New Long Stay防止統合プログラムの有用性の検証と汎用性の確立

文献情報

文献番号
202018004A
報告書区分
総括
研究課題名
New Long Stay防止統合プログラムの有用性の検証と汎用性の確立
課題番号
H30-精神-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
伊豫 雅臣(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 大(千葉大学大学院医学研究院 精神医学)
  • 小松 英樹(千葉大学医学部附属病院)
  • 渡邉 博幸(千葉大学大学院 医学研究院 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦では精神病床新入院患者のうち1年以上入院する長期入院患者(以下New Long Stay)の総数が過去10年で大きく変化がない。千葉大学病院精神神経科及び同大学社会精神保健教育研究センターでは入院時から円滑な地域移行・地域定着を目指した1年未満の退院を支援する診療モデル『New Long Stay 防止統合プログラム』(以下プログラム)を 平成27年に立案し平成29年2月より千葉市内の200床規模の民間精神科『医療法人学而会木村病院』での実践を主導している。地域移行・地域定着が進まない原因の一つに退院後生活環境相談員の人員配置が専門性と配置数で十分でないことが挙げられ、プログラムでは精神保健福祉士が退院後生活環境相談員として専従しチームマネージャーとなる。入院時に入院長期化につながる退院阻害因子を評価しそれに基づきケアチームが既存の種々の医療技術、福祉資源を組み合わせて多職種協働モデルに基づいた包括的な入院診療パッケージを構築できる。本研究ではプログラム導入前後の退院促進・地域移行・地域定着について分析し有効性を明らかにする。またプログラム実施下での職員の実務量や業務負担の変化を明らかにし既存の精神科病院運営上の人的・医療経済的課題を抽出し他施設で導入するに当たっての課題を提示し本プログラムの汎用性を確立する。
研究方法
プログラム導入前後各2年間(平成 26-27 年度と平成 29-30 年度)について比較し本プログラムの有効性や課題を検討。さらに汎用化に関する方法の開発や課題を探ることを計画。プログラムの有効性と課題を明らかとした汎用化研究は令和2年度は新型コロナウイルス対策のため精神科病院への出入りを抑制せざるを得ない施設が多く直接的な導入支援を行うことができなかったため、精神科医療機関にアンケート調査を施行。
結果と考察
プログラム導入前後の臨床アウトカムは、プログラム導入後で非自発入院者数の割合と精神科救急システム経由入院の割合が統計学的に有意に増加していた(両項目ともにp<0.001)入院後12ヶ月時点の退院率はプログラム導入後の平成30年に100%となり、New Long Stayは防止された。退院後の再入院をイベントとする生存曲線を作成し再入院までの期間をlog-rank検定で比較。入院患者全体ではプログラム導入前後に有意差は認めなかったが、非自発入院患者数はプログラム導入後に統計学的に有意に増加。退院後1年間の地域生活日数(第6期障害福祉計画の目標値は、316日以上)プログラム導入前が337.5日、導入後が341.5日と統計学的有意差を認めなかった。プログラムは、患者一人当たりの1年間の入院医療費を減少させる一方、病院経営収支においては病院全体の外来延べ外来患者数、新入院患者数が増加しても、病床削減のため病院全体の延べ入院患者数が減少。さらに人件費を増加させるため、現状の診療報酬体系下では、医療機関の医業収支を不安定とさせる。プログラム前後での職員のストレス負荷は、救急患者の受け入れが増加しても大きな変化はなく全国平均と同等であった。プログラムに内在する医師以外の職種の裁量権の拡大や個別治療チームでの多職種協働による協力体制や責任分散などが組織感情を改善し良好な労働環境の維持に一定の効果をもたらしているかもしれない。アンケートに回答いただいた30施設においては、本プログラムで想定している人員数とほぼ同様の病棟専属PSWを有しており、ケースロードも概ね20前後としていること、救急病棟への入院手順を持っており入院時連携窓口は第1にはPSWが担っていることなど本プログラムとの類似点が認められた。その一方で入院決定やベッドコントロールについては医師や看護師の権限が強く、PSWが決定に関わる施設はまだ少ないことが示された。入院患者についての診療カンファレンスに関しては、毎週行っている施設が17と最多であり多くの職種の参加で開催されていることがわかるが、退院後の地域定着支援に重要なデイケアや訪問を担当する職員の参加はきわめて少なかった。
結論
プログラムは、医療機関の医業収支を不安定とさせることが明らかとなりこの結果は入院患者の地域移行・地域定着が進まない理由の一つの証左となっていると推測する。多職種協働モデルに基づいた包括的な入院診療プログラムの構築により入院中から退院後まで連続性のある包括的サービスの提供が確立されたため地域移行、地域定着を推進する精神科医療モデルを施策として提案できる。さらに既存の種々の医療技術、福祉資源を組み合わせたプログラムであり高い汎用性を期待できる一方で、プログラムを支えるための診療報酬が十分ではないという課題を明らかにすることできた。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018004B
報告書区分
総合
研究課題名
New Long Stay防止統合プログラムの有用性の検証と汎用性の確立
課題番号
H30-精神-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
伊豫 雅臣(国立大学法人千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 木村  大(千葉大学大学院医学研究院)
  • 小松 英樹(千葉大学医学部附属病院)
