精神科救急医療における質向上と医療提供体制の最適化に資する研究

文献情報

文献番号
202018018A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科救急医療における質向上と医療提供体制の最適化に資する研究
課題番号
19GC1011
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 直也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 平田 豊明(千葉県精神科医療センター)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学 医学部)
  • 橋本 聡(独立行政法人国立病院機構熊本医療センター 精神科)
  • 大塚 耕太郎(岩手医科大学神経精神科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神科救急の任務は適時・適切な危機介入と手厚い医療提供により問題対処、健康回復促進、長期在院の抑止により地域ケアを推進することである。現在、精神科救急医療については種々の課題がある。地域包括ケアシステムの構築および精神科救急医療の適切な実践にとって、1)実態モニタリングや評価等、医療の質を保つ仕組み、2)地域差を解消する手段、地域体制としての均質化の継続的取り組み、3)多様化するニーズに対し関係機関、特に一般救急医療との迅速かつ効率的な連携方策、4)日々進化する医学知識を実践に活用するための普及方法、等が求められる。これらの背景を踏まえ、精神科救急医療の実践状況および同体制整備事業(以下、整備事業)の運用実態とニーズの変化を把握し、課題の抽出・整理等を行って、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に資する精神科救急医療政策の提言や、包括的ガイドラインとして取りまとめるための最新知見を明確化することを目的とした。
研究方法
それぞれの背景について、分担研究を設置し、研究を実施した。背景1)(分担研究1)では、全国の精神科救急医療機関に入院症例の情報提出を求めた。背景2)(分担研究2)では、整備事業に関する調査等を行い、均質化のための全国自治体「担当者向け研究報告及び意見交換会」を開催した。背景3)(分担研究4)では、既に全国の消防本部から情報を得た搬送困難例実態の解析を進め、新開発の病院前トリアージ&スクリーニングツール(JEPS-Ex)、医療連携連絡票に関する検証や評価を行った。背景4)についてはテーマごとに分担研究を設け、薬物療法(分担研究3)では、主要施設による多施設共同研究にて入院症例追跡を行った。自殺ハイリスク者対応(分担研究5)では、エキスパート協議によりガイドライン項目の詳細分析を行い、全国の精神科救急医療機関に対しアンケート調査を実施した。各分担研究実施施設では、必要に応じ国の定めるガイドラインに則り倫理審査委員会による承認を受けた。
結果と考察
分担研究1では、2組のデータセットを解析し、非自発入院の予想モデルを検討した。また入院需要のセグメンテーションにて9クラスのモデルを提案した。成果は、多様化する精神科救急医療ニーズを客観評価する方策として、今後の医療提供体制適正化への一助となることが期待される。
分担研究2では、直近の整備事業実績を集計し、精神科救急医療の実態を一覧的に把握できる客観資料を構築・提案した。成果は長年積み重ねた整備事業の継続的実態調査に含まれ、年度内に開催された「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」(以下、救急WG)で活用された。データ収集方式が改良され、さらに精度の高い実態評価が可能となり、救急WGで提言された整備事業の指標、基準の改訂に向けた有用知見の提供が期待される。
分担研究3では、多数症例の追跡から、現状の薬剤選択動向と持効性抗精神病薬が治療失敗のリスク低減に有意に関連することを見出した。成果は、全国民の情報をデータベースで管理する他先進国の国際学術知見を邦人データで裏付ける結果となり大変意義深く、高い学術成果が期待される。治療失敗リスクを低減させる治療選択を推奨できることは有意義であり、データベースを有しない我が国での実証にも価値がある。
分担研究4では、搬送困難実態に関する調査結果を解析し、調整のための具体的提案を行った。JEPS-Exは妥当性が検証され、医療連携連絡票でも高い同意が得られた。本研究の過去の成果も救急WGで活用された。精神科救急医療体制における恒常的深刻課題である身体合併症対策に向け、円滑化のための有用見識や方策を多々提案し、今後の有用性が期待される。
分担研究5では、ガイドライン推奨内容の高い現場浸透が判明したが、教育面で課題がみられた。精神科救急医療で高頻度に遭遇する自殺未遂者ケアに関して成果をあげてきた現行の精神科救急医療ガイドライン(日本精神科救急学会)の次期改訂に向け、有意義な見識が得られた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した自殺動向の特徴が明らかとなり、喫緊課題の把握が成された。
結論
