文献情報
文献番号
202016013A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の口腔管理等の充実のための研究
課題番号
20GA1003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
平野 浩彦(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科/研究所 口腔保健と栄養)
研究分担者(所属機関)
- 本川 佳子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 枝広 あや子(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 小原 由紀(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 荒井 秀典(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)
- 飯島 勝矢(国立大学法人 東京大学 高齢社会総合研究機構/未来ビジョン研究センター)
- 恒石 美登里(公益社団法人 日本歯科医師会 日本歯科総合研究機構)
- 岩崎 正則(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 五十嵐 憲太郎(日本大学 松戸歯学部)
- 渡邊 裕(北海道大学 大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室)
- 古屋 純一(昭和大学歯学部 高齢者歯科学講座)
- 大河内 二郎(社会医療法人 若弘会 介護老人保健施設 竜間之郷)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
4,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者の口腔機能低下の実態・課題の把握
「口腔の機能」が注目され、日本初のオーラルフレイル概念の考案、口腔機能低下症の医療保険病名採用による医療環境整備などが急速に進んでいる。その一方で、口腔機能低下症から摂食嚥下障害の発症の詳細な実態、またその重度化から導かれる低