視機能障害認定のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
202018002A
報告書区分
総括
研究課題名
視機能障害認定のあり方に関する研究
課題番号
H30-感覚器-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山本 修一(国立大学法人 千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 康博(宮﨑大学 医学部)
  • 石川 浩太郎(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 恩田 秀寿(昭和大学医学部)
  • 加藤 聡(東京大学医学部)
  • 仲泊 聡(国立研究開発法人理化学研究所)
  • 平塚 義宗(順天堂大学医学部)
  • 藤田 京子(愛知医科大学 医学部)
  • 松本 長太(近畿大学医学部)
  • 山上 明子(井上眼科病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
9,652,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体障害者福祉法における視覚障害の認定は、視力および視野の状態により、1級から6級の基準が定められている。身体障害の等級認定については、日常生活の困難度との関連が合理的であることが求められるが、以前の認定基準は、両眼の視力の和により等級が定められていたことなど、現実の日常生活の困難度と乖離する部分があった。
このため平成29年に視覚障害の認定基準に関する検討会が設置され、平成28年8月26日に日本眼科学会および日本眼科医会でとりまとめられた「視覚障害認定基準の改定に関するとりまとめ報告書」において示された方向性に基づいて新たな基準の検討がされ、視力については良い方の眼の視力を基準とした等級認定基準に変更され、視野については中心視野のみの障害の評価などについて変更された。
しかし改定で用いられたlogMAR視力に基づく検討による等級の線引きについては、日常生活の困難さの感覚と等級基準との関連について、当事者の理解が得にくい部分があり、米国で使用されているFunctional Vision Score (FVS)の使用を検討すべきではないかとの議論があった。さらに、片眼失明者や眼瞼痙攣、羞明等の現状の基準では障害認定されないが、視機能に問題がある患者についても、認定につなげていくべきかどうか検討すべきとされた。これらの課題に対応するため、視機能とADLに関する評価について科学的知見を整理し、障害認定基準の改善につなげる研究を実施する必要があり、本研究では、視機能全般について医学的に合理的な説明が可能で、当事者の生活上の困難度とも乖離のない客観的な新しい認定基準の検討のための基礎資料を作成することを目的として、以下の4つのテーマで研究を実施。
1.海外の視覚障害に対する福祉制度の調査
2.Functional Vision Score (FVS)に関する国内・海外の文献調査
3.種々の原因による視機能障害者におけるADLの検討
4. 片眼失明の疫学調査
研究方法
テーマ1および2:初年度で研究は概ね終了していたものの、初年度と同じ方法で追加調査した。
テーマ3視覚ADL調査として東北大学の鈴鴨らが開発したthe low-vision-specific function and activities of daily living measure (LVFAM)を用いて、千葉大学、昭和大学、井上眼科病院、おおあみ眼科の4施設で、片眼失明患者、眼瞼痙攣患者および6級相当の視覚障害を有する患者を対象に、アンケート調査を実施。
結果と考察
テーマ3として、LVFAMを用いて今回初めて視覚ADLを調査したことは、眼科の研究上意義のあることと思われた。その結果、片眼失明症例の視覚ADLは比較的良好で、一方眼瞼痙攣の視覚ADLは、視覚障害6級相当の対照群と同程度で不良であったが、眼瞼痙攣の重症度も関与すると思われた。テーマ4の片眼の疫学調査としては単施設の結果であるものの、半年間で10例の新患症例があり予想を上回るものであった。このため本邦全体としては、決して少なくない症例数になると思われる。今後は、多施設共同研究として大規模調査を実施したり、健診データなど既存の情報を活用すべきと思われる。
いずれにせよ、新型コロナウイルスの感染拡大により調査の中断を余儀なくされたものの、昭和大学、井上眼科病院の協力と、外部委託CRO機関の対応で、視覚ADL調査を完遂できたことは誇らしいと思われた。
