文献情報
文献番号
202018019A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の適切な継続・減量・中止等の精神科薬物療法の出口戦略の実践に資する研究
課題番号
19GC1012
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
三島 和夫(国立大学法人秋田大学 大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 橋本 亮太(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部)
- 渡辺 範雄(医療法人社団蘇生会 蘇生会総合病院)
- 吉尾 隆(東邦大学薬学部)
- 稲田 健(東京女子医科大学医学部精神医学講座)
- 加藤 正樹(関西医科大学医学部)
- 岸 太郎(藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学)
- 高江洲 義和(琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座)
- 岡田 俊(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部)
- 安田 由華(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部)
- 青木 裕見(聖路加国際大学 大学大学院看護学研究科 精神看護学)
- 大坪 天平(東京女子医科大学東医療センター 精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
11,574,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
向精神薬の多剤併用と漫然とした長期処方に起因する副作用リスクに関する臨床および社会的な懸念が強まっている状況を鑑み、本研究事業では向精神薬を用いた精神科薬物療法の益と害に関するエビデンスの収集と専門家によるコンセンサス会議を通じて現状の問題点を整理し、安全で安心な出口戦略(安全な長期維持療法もしくは減量中止法とその共同意志決定手順)に資する患者用資材(Decision Aid; DA)とその実践マニュアルを作成した。実践マニュアルを作成した。
研究方法
向精神薬の処方実態の解明と適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインに関する研究で作成した「精神科薬物療法の出口戦略に関するガイドライン(仮称)」の根拠となったシステマティックレビュー・メタ解析の分析結果を元に、精神疾患ごとの寛解・治癒基準とその臨床評価法、適正な維持薬物療法のあり方、各向精神薬の安全で効果的な減量中止法などに関する先行研究の精査を行った。DAの作成に際しては、International Patient Decision Aid Standards instrument (IPDASi) version4.0に則った。IPDASiは、DAの国際基準であり、介入がDAであると見なされるために必須とされる資格基準6項目、満たさない場合はDAに有害な偏りが生じている危険性があると判断される認定基準10項目、さらにDAを強化するものであるが省略しても有害な偏りが生じる危険性を示さない質基準28の合計44で構成されている。治療選択肢(長期維持療法および減薬・中止)の益と害については精神科薬物療法の出口戦略に関するガイドラインの根拠となったシステマティックレビュー・メタ解析の分析結果を元にした。調査実施施設での倫理委員会承認後に、令和1年度に作成したDAベータ版を用いて向精神薬を服用中の患者および治療者(医師、薬剤師)を対象とした使用感調査を実施した。さらに、DAの使用方法についての医療者向けマニュアルを作成した。
結果と考察
精神科医、薬剤師、公認心理師、共同意志決定に関する専門家等60名超のメンバーが各向精神薬グループを構成して作業に当たった。代表的な6つの向精神薬(とその主要標的疾患)である①抗精神病薬(統合失調症)、②抗うつ薬(うつ病)、③気分安定薬(双極性障害)、④睡眠薬(不眠症)、⑤抗不安薬(不安障害)、⑥ADHD治療薬(注意欠如多動性障害、成人)について、寛解後の長期維持療法および減薬・中止の益と害を明示的に示した患者用資材(Decision Aid; DA)とその実践マニュアルを作成した。薬物療法の継続・中止時の再燃率、中止成功率などの臨床情報をピクトグラムで提示するなど患者が理解しやすいように努めた。
このほか、大規模診療報酬データを用いたレトロスペクティブコホート研究により、向精神薬の処方実態、高用量処方、長期処方の背景要因の分析を行った。また、精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)における理解度・実践度・処方行動の変化について検討することにより、この方法論を応用して本実践マニュアルの作成に寄与することを目的として研究を行った。向精神薬の新規出口戦略に関して、出口戦略の妥当性検証のために観察研究を使った方法論の検討を行った。
このほか、大規模診療報酬データを用いたレトロスペクティブコホート研究により、向精神薬の処方実態、高用量処方、長期処方の背景要因の分析を行った。また、精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)における理解度・実践度・処方行動の変化について検討することにより、この方法論を応用して本実践マニュアルの作成に寄与することを目的として研究を行った。向精神薬の新規出口戦略に関して、出口戦略の妥当性検証のために観察研究を使った方法論の検討を行った。
結論
今日の精神医療は向精神薬を用いた精神科薬物療法が主流だが、急性期治療における薬剤選択、適応、薬効、副作用などその導入部分に関する知見が数多く集積されているのに対して、治療の終結に関する指針やその根拠となるエビデンスが乏しい。本研究事業では、精神疾患ごとの寛解・治癒基準とその臨床評価法、適正な維持薬物療法のあり方、各向精神薬の安全で効果的な減量中止法などに関する先行研究の精査を行い、寛解後の長期維持療法および減薬・中止の益と害を明示的に示した患者用資材(Decision Aid; DA)とその実践マニュアルを作成した(今後、パブリックコメントを予定)。本研究事業で作成する精神科薬物療法の出口戦略実践マニュアルを十分に啓発し適正運用をすることで、向精神薬の適正使用に関して医療者、患者、社会が抱いている懸念の緩和と、多剤併用や漫然長期処方例の減少に資することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2021-09-14
更新日
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