認知症の人やその家族の視点を重視した認知症高齢者にやさしい薬物療法のための研究

文献情報

文献番号
202017001A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の人やその家族の視点を重視した認知症高齢者にやさしい薬物療法のための研究
課題番号
H30-認知症-一般-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 太郎(東京大学大学院医学系研究科)
  • 大野 能之(東京大学 医学部附属病院)
  • 楽木 宏実(大阪大学大学院 医学系研究科 老年・総合内科学)
  • 神崎 恒一(杏林大学 医学部高齢医学)
  • 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
  • 溝神 文博(国立長寿医療研究センター 薬剤部)
  • 水上 勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻)
  • 浜田 将太(一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,903,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリファーマシーやpotentially inappropriate medication(PIM)、すなわち特に慎重な投与を要する薬剤の使用など、認知症者に対する薬物療法の実態と問題点について調査し、同様に医療機関や介護施設などで医療を受ける認知症者の治療実態に関し調査した。
研究方法
研究1.地域在住の高齢認知症者の薬物療法の実態をレセプトデータの解析を行い、広島県呉市在住の認知症者の処方実態とその影響、特にポリファーマシーやPIMの使用を調査することとした。
研究2.医療を提供するさまざまな現場における認知症者の薬物療法の実態と薬剤調整の現状について調査を行った。具体的には、老年科入院病床や認知症疾患医療センター、介護老人保健施設(以下、老健)における後ろ向き調査とした。本年度は老年科入院病床における検討を行った。
研究3.上記の研究結果を踏まえ、認知症者に段階的推奨度を示す薬剤評価ツールを新たに構築することとした。
結果と考察
レセプト調査における65歳以上の認知症者は3710名(5.5%)であった。認知症者は非認知症者と比較し、平均年齢が高く(84.1±6.8歳vs76.8±7.7歳)、平均薬剤種数が多い(6.1±4.0剤vs3.4±3.7剤)という結果であった。6剤以上のポリファーマシーの頻度は認知症者で多く(54.9%vs 26.1%)、主に要介護認定を受けている高齢者で両者とも高かった。処方による予後への影響を検討すべく、肺炎入院を起こした高齢患者を調査したところ、年齢・性別の補正のロジスティック回帰分析においてポリファーマシー(オッズ比1.41、95%CI 1.30-1.52)、PIMの使用(オッズ比1.23、95%CI 1.14-1.33)が肺炎増加に対し有意な関連が認められた。同時に抗コリン作用についてAnticholinergic Risk Scale(ARS)の指標を用いて評価したところ、同様の検討において肺炎入院と有意な関連を認めた(ARS1点あたりオッズ比1.18, 95%CI 1.12-1.25)。以上より、認知症者におけるポリファーマシーやPIMの使用、さらに抗コリン作用を有する薬剤がリスクとなることが示唆された。
研究2.老年科入院の認知症患者244名の入院時薬剤数(種類)は平均5.8±3.7剤、退院時薬剤数(種類)は4.7±3.0剤であり、退院時には有意に減少していた(p<0.005)。高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編)に記載されているPIMは入院時1.4剤、退院時1.1剤であり、退院時には有意に減少していた(p=0.014)。主なPIMは、ベンジアゼピン系・非ベンジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、緩下薬であった。Anticholinergic Risk Scaleで1点以上の患者はわずかであり入院時9名、退院時4名であり、そもそも抗コリン作用を有する薬剤の処方が少ないことが明らかとなった。
 検討を行った老年内科入院病床では入院・入所中に薬剤の見直しが行われたことが示唆され、薬剤の減少が認められた。老年内科では睡眠薬のみならず生活習慣病治療薬なども見直しの対象となっていた。
また、認知症者に段階的推奨度を示す薬剤評価ツールとしてJAPAN-FORTAを作成した。
結論
認知症者はポリファーマシーになりやすく、特に要介護状態が契機となる可能性が示唆され、予後の悪化にも関連した。今後ますます薬剤の見直しを認知症者において行っていかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202017001B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症の人やその家族の視点を重視した認知症高齢者にやさしい薬物療法のための研究
課題番号
H30-認知症-一般-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 太郎(東京大学大学院医学系研究科)
  • 大野 能之(東京大学 医学部附属病院)
  • 楽木 宏実(大阪大学大学院 医学系研究科 老年・総合内科学)
  • 神崎 恒一(杏林大学 医学部高齢医学)
  • 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