結論
本研究の成果は、今後の視覚障害の認定基準の改正のためのエビデンスとして用いられる予定である。身体障害者福祉法における身体障害認定基準は、障害の状況とそれに基づく日常生活の困難度の観点において、対象や等級の線引きが科学的で合理的な説明が可能であることが求められていることから、今回初めて実施した視覚ADLの調査によって、視覚障害者の生活上の困難度を把握したことは、調査の成果は障害認定基準以外の福祉サービスの検討等で活用できる可能性があると思われる

公開日・更新日

公開日
2021-07-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202018002B
報告書区分
総合
研究課題名
視機能障害認定のあり方に関する研究
課題番号
H30-感覚器-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山本 修一(国立大学法人 千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 康博(宮崎大学 医学部)
  • 石川 浩太郎(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 恩田 秀寿(昭和大学医学部眼科学講座)
  • 加藤 聡(東京大学医学部眼科学)
  • 仲泊 聡(国立研究開発法人理化学研究所)
  • 平塚 義宗(順天堂大学 医学部)
  • 藤田 京子(愛知医科大学 医学部)
  • 松本 長太(近畿大学医学部眼科学教室)
  • 山上 明子(井上眼科病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体障害者福祉法における視覚障害認定は視力および視野の状態により1級から6級の基準が定められている。等級認定については日常生活の困難度との関連が合理的であることが求められるが、以前の認定基準は、両眼の視力の和により等級が定められていたことなど、現実の日常生活の困難度と乖離する部分があったため、平成29年に視覚障害の認定基準に関する検討会が設置され、平成28年8月26日に日本眼科学会および日本眼科医会でとりまとめられた「視覚障害認定基準の改定に関するとりまとめ報告書」において示された方向性に基づいて新たな基準の検討がなされ、視力については良い方の眼の視力を基準とした等級認定基準に変更し、視野については中心視野のみの障害の評価などについて変更された。しかし改定で用いられたlogMAR視力に基づく検討による等級の線引きについては、日常生活の困難さの感覚と等級基準との関連について当事者の理解が得にくい部分があり、米国で使用のFunctional Vision Score (FVS)の使用を検討すべきではないかとの議論があった。さらに片眼失明者や眼瞼痙攣、羞明等の、現状の基準では障害認定されないが視機能に問題がある患者について認定につなげていくべきかどうか検討すべきとされた。これらの課題に対応するため、視機能とADLに関する評価について科学的知見を整理し、障害認定基準の改善につなげる研究を実施する必要があり、本研究では視機能全般について医学的に合理的な説明が可能で、当事者の生活上の困難度とも乖離のない客観的な新しい認定基準の検討のための基礎資料を作成する。
研究方法
テーマ1:本邦の視機能障害認定の実態に関し文献検索、諸外国の視機能障害認定法を調査、米国に関しては現地滞在経験のある者にインタビューを行い、班会議での意見交換。テーマ2:Functional vision score (FVS)に関する現状の研究ついてレビューを行い、論文抽出方法としてデータベース検索は最終的に令和2年12月6日 時点で行い、医学中央雑誌(医中誌)、及び米国国立医学図書館(National Library of Medicine、NLM)が提供する文献データベース(PubMed)を用いた。ハンドサーチとしての対象雑誌は、ロービジョンや視能訓練に関する研究を収載した3誌(日本ロービジョン学会誌、日本視能訓練士協会誌、日本の眼科)とした。続いて、論文のスクリーニングを以下の採択基準に基づき実施。即ち、①原著・総説・解説であることと(会議録は除外)、②Functional vision score、Functional field score、およびFunctional acuity scoreのいずれかを用いている、もしくは言及していること、③1994~2018年に発表されたものとした。テーマ3:視覚ADL調査として東北大学の鈴鴨らが開発したthe low-vision-specific function and activities of daily living measure (LVFAM)を用いて、LVFAMは、23項目のLVFDL及び9項目のLVADLの聞き取り調査である。テーマ4:千葉大学医学部附属病院の眼科外来を、令和1年7~12月の6カ月間に受診した患者で片眼症例の定義に該当する症例を後ろ向きに調査した。
