入院中の精神障害者の円滑な早期の地域移行及び地域定着に資する研究:コホート研究

文献情報

文献番号
202018005A
報告書区分
総括
研究課題名
入院中の精神障害者の円滑な早期の地域移行及び地域定着に資する研究:コホート研究
課題番号
H30-精神-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 菊池 安希子(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 稲垣 中(青山学院大学 教育人間科学部/保健管理センター)
  • 渡邉 博幸(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 来住 由樹(岡山県精神科医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、多施設での前向き縦断研究を通して、精神科医療機関における救急病棟や急性期病棟に入院し、かつ1年未満で退院する入院患者を対象として、入院時から追跡を開始し、退院後12ヵ月間にわたって追跡調査を実施し、退院後12ヵ月間の再入院(アウトカム)と個人の主観的指標(特に生活の質)との関連や、主観的指標の推移と再入院の関連を探ることを第1の目的とする。また、その他の曝露データ(個人の特性・薬剤治療の内容・入院中の薬剤以外の支援内容、退院後の支援状況、地域・環境の特性)を収集し、アウトカムに関連しうる要因を包括的に検証することを第2の目的とする。
研究方法
本研究の研究デザインは、国内21精神科医療機関(協力医療機関)が参加する前向きのコホートあるいは縦断研究であった。同意取得を得た参加者からは、インデックス入院の入院時点[T1]、退院時点[T2]、退院後6ヵ月経過時点[T3]、退院後12ヵ月経過時点[T4]であった。本研究の主要アウトカムはインデックス入院からの退院後12ヵ月以内の再入院の有無であり、主要曝露は退院時[T2]の主観的経験(生活の質を測る尺度の得点)であった。上記データに加え、本研究は通常診療で得られる様々なデータおよび複数の自記式尺度によるデータを得た。なお、インタビュー調査を除く各分担報告書の知見は、データクリーニングの途中段階であるデータセット(2021年3月10日時点)を用いた分析の結果である。よって、最終的な分析結果は本報告の結果と異なる点があることに留意されたい。
結果と考察
21精神科医療機関の急性期・救急病棟において、2018年10月1日~2019年9月30日の間に4603名の患者が入院した。入院時点[T1]において、同意およびデータを取得できたのは、611名であった。退院時点[T2]データについて、589名からのデータを得た(追跡率:98%)。また、6ヵ月経過時点[T3]と12ヵ月経過時点[T4]の追跡者数は、それぞれ521名(87%)と493名(82%)であった。
調査の結果、期間中に参加者の症状の減退、機能の向上および問題行動の改善が観察されたが、社会的役割や主観的評価(生活の質や主体性)は改善が見らなかった。(インデックス)入院期間について、迷惑行為とアドヒアランス問題が観察された者は入院日数が長くなる傾向にあり、機能尺度の得点で「軽症(患者)群」に分類された者は入院日数が短くなる傾向にあった。再入院に関連する要因については、主要曝露である退院時[T2]の生活の質、主体性、障害程度を含む主観的な評価あるいはサービス満足度は仮説に反して、再入院の有無に関連を示さなかった。他方、一人暮らしをしていること、インデックス入院以前の過去1年に入院経験があること、入院回数が多いこと、退院時の症状の程度、入院時・退院時に社会的役割があること、入院中に多職種ミーティングが開催されたことが、低い再入院率と統計的に関連していた。訪問看護やケースマネジメントの利用と再入院が関連していた背景には、機関連携の改善や入院機関へのアクセシビリティの向上、退院後の生活支援ニーズの増大、再入院に対する認識の変化などが影響している可能性がある。
好事例のインタビュー分析からは、再入院の防止あるいは地域滞在日数を増加させる効果的な支援内容として、①入院初期からの退院後の生活を見据えた柔軟な個別支援と包括的な入院支援の提供、②入院中からの多機関連携(外部の人が入りやすい開かれた病棟)、③地域におけるアウトリーチ系サービスの重要性、④地域支援において支援の窓口となるキーとなる支援者の選定、⑤生活課題の継続を前提とした支援の在り方が抽出された。これらの支援内容は、現在の診療報酬では算定されないものも多く、実装や普及には課題が残る。
上記の知見に加え、本研究班は精神保健サービス評価において重要な処方薬剤データの入力、管理のためのシステムを開発した。このシステムにより、処方実態の分析もより容易になると予想される。
結論
今後の政策推進の際には、本研究の知見が利用されることが期待される。具体的には、患者の状態像に応じた入院日数の勘案や院内の多職種ケア会議などは今後のケアや政策決定にいかすことができるデータとなると予想される。また、アウトリーチ系の地域ケアの充実やケースマネジメントの主体の選定などを提案した分析結果は、今後の地域ケアの見直しの際に有用なデータとなると示唆される。好事例インタビューの結果は、今後の効果的な実践について5つの支援要素を示唆したが、それらの支援要素を提供可能な多職種チーム・個別支援・アウトリーチ支援を含む包括的な地域サービスは整備されていない。よって、今後の研究の発展と制度化への取り組みが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018005B
報告書区分
総合
研究課題名
入院中の精神障害者の円滑な早期の地域移行及び地域定着に資する研究:コホート研究
課題番号