  • 渡邉 博幸(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦では精神病床の新入院患者のうち、1年以上入院する長期入院患者(以下New Long Stay)の総数が過去10年で大きく変化がない。千葉大学病院精神神経科及び同大学社会精神保健教育研究センターでは入院時から円滑な地域移行・地域定着を目指した1年未満の退院を支援する診療モデル『New Long Stay 防止統合プログラム』(以下プログラム)を 平成27年に立案し平成29年2月より千葉市内の200床規模の民間精神科『医療法人学而会木村病院』での実践を主導している。地域移行・地域定着が進まない原因の一つに、退院後生活環境相談員の人員配置が専門性と配置数で十分でないことが挙げられ、プログラムでは精神保健福祉士が退院後生活環境相談員として専従しチームマネージャーとなる。また入院時に入院長期化につながる退院阻害因子を評価し、それに基づきケアチームが既存の種々の医療技術、福祉資源を組み合わせて多職種協働モデルに基づいた包括的な入院診療パッケージを構築できる。本研究ではプログラム導入前後の退院促進・地域移行・地域定着について分析し、有効性を明らかにする。またプログラム実施下での職員の実務量や業務負担の変化を明らかにし,既存の精神科病院運営上の人的・医療経済的課題を抽出し,他施設で導入するに当たっての課題を提示し本プログラムの汎用性を確立する。
研究方法
本研究ではプログラム導入前後各2年間(平成 26-27 年度と平成 29-30 年度)について比較して、本プログラムの有効性や課題を検討し、さらに汎用化に関する方法の開発や課題を探ることを計画した。プログラムの有効性と課題を明らかとした汎用化研究は令和2年度は新型コロナウイルス対策のため精神科病院への出入りを抑制せざるを得ない施設が多く、直接的な導入支援を行うことができなかったため、精神科医療機関にアンケート調査を行なった。
結果と考察
プログラム導入前後の臨床アウトカムは、平均年齢、疾患別割合、平均入院日数において両群間で統計学的有意差は認めなかった(P<0.05)一方で、プログラム導入後で非自発入院者数の割合と精神科救急システム経由入院の割合が統計学的に有意に増加していた(両項目ともにp<0.001)。入院後12ヶ月時点の退院率はプログラム導入後の平成30年に100%となり、New Long Stayは防止された。退院後の再入院をイベントとする生存曲線を作成し、再入院までの期間をlog-rank検定で比較した。入院患者全体ではプログラム導入前後に有意差は認めなかったが、非自発入院患者数は、プログラム導入後に統計学的に有意に増加した。退院後1年間の地域生活日数(第6期障害福祉計画の目標値は316日以上),
プログラム導入前が337.5日、導入後が341.5日と統計学的有意差を認めなかった。プログラム導入により精神科救急システムからの入院と非自発入院患者の入院患者数が増加したことは、精神科救急患者の受け入れが円滑に進み、プログラム導入前と比較して入院患者の緊急度および重症度が高くなったことが推測できる。プログラム前後でこのような入院患者背景の違いがあってもNew Long Stayは防止され、退院後12ヶ月時点の再入院率は、全国平均37%より低い約28%に抑えることができていた。
木村病院では、療養病棟入院中の長期在院患者を退院促進で地域移行を進め、2014年度と2018年度を比較すると、約60床を減床しプログラム実施病棟に職員を配置した。特にプログラム実行のため精神保健福祉士3人をプログラム実施病棟専属としたことにより、精神保健福祉士1人が担当する患者が37名から16名に減少した。プログラム導入後の医業経営項目の変化は、医業収益が減少し、医業費用、給与費が増加した。一方で、患者一人当たりの退院後1年間の外来医療費と入院医療費を合算の差を算出するとプログラム導入後に14万7975円減少した。減床により病院全体の延入院患者数が減っても精神科の臨床業務においては、地域移行・地域定着の推進に多くのマンパワーを必要としており、医療スタッフを減らすことは困難であり人件費(給与費)の縮減は難しかったことが、収支変化に反映した。プログラム前後での職員のストレス負荷は、救急患者の受け入れが増加しても大きな変化はなく、全国平均と同等であった。
結論
多職種協働モデルに基づいた包括的な入院診療プログラムの構築により、入院中から退院後まで連続性のある包括的サービスの提供が確立されたため、地域移行、地域定着を推進する精神科医療モデルを施策として提案することできる。さらに、既存の種々の医療技術、福祉資源を組み合わせたプログラムであり、高い汎用性を期待できる一方で、プログラムを支えるための診療報酬が十分ではないという課題を明らかにすることできた。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神科急性期の入院治療において、多職種で退院阻害因子を特定し、医療および福祉資源を組み合わせたNew Long Stay防止統合プログラム(以下、プログラム)による介入は、患者の長期入院を防止(入院後12ヶ月時点退院率 100%)し、非自発入院患者の退院後12ヶ月時点再入院率を統計学的に有意に減少させることを明らかにした(退院後12ヶ月時点再入院率: プログラム未施工群35.7%、プログラム導入群27.9% p=0.022)。
臨床的観点からの成果
多職種協働モデルに基づいた包括的な入院診療プログラムの構築により、入院中から退院後まで連続性のある包括的サービスの提供が確立されたため、地域移行、地域定着を推進する精神科医療モデルを施策として提案することできる。さらに、既存の種々の医療技術、福祉資源を組み合わせたプログラムであり、高い汎用性を期待できる一方で、プログラムを支えるための診療報酬が十分ではないという課題を明らかにすることできた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
「第7回精神障害者にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」(令和3年1月22日)の資料として、New Long Stay防止統合プログラムが参考にされた
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202018004Z