医療観察法の制度対象者の治療・支援体制の整備のための研究

文献情報

文献番号
202018003A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法の制度対象者の治療・支援体制の整備のための研究
課題番号
H30-精神-一般-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター )
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
  • 大鶴 卓(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 岡田 幸之(国立大学法人 東京医科歯科大学)
  • 五十嵐 禎人(国立大学法人 千葉大学)
  • 今村 扶美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)の制度対象者に関する転帰・予後・治療介入等の実態を継続的に明らかにすること、国際比較やいわゆる複雑事例のプロファイリングとセグメント化を行い、それらを基にした実効性の高い治療や介入方法等を示すことである。
研究方法
本年度は新型コロナウイルス感染症のため2回の研究班会議をオンラインで開催し、8つの各研究分担班の連携を図るとともに研究成果を共有した。最終年度として研究報告書をまとめた。
結果と考察
退院後の対象者について、昨年度に引き続き転帰・長期予後に関する全国調査等を行った。退院後の対象者について、転帰・長期予後に関する全国調査等を継続し、直近 5 年間に調査対象(651名)を絞り解析した。
重大な他害行為の累積発生率 を Kaplan-Meier 法により算出すると1.3%/3 年であった。また、自殺既遂の累積発生率は 1.0%/3 年であった。指定入院医療機関退院後の精神保健福祉法入院累積発生率は 33.4%/1 年、46.4%/3年であった。また指定入院医療機関退院と同時に精神保健福祉法入院(調整入院)していた者が 90 名であった。直近 5 年間に通院処遇に移行した対象者の重大な再他害行為率、死亡率、自殺既遂率、精神保健福祉法入院率などの主要な予後は、累積調査対象者(996 名)の予後と比較して概ね同水準であった。再他害行為率の低さや各種の指標から、医療観察制度は、直近 5 年間においても概ね順調に運用されていると考えられた。
医療観察法重度精神疾患標準的治療法確立事業により全国の指定入院医療機関から毎月提出され蓄積された、いわゆる“入院データベース”の研究活用を進めた。入院複雑事例のプロファイルは頻回/長期行動制限群であり、処遇終了後精神保健福祉法による入院に移行する群、長期入院後通院処遇に移行する群、長期入院となる“複雑事例中核群”の少なくとも 3 群に類型化された。類型化には、指定入院医療機関による退院許可の申立てや地方裁判所の審判が影響を与えている可能性がある。ドイツにおける司法精神医療の調査結果から、処遇終了および入院継続の判断基準の明確化、指定入院医療機関から独立した 52 条鑑定による確認手続きの厳密化の必要性が示唆された。
入院複雑事例の治療促進を目的として、SDM with CF (shared decision making with case formulation)、転院、指定入院医療機関同士のコンサルテーションなど施設横断的な試みを継続した。コンサルテーション実施前後で対象者の治療状況および担当多職種チーム機能を評価する評価項目の得点に有意な向上が見られた。このことから、本研究で開発したコンサルテーションの手順や各種シート類の活用、そうしたツールを用いての継続的なコンサルテーションの実施は、複雑事例の治療促進に有効と考えられた。
通院処遇では、指定入院医療機関(459施設)の約半数が対応の困難さを回答し、個別調査(143例)では通院処遇が 3 年を超えた群、問題行動を認めた群、自殺・自殺企図群が指摘され、通院処遇においても課題を抱えた、いわゆる“通院複雑事例”の存在が確認された。通院処遇終了後も、危機回避を目的とした入院やクライシスプランを活用し、多職種・多機関連携による医療がシームレスに提供されていた。また、処遇終了後、危機回避から生活支援や就労支援を主とした地域定着支援に力点が移る実態が明らかとなった。
医療観察法審判に資することを目的として、鑑定書作成の手引き(案)および鑑定書式(案)の作成を進めた。昨年度までに8×3マトリックス形式、コア・クエスチョン形式を提案し、具体的なモデル事例8例について鑑定書を作成し、「機序」「診立て」からなる形式をあらたに提案した。
結論
我が国の医療観察制度は約15年間運用され、直近5年間に限っても再他害行為率の低さや各種の指標から概ね順調に運用されていると考えられた。
入院複雑事例の治療促進を図るためには、施設横断的な試みが必要であり、施設間の調整機能を持つ事務局の設置が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018003B
報告書区分
総合
研究課題名
医療観察法の制度対象者の治療・支援体制の整備のための研究
課題番号
H30-精神-一般-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