H30-精神-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 菊池 安希子(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 稲垣 中(青山学院大学 教育人間科学部/保健管理センター)
  • 渡邉 博幸(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 来住 由樹(岡山県精神科医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、多施設での前向き縦断研究を通して、精神科医療機関における救急病棟や急性期病棟に入院し、かつ1年未満で退院する入院患者を対象として、入院時から追跡を開始し、退院後12ヵ月間にわたって追跡調査を実施し、退院後12ヵ月間の再入院(アウトカム)と個人の主観的指標(特に生活の質)との関連や、主観的指標の推移と再入院の関連を探ることを第1の目的とする。また、その他の曝露データ(個人の特性・薬剤治療の内容・入院中の薬剤以外の支援内容、退院後の支援状況、地域・環境の特性)を収集し、アウトカムに関連しうる要因を包括的に検証することを第2の目的とする。
研究方法
本研究の研究デザインは、国内21精神科医療機関(協力医療機関)が参加する前向きのコホートあるいは縦断研究であった。同意取得を得た参加者からは、インデックス入院の入院時点[T1]、退院時点[T2]、退院後6ヵ月経過時点[T3]、退院後12ヵ月経過時点[T4]であった。本研究の主要アウトカムはインデックス入院からの退院後12ヵ月以内の再入院の有無であり、主要曝露は退院時[T2]の主観的経験(生活の質を測る尺度の得点)であった。上記データに加え、本研究は通常診療で得られる様々なデータおよび複数の自記式尺度によるデータを得た。なお、インタビュー調査を除く各分担報告書の知見は、データクリーニングの途中段階であるデータセット(2021年3月10日時点)を用いた分析の結果である。よって、最終的な分析結果は本報告の結果と異なる点があることに留意されたい。
結果と考察
21精神科医療機関の急性期・救急病棟において、2018年10月1日~2019年9月30日の間に4603名の患者が入院した。入院時点[T1]において、同意およびデータを取得できたのは、611名であった。退院時点[T2]データについて、589名からのデータを得た(追跡率:98%)。また、6ヵ月経過時点[T3]と12ヵ月経過時点[T4]の追跡者数は、それぞれ521名(87%)と493名(82%)であった。
調査の結果、期間中に参加者の症状の減退、機能の向上および問題行動の改善が観察されたが、社会的役割や主観的評価(生活の質や主体性)は改善が見らなかった。(インデックス)入院期間について、迷惑行為とアドヒアランス問題が観察された者は入院日数が長くなる傾向にあり、機能尺度の得点で「軽症(患者)群」に分類された者は入院日数が短くなる傾向にあった。再入院に関連する要因については、主要曝露である退院時[T2]の生活の質、主体性、障害程度を含む主観的な評価あるいはサービス満足度は仮説に反して、再入院の有無に関連を示さなかった。他方、一人暮らしをしていること、インデックス入院以前の過去1年に入院経験があること、入院回数が多いこと、退院時の症状の程度、入院時・退院時に社会的役割があること、入院中に多職種ミーティングが開催されたことが、低い再入院率と統計的に関連していた。訪問看護やケースマネジメントの利用と再入院が関連していた背景には、機関連携の改善や入院機関へのアクセシビリティの向上、退院後の生活支援ニーズの増大、再入院に対する認識の変化などが影響している可能性がある。
2019年度および2020年度の好事例のインタビュー分析からは、再入院の防止あるいは地域滞在日数を増加させる効果的な支援内容として、①入院初期からの退院後の生活を見据えた柔軟で包括的な入院支援の提供、②入院中からの多機関連携(外部の人が入りやすい開かれた病棟)、③地域におけるアウトリーチ系サービスの重要性、④地域支援において支援の窓口となるキーとなる支援者の選定、⑤生活課題の継続を前提とした支援の在り方が抽出された。これらの支援内容は、現在の診療報酬では算定されないものも多く、実装や普及には課題が残る。
上記の知見に加え、本研究班は精神保健サービス評価において重要な処方薬剤データの入力、管理のためのシステムを開発した。このシステムにより、処方実態の分析もより容易になると予想される。
結論
今後の政策推進の際には、本研究の知見が利用されることが期待される。具体的には、患者の状態像に応じた入院日数の勘案や院内の多職種ケア会議などは今後のケアや政策決定にいかすことができるデータとなると予想される。また、アウトリーチ系の地域ケアの充実やケースマネジメントの主体の選定などを提案した分析結果は、今後の地域ケアの見直しの際に有用なデータとなると示唆される。好事例インタビューの結果は、今後の効果的な実践について5つの支援要素を示唆したが、それらの支援要素を提供可能な多職種チーム・個別支援・アウトリーチ支援を含む包括的な地域サービスは整備されていない。よって、今後の研究の発展と制度化への取り組みが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018005C

収支報告書

文献番号
202018005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
9,999,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,316,819円
人件費・謝金 1,638,304円
旅費 13,734円
その他 3,931,105円
間接経費 2,100,000円
合計 9,999,962円

備考

備考
自己資金:962円

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-