急性呼吸器感染症の感染メカニズムと疫学、感染予防・制御に関する研究

文献情報

文献番号
200804009A
報告書区分
総括
研究課題名
急性呼吸器感染症の感染メカニズムと疫学、感染予防・制御に関する研究
課題番号
H20-国医・指定-009
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木  宏(新潟大学)
  • 荒川  宜親(国立感染症研究所)
  • 河岡  義裕(東京大学医科学研究所)
  • 田代  眞人(国立感染症研究所)
  • 山中  昇(和歌山県立医科大学)
  • 大石  和徳(大阪大学微生物研究所)
  • 押谷  仁(東北大学大学院医学系研究科)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所)
  • 喜田  宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 中山  哲夫(北里生命科学研究所)
  • 横田  俊平(横浜市立大学大学院医学研究科)
  • 渡邊  浩(久留米大学医学部)
  • 石和田 稔彦(千葉大学附属病院)
  • 齋藤  玲子(新潟大学教育研究院医歯学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 社会保障国際協力推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
16,225,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日米医学協力研究の急性呼吸器感染症(ARI)部会活動として、Pan Pacific特に東南アジアのARI領域の細菌性とウイルス性ARI病因微生物の関与を基礎と臨床面から検討し、予防・治療法を確立することを目的とした
研究方法
1.07-08年および08年-09年インフルエンザ分離ウイルスについて、抗インフルエンザ薬の耐性頻度を調べた。2.H5N1高病原性鳥インフルエンザの病原性の検討を行った。3.フィリピンにおける麻疹ウイルスのサーベイランスを実施した。4.RSウイルス生ワクチン作成のため感染性組み換え麻疹ワクチン株を作成した。5.小児肺炎における肺炎球菌の血清型別頻度を調べた。6.マウスにおいて母体免疫(肺炎球菌PspA抗原)が新生児マウスに特異的免疫応答を誘導するか否かを調べた。7.NTHiが産生するバイオフィルムに対する抗生物質の抑制効果を調べた。8.百日咳菌の簡便なタイピング法を検討した。9.インフルエンザ脳症の予後悪化因子について多変量解析を行った。
結果と考察
1.07-08シーズン耐性株頻度はH1N1ソ連型で0.4%に対して今年度は100%がオセルタミビル耐性となっていた。2.モンゴルの死亡野鳥から分離されたH5N1HPAIには、BB2、PA、HA、NP、NS遺伝子が関与していた。3.麻疹ウイルスは00-04年のD3リニアージから07ー08年はD9およびG3リニアージに変化していた(輸入麻疹)。4.RSウイルスに対する高い中和抗体がコットンラットで確認された。5.分離された肺炎球菌の血清型は、7価ワクチンに含まれるものが多かった。6.母体免疫により肺炎球菌に対する特異的な免疫応答が誘導された。7.CAM、LVFXでBLNASおよびBLNARのいずれにもバイオフィルムの抑制効果がみられた。8.MLST法(multilocus sequence typing)により臨床検体から高い検出感度と検出率が得られた。9.多変量解析の結果、予後悪化因子として、高熱・NSAIDsの使用・血尿・蛋白尿などが示された。
結論
インフルエンザの疫学、病原性、脳症の危険因子などが明らかになった。RSVの分子疫学、生ワクチンの可能性などが検討された。一方、肺炎球菌ワクチンの小児肺炎の予防効果が示唆され、また、細菌の薬剤耐性の機序が明らかにされた。成人で問題となる百日咳菌の簡便なタイピング法を確立した。これらの成果は、各病原体の診断・治療・予後において、重要な成果と思われた。