平林 直次(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院 第二精神診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 竹田 康二(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
  • 壁屋 康洋(独立行政法人国立病院機構 榊原病院)
  • 村杉 謙次(独立行政法人国立病院機構 小諸高原病院)
  • 大鶴 卓(独立行政法人国立病院機構 琉球病院)
  • 岡田 幸之(国立大学法人 東京医科歯科大学)
  • 五十嵐 禎人(国立大学法人 千葉大学)
  • 今村 扶美(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)の制度対象者に関する転帰・予後・治療介入等の実態を継続的に明らかにすること、国際比較やいわゆる複雑事例のプロファイリングとセグメント化を行い、それらを基にした実効性の高い治療や介入方法等を示すことである。
研究方法
平成30年度には8つの研究分担班を編成し6つの研究分担班において倫理委員会の承認を得た。平成30年度から3年間、入院及び通院医療の実態調査や解析、海外比較、いわゆる“入院データベース”の研究活用の体制の整備を継続した。年2回の研究班会議を開催し、各研究分担班の連携を図るとともに研究成果を共有し、令和2年度には研究報告書をまとめた。
結果と考察
退院後の対象者について、転帰・長期予後に関する全国調査等を継続し、医療観察制度は再他害行為率の低さや各種の指標から法施行以来概ね順調に運用されていると考えられた。直近 5 年間についても同様であった。
本研究班によって、指定入院医療機関32施設から定期的に収集・蓄積される入院データベースの利活用体制や手順が明確に定められた。研究班終了後も、入院医療の実態が“パフォーマンス指標”として年2回厚生労働省ならびにすべての指定入院医療機関に報告される。また、年1回、医療観察法統計資料として一般向けにも報告される。研究利活用委員会が設置され、2次利用として研究に活用されることとなった。
上記の入院データベースの研究活用から、入院複雑事例は、頻回/長期行動制限群と重なる部分が多く、そのプロファイルは高い衝動性と興奮や怒り、精神病的なしぐさといった特徴であった。また、その転帰から処遇終了後精神保健福祉法による入院に移行する群、長期入院後通院処遇に移行する群、長期入院となる“複雑事例中核群”の少なくとも 3 群にセグメント化された。
国際比較の結果、複雑事例専門の高規格ユニットを準備するよりも、複雑事例の多様性や個別性に配慮した心理社会的介入の重要性が指摘された。入院複雑事例の治療促進には、SDM with CF (shared decision making with case formulation)、転院、指定入院医療機関同士のコンサルテーションなど施設横断的な試みが必要であり、一部有効性が示された。また、普及を促進するためには、施設横断的な調整を担当する事務局の設置が望まれた。
複雑事例の処遇判断の標準化のためには、処遇終了および入院継続の判断基準の明確化、指定入院医療機関から独立した 52 条鑑定による確認手続きの厳密化が必要であった。
通院処遇では、指定入院医療機関の約半数が対応の困難さありと回答し、通院処遇が 3 年を超えた群、問題行動を認めた群、自殺・自殺企図群が指摘され、通院処遇においても課題を抱えた、いわゆる“通院複雑事例”が抽出されつつある。通院処遇終了後も、引き続き危機回避を目的とした入院やクライシスプランを活用し、多職種・多機関連携による医療がシームレスに提供されていた。医療観察法医療が一般精神医療に般化しつつある。また、処遇終了後、危機回避から生活支援や就労支援を主とした地域定着支援に力点が移り社会復帰が促進されている実態が明らかとなった。
医療観察制度の運用や見直しにとって必要不可欠な通院処遇の基礎的データを収集するための体制をただちに構築する必要があるが、通院処遇の実態調査では、補足率の低さやサンプリングバイアスを考慮すると、対象者の同意を前提とする研究では限界があり、研究によらない調査方法の検討・確立も必要であることが明らかとなった。
結論
本研究により、入院データベースの行政、医療、研究など幅広い利用が可能となった。今後、入院医療の標準化や課題抽出・解決、医療観察法医療の広報や透明性の確保、2次利用研究などが期待される。
複雑事例は、医療観察法医療及び精神保健福祉医療を問わず、両制度の課題であると考えられ、入院複雑事例と通院複雑事例の異同も含め、入院処遇から通院処遇、処遇終了後まで一貫した調査や制度運用が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018003C

収支報告書

文献番号
202018003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,500,000円
(2)補助金確定額
13,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,252,666円
人件費・謝金 2,019,883円
旅費 41,444円
その他 4,071,007円
間接経費 3,115,000円
合計 13,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-