救急WGにおいて「精神科救急医療体制の整備を図ることは、(中略)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおいて、(中略)重要な基盤の一つ」として明確に位置づけられ、同時に種々の課題が認識、整理された。本研究の成果は救急WGの場において度々引用され、課題の解決に向け、重要な知見を提供した。それぞれの分担研究が目的に合致する成果を得て、提言の一部は、既に救急WGにおいて報告書に反映される形となった。今後包括的ガイドラインの策定に向け関連学術団体において作業が展開される予定である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018018B
報告書区分
総合
研究課題名
精神科救急医療における質向上と医療提供体制の最適化に資する研究
課題番号
19GC1011
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 直也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 平田 豊明(千葉県精神科医療センター)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学 医学部)
  • 橋本 聡(独立行政法人国立病院機構熊本医療センター 精神科)
  • 大塚 耕太郎(岩手医科大学神経精神科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神科救急の任務は適時・適切な危機介入と手厚い医療提供により問題対処、健康回復促進、長期在院の抑止により地域ケアを推進することである。現在、精神科救急医療については種々の課題がある。地域包括ケアシステムの構築および精神科救急医療の適切な実践にとって、1)実態モニタリングや評価等、医療の質を保つ仕組み、2)地域差を解消する手段、地域体制としての均質化の継続的取り組み、3)多様化するニーズに対し関係機関、特に一般救急医療との迅速かつ効率的な連携方策、4)日々進化する医学知識を実践に活用するための普及方法、等が求められる。これらの背景を踏まえ、精神科救急医療の実践状況および同体制整備事業(以下、整備事業)の運用実態とニーズの変化を把握し、課題の抽出・整理等を行って、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に資する精神科救急医療政策の提言や、包括的ガイドラインとして取りまとめるための最新知見を明確化することを目的とした。
研究方法
それぞれの背景について、分担研究を設置し、研究を実施した。背景1)(分担研究1)では、全国の精神科救急医療機関に入院症例の情報提出を求めた。背景2)(分担研究2)では、整備事業に関する調査等を行い、均質化のための全国自治体「担当者向け研究報告及び意見交換会」を開催した。背景3)(分担研究4)では、既に全国の消防本部から情報を得た搬送困難例実態の解析を進め、新開発の病院前トリアージ&スクリーニングツール(JEPS-Ex)、医療連携連絡票に関する検証や評価を行った。背景4)についてはテーマごとに分担研究を設け、薬物療法(分担研究3)では、主要施設による多施設共同研究にて入院症例追跡を行った。自殺ハイリスク者対応(分担研究5)では、エキスパート協議によりガイドライン項目の詳細分析を行い、全国の精神科救急医療機関に対しアンケート調査を実施した。各分担研究実施施設では、必要に応じ国の定めるガイドラインに則り倫理審査委員会による承認を受けた。
結果と考察
分担研究1では、2組のデータセットを解析し、非自発入院の予想モデルを検討した。また入院需要のセグメンテーションにて9クラスのモデルを提案した。成果は、多様化する精神科救急医療ニーズを客観評価する方策として、今後の医療提供体制適正化への一助となることが期待される。
分担研究2では、直近の整備事業実績を集計し、精神科救急医療の実態を一覧的に把握できる客観資料を構築・提案した。成果は長年積み重ねた整備事業の継続的実態調査に含まれ、年度内に開催された「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」(以下、救急WG)で活用された。データ収集方式が改良され、さらに精度の高い実態評価が可能となり、救急WGで提言された整備事業の指標、基準の改訂に向けた有用知見の提供が期待される。
分担研究3では、多数症例の追跡から、現状の薬剤選択動向と持効性抗精神病薬が治療失敗のリスク低減に有意に関連することを見出した。成果は、全国民の情報をデータベースで管理する他先進国の国際学術知見を邦人データで裏付ける結果となり大変意義深く、高い学術成果が期待される。治療失敗リスクを低減させる治療選択を推奨できることは有意義であり、データベースを有しない我が国での実証にも価値がある。
分担研究4では、搬送困難実態に関する調査結果を解析し、調整のための具体的提案を行った。JEPS-Exは妥当性が検証され、医療連携連絡票でも高い同意が得られた。本研究の過去の成果も救急WGで活用された。精神科救急医療体制における恒常的深刻課題である身体合併症対策に向け、円滑化のための有用見識や方策を多々提案し、今後の有用性が期待される。