結果と考察
テーマ1:韓国において本邦と同様の基準があった。また米国では法的な失明が定義され、それによる特権が与えられているが、本邦のような等級制度はとられていないことが判明した。テーマ2:FVSは視力と視野の状態をクリアな基準でスコア化し統合した指標として、視機能評価に非常に有用である。また、患者や家族、関係者など医療関係者以外の人に理解しやすく、臨床研究にも使用しやすい。身体障害者基準を判定する上での視機能評価法としても有用である可能性が高いと思われたが、医療現場としては、全面的にFVSへ切り替ることは時間が必要と判断された。テーマ3:LVFAMを用いた初めての視覚ADL調査は視覚障害を捉える方法として意義が大きいと思われた。片眼失明症例では比較的良好な視覚ADLで、眼瞼痙攣では視覚障害6級相当と同程度の視覚ADLで不良で、これは眼瞼痙攣の重症度によると思われた。テーマ4:片眼の疫学調査としては単施設だけの結果である。半年間でも10例の片眼新患症例が認められ、本邦全体としては、少なくない症例数になると思われたが、厳密に調査することは容易ではない。
結論
テーマ1の「国外状況」、2の「FVSの動向」、3の「視覚ADL調査」、3から附随した4の「片眼疫学調査」は、予定通り終了した。それぞれに課題はあるが、本事業で得られた成果は、視覚障害者医療福祉政策に活用すべきと思われた。

公開日・更新日

公開日
2021-07-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202018002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現代のような情報化社会であるにも関わらず、視覚障害者に対する諸外国の制度の異同や、FVSをはじめとした新規性高い視覚評価の動向は、眼科の学会的にもほとんど知られていないことで、興味すら持たれていないかったが、新しい治療スタイルを社会実装するためには、新規性が高ければ高いほど、同時に評価系を育成すべきであるので、眼科における研究及び開発の促進に、本事業の成果は有用であり、早急に眼科学会などでも報告すべきと思われる。
臨床的観点からの成果
視覚障害者における身体障害者等級制度は、実臨床の進化に伴いアップデートできるということを、臨床現場の眼科医は知らない。医療福祉制度を見直す作業は、厚生労働省の医系技官と日本眼科学会理事クラスができる責務だと捉えられているが、医療福祉サービスの体制も、医療現場の医師が関与できることの事例として、眼科以外の全診療科分野にアピールできる点である。臨床医も医療福祉サービスをアップデートする責務があり、行政機関と連携すれば可能であるという画期的な成果といえる。
ガイドライン等の開発
数多い診療ガイドライン(Minds提唱)ではなく、PMDAが関与するいわゆる「臨床評価に関するガイドライン(以下、評価ガイドライン)は眼科分野では抗菌点眼のみで、全診療科でも22件しか存在しない。評価ガイドラインで重要視されることは臨床的または社会的な意義である。今回各テーマで得られた一定の成果は、様々な眼疾患における臨床的あるいは社会的な意義につながると思われ、PMDAレギュラトリーサイエンスセンターあるいはARO協議会と連携して評価ガイドラインの開発を促進させる啓発活動になる。
その他行政的観点からの成果
視覚障害者に対する医療福祉サービスについて、眼科の医療現場の委員が中心となり、福祉行政に反映させる実態調査を初めて行ったことは、学術活動の成果発表とは異なり、患者や家族、さらに、国民に説明できるいわゆる患者目線「評価」の根拠の一つとなると思われる。このような産官民学連携の事業は継続可能と思われる。
その他のインパクト
視覚におけるQOL(生活の質)調査は数多いものの、メイン調査であるテーマ3で用いたADL(活動指標)に目を向けた大きなインパクトがあり、今後、視覚ADL調査がトレンドになると思われる。これは本邦に限ったことではなく、欧米やアジア諸国にも発信したい。また、新型コロナウイルス感染拡大状況の中、感染者出すこともなく組み入れ臨床研究を完遂したことの意義も大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
202018002Z