービスは,要約筆記の主要なサービス対象であった中途失聴者・難聴者のみならず,手話を母語/第一言語,主要コミュニケーション手段とするろう者の利用が多いことから,利用者の第二言語としての日本語運用の実態を考慮した文字通訳オペレーションが要求される。③手話通訳者の言語スキル不足は著しい。④TRSの利用者とかけ先のコミュニケーションを円滑につなぐための職業倫理に則った判断は,ハウツー的に学べるものではない。擬似通訳オペレーション場面のシナリオ教材を利用したり,現場実習前後のケース検討を行うといった形で,コンテクストを構造的に分析し,そこから職業倫理に則った意思決定判断を行う,自分が行った判断を振り返るというプロセスを繰り返して練習していくことが重要だと考えられる。①〜④の結果に基づき,令和2年度に作成したプロトタイプカリキュラムに修正を加えて,手話通訳/文字通訳オペレータ共通の合計35時間からなるカリキュラム案を策定した。
本カリキュラムは,以下4点の特徴を有する。
◆先天性聴覚障害者の言語感覚・日本語運用力・認知特性・電話プロトコルの知識,ろう文化・聴文化の違いによるコミュニケーションギャップに関する知識を実践的に学べるようにする。
◆通訳オペレーションにおいてオペレータが対応すべき課題を構造的に分析し,職業倫理に則った公平,公正,そして効果的な判断を下せるようにするため,デマンド・コントロール・スキーマ(DC-S)を導入する。
◆アクティブ・ラーニングを多く取り入れることで理論と実践を結び付けられるようにする。
◆アクティブ・ラーニングを効果的なものにし,また知識と技術の向上に対する能動的な学習態度を育てるために反転学習を取り入れる。
本カリキュラムは,以下4点の特徴を有する。
◆先天性聴覚障害者の言語感覚・日本語運用力・認知特性・電話プロトコルの知識,ろう文化・聴文化の違いによるコミュニケーションギャップに関する知識を実践的に学べるようにする。
◆通訳オペレーションにおいてオペレータが対応すべき課題を構造的に分析し,職業倫理に則った公平,公正,そして効果的な判断を下せるようにするため,デマンド・コントロール・スキーマ(DC-S)を導入する。
◆アクティブ・ラーニングを多く取り入れることで理論と実践を結び付けられるようにする。
◆アクティブ・ラーニングを効果的なものにし,また知識と技術の向上に対する能動的な学習態度を育てるために反転学習を取り入れる。
結論
オンラインアンケート調査の一部(手話通訳資格所持者,利用者),インタビュー調査(利用者)の結果の分析と考察が進行状態となっているものの,TRSのオペレータに必要な知識とスキルについて,その内容項目を挙げるだけでなく効果的に習得できる理論的枠組み,指導・学習法に言及した養成カリキュラム案が策定できた。このようなカリキュラムが完成に近づきつつあることは,公共インフラとしてのTRSの質を担保する点で意義の大きい成果であると言える。
公開日・更新日
公開日
2021-09-14
更新日
2022-02-01