分担研究5では、ガイドライン推奨内容の高い現場浸透が判明したが、教育面で課題がみられた。精神科救急医療で高頻度に遭遇する自殺未遂者ケアに関して成果をあげてきた現行の精神科救急医療ガイドライン(日本精神科救急学会)の次期改訂に向け、有意義な見識が得られた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した自殺動向の特徴が明らかとなり、喫緊課題の把握が成された。
結論
救急WGにおいて「精神科救急医療体制の整備を図ることは、(中略)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおいて、(中略)重要な基盤の一つ」として明確に位置づけられ、同時に種々の課題が認識、整理された。本研究の成果は救急WGの場において度々引用され、課題の解決に向け、重要な知見を提供した。それぞれの分担研究が目的に合致する成果を得て、提言の一部は、既に救急WGにおいて報告書に反映される形となった。今後包括的ガイドラインの策定に向け関連学術団体において作業が展開される予定である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多様化する精神科救急場面における医療ニーズを客観評価するモデルの提示、整備事業の実態や課題、薬物療法における国際的な最新学術知見の国内での裏付け、一般救急医療との連携の構築、精神科救急医療での自殺未遂者ケアに関するガイドライン改定に向けた現状や課題が集積された。体制の均霑(てん)化および診療現場での標準化がはかられ、入院医療の適正化や、入院長期化のさらなる防止が全国規模で推進されることにより、精神科医療全体としての「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の完備にも寄与が大きいと考えられる。
臨床的観点からの成果
精神科救急および急性期医療における指標の活用、モニタリングの定着、標準治療手法や判断の普及による医療の質向上、トリアージや退院が困難なケースへの対処方策の標準化に資する観察所見、提言が集積された。
現場の診療の標準化がはかられ、入院医療の適正化や、入院長期化のさらなる防止が全国規模で推進される効果が期待できる。また、精神科救急医療のより確実な科学的根拠に基づく医療として標準化され、その治療成果やサービスの向上は国民である利用者の疾病克服や健康増進に直接の効果をもたらすことが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の最終成果は、日本精神科救急学会編「精神科救急医療ガイドライン」(2015年版)の次期改定への反映を予定している。本ガイドラインは、精神科救急及び急性期医療に関する地域体制整備、受診前相談、医療判断、ケアプロセス、薬物療法、自殺未遂者対応、について集約的な標準化を推奨する内容であり、今回の分担班での成果を各項目でアップデートするほか、規制薬物関連精神障害等や、一般救急部門との連携についても項目追加などを行うことで、より包括的となることを目指している。
その他行政的観点からの成果
入院急性期医療の標準化および機能分化は、全体システムとしての「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の完備にも寄与が大きい。精神科救急事業報告様式改定の提案は、行政報告データの統計的信頼度向上に寄与する。ReMHRAD構築への貢献は、精神科救急医療のみならず地域医療計画や障害福祉計画の立案と進展にとって有用である。「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」では、本研究および関連研究の調査結果や成果等は、認識された課題の解決に向け、重要な知見を提供した。
その他のインパクト
本研究で得られた成果は、学会・論文発表にとどまらず、精神科救急に関する行政の担当者を集めての会議の開催や、実際に救急医療場面に従事する医療関係者らに対して行う研修会などの活動に反映させることで、臨床場面に還元していくことが予定されている。また、ReMHRADのほか、地方厚生局が公開している情報をもとに精神科救急入院料認可施設の所在地や病床数に関する情報を日本地図上に図示した資料を新たに作成し、日本精神科救急学会ホームページ上に公開することで、地域における精神科救急医療資源の可視化に寄与した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
202018018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,000,000円
(2)補助金確定額
14,662,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,338,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,068,633円
人件費・謝金 7,294,038円
旅費 31,388円
その他 1,577,390円
間接経費 3,692,000円
合計 14,663,449円

備考

備考
自己資金:1,449円

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-