公開日・更新日

公開日
2009-06-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200804009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
急性呼吸器感染症について、ウイルスおよび細菌学的に包括的に研究を進めることができた。タミフル耐性Aソ連型インフルエンザウイルスの全国的および全世界的な蔓延の状況について疫学的に確認できた。また、臨床的に重要であるRSウイルスの分子疫学的解析と、生ワクチン(麻疹ワクチンをベース)について動物実験レベルではあるがその有用性が確認された。その他、ウイルスと細菌感染の混合感染が重症化につながる可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
タミフル耐性Aソ連型の蔓延は非常に重要な研究成果であった。今後、その他のサブタイプのタミフル耐性についても慎重に検討していく必要がある。また、インフルエンザ脳症の予後悪化因子が明らかになったことは、今後本症の新たな治療法の確立に向けて重要な知見と思われた。その他、肺炎球菌ワクチンの成人での重要性が明らかにされたのも大きな成果と考えられる。現在、全国的に蔓延している成人の百日咳の簡便な診断法の確立は、本症の診療上重要である。
ガイドライン等の開発
インフルエンザ脳症ガイドライン(厚生労働省研究班で2005年作成)を改訂する上で脳症の重症化に関与する因子を明らかにすることができた。これらは、次回のガイドライン改定に向け有用な資料となる。
その他行政的観点からの成果
現在百日咳は、全国的に蔓延しており特に成人の百日咳は診断が困難とされていた。簡便な診断法の確立は本症の制御に向け重要な成果と思われた。
その他のインパクト
タミフル耐性Aソ連型が2年前鳥取県を中心に拡がり始めたこと、および今年その耐性株がAソ連型の分離株の100%と拡大したことは、多くのメディア(新聞・テレビなど)に取り上げられた。インフルエンザ脳症のリスクファクターの内、NSAIDsの関与のメカニズムについて今回の検討で改めて明らかにされたが、しばしばこの点についてもメディアで取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagao T,et al.
Prognoctic factors in influenza-associated encephalopathy
Pediatr Infect Dis J , 27 (5) , 384-389  (2008)
原著論文2
Li D,et al.
In vivo and in vitro alterations in influenza A/H3N2 virus M2 hemagglutinin genes
J Clin Microbiol , 47 (2) , 466-468  (2008)
原著論文3
Han HJ,et al.
Antigenenic variation in Bordetella pertussis isolates recovered from adults and children in Japan
Vaccine , 26 , 1530-1534  (2008)
原著論文4
Watanabe T,et al.
A novel approach to the development of effective H5N1 infulwnza A virus vaccines:the use of M2 cytoplasmic tail mutants
J Virol , 82 , 2486-2492  (2008)
原著論文5
Katsuhara T,et al.
Protection against systemic fatal pneumococcal infection by maternal intranasal immunization with pneumococcal surface protein A(PspA
J Infect Chemother , 14 (6) , 393-398  (2008)
原著論文6
Furumoto A,Ohkusa Y,Chen M,et al.
Additive effect of pneumococcal vaccine and influenza vaccine on acute exacerbation in patients with chronic lung disease
Vaccine , 26 , 4284-4289  (2008)
原著論文7
Oshitani H,Kamigaki T,Suzui A,et al.
Major issues and challenges of influenza pandemic preparedness in developing countries
Emerg Infect Dis , 14 (6) , 875-880  (2008)
原著論文8
Nagata N,Iwata N,Hasegawa H,et al.
Mouse-passaged severe acute respiratory syndrome-associated coronavirus leads to lethal pulmonary edema and diffuse alveolar damage in adult but not young mice
Am J Pathol , 172 (6) , 1625-1637  (2008)
原著論文9
Yoshida N,Fujino M,Miyata A,et al.
Mumps virus reinfection is not a rare event confirmed by reverse transcription loop-mediated isothermal amplification
J Med Virol , 80 , 517-523  (2008)
原著論文10
Shinjoh M,Miyairi I,Hosino K,et al.
Effective and safe immunizations with live-attenuated vaccines for children after living donor liver transplantation
Vaccine , 26 , 9859-9863  (2008)
原著論文11
Saito R,et al.
Increased Incidence of Adamantane-Resistant Influenza A(H1N1) and A(H3N2) Viruses During the 2006-2007 Influenza Season in Japan
J Infect Dis , 197 , 632-633  (2008)
原著論文12
Yamanaka N,et al.
Clinical bacteriology and immunology in acute otitis media in children
J Infect Chemother , 14 , 180-187  (2008)
原著論文13
Watanabe K,et al.
Drug-resistant pneumococci in children with acute lower respiratory infections in Vietnam
Pediatrics International , 50 , 514-518  (2008)
原著論文14
Ishiwada N,et al.
The incidence of pediatric invasive pneumococcal disease in Chiba prefecture, Japan(2003-2005)
J Infection , 57 , 455-458  (2008)
原著論文15
Zaraket H,et al.
Molecular evolution of human influenza A viruses in a local area during eight influenza epidemics from 2000 to2007
Arch Virol , 154 , 285-295  (2009)
原著論文16
Sato M,et al.
Effectiveness of Oseltamivir Treatment among Children with Influenza A or B Virus Infections during Four Successive Winters in Niigata City, Japan
Tohoku J.Exp Med , 214 , 113-120  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
2016-06-07