  • 溝神 文博(国立長寿医療研究センター 薬剤部)
  • 水上 勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻)
  • 浜田 将太(一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリファーマシーやpotentially inappropriate medication(PIM)、すなわち特に慎重な投与を要する薬剤の使用など、認知症者に対する薬物療法の実態と問題点について調査し、同様に医療機関や介護施設などで医療を受ける認知症者の治療実態に関し調査した。
研究方法
研究1.地域在住の高齢認知症者の薬物療法の実態をレセプトデータの解析を行い、広島県呉市在住の認知症者の処方実態とその影響、特にポリファーマシーやPIMの使用を調査することとした。
研究2.医療を提供するさまざまな現場における認知症者の薬物療法の実態と薬剤調整の現状について調査を行った。具体的には、老年科入院病床や認知症疾患医療センター、介護老人保健施設(以下、老健)における後ろ向き調査とした。本年度は老年科入院病床における検討を行った。
研究3.上記の研究結果を踏まえ、認知症者に段階的推奨度を示す薬剤評価ツールを新たに構築することとした。
結果と考察
レセプト調査における65歳以上の認知症者は3710名(5.5%)であった。認知症者は非認知症者と比較し、平均年齢が高く(84.1±6.8歳vs76.8±7.7歳)、平均薬剤種数が多い(6.1±4.0剤vs3.4±3.7剤)という結果であった。6剤以上のポリファーマシーの頻度は認知症者で多く(54.9%vs 26.1%)、主に要介護認定を受けている高齢者で両者とも高かった。処方による予後への影響を検討すべく、肺炎入院を起こした高齢患者を調査したところ、年齢・性別の補正のロジスティック回帰分析においてポリファーマシー(オッズ比1.41、95%CI 1.30-1.52)、PIMの使用(オッズ比1.23、95%CI 1.14-1.33)が肺炎増加に対し有意な関連が認められた。同時に抗コリン作用についてAnticholinergic Risk Scale(ARS)の指標を用いて評価したところ、同様の検討において肺炎入院と有意な関連を認めた(ARS1点あたりオッズ比1.18, 95%CI 1.12-1.25)。以上より、認知症者におけるポリファーマシーやPIMの使用、さらに抗コリン作用を有する薬剤がリスクとなることが示唆された。
研究2.老年科入院の認知症患者244名の入院時薬剤数(種類)は平均5.8±3.7剤、退院時薬剤数(種類)は4.7±3.0剤であり、退院時には有意に減少していた(p<0.005)。高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編)に記載されているPIMは入院時1.4剤、退院時1.1剤であり、退院時には有意に減少していた(p=0.014)。主なPIMは、ベンジアゼピン系・非ベンジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、緩下薬であった。Anticholinergic Risk Scaleで1点以上の患者はわずかであり入院時9名、退院時4名であり、そもそも抗コリン作用を有する薬剤の処方が少ないことが明らかとなった。次に認知症を有する老健入所者対象者を検討した。属性としては、女性が75%、85歳以上が60%、認知症高齢者の日常生活自立度はランクI、II及びIII以上(Mを含む)がそれぞれ12%、41%及び47%、障害高齢者の日常生活自立度はランクJ/A(寝たきりでない)及びB/C(寝たきり)がそれぞれ33%及び67%であった。認知症自立度がIII以上であることと寝たきりであることとの間に有意な関連がみられた(P<0.01、カイ二乗検定)。平均薬剤種類数は、入所時において、認知症自立度がII以下で6.2種類、III以上で5.6種類、入所2ヵ月時においてはそれぞれ5.7種類及び5.0種類であり、認知機能による有意な差がみられた(P<0.01、ウェルチのt検定)。抗認知症薬の処方は入所時19%から入所2ヵ月時13%であり、有意に減少した(P<0.01、マクネマー検定)。睡眠薬は25%から22%、抗不安薬は12%から11%と程度は小さいが減少がみられた(いずれもP<0.01)。一方、抗精神病薬は13%から14%と変化がみられなかった(P=0.46)。
 検討を行った老年内科入院病床では入院・入所中に薬剤の見直しが行われたことが示唆され、薬剤の減少が認められた。老年内科では睡眠薬のみならず生活習慣病治療薬なども見直しの対象となっていた。
また、認知症者に段階的推奨度を示す薬剤評価ツールとしてJAPAN-FORTAを作成した。
結論
認知症者はポリファーマシーになりやすく、特に要介護状態が契機となる可能性が示唆され、予後の悪化にも関連した。今後ますます薬剤の見直しを認知症者において行っていかなければならない。

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202017001C

収支報告書

文献番号
202017001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,673,000円
(2)補助金確定額
7,673,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,194,305円
人件費・謝金 2,848,181円
旅費 58,225円
その他 1,827,130円
間接経費 1,770,000円
合計 7,697,841円

備考

備考
差額24,841円を自己資金にて補填

公開日・更新日

公開日
2022-01-25
更新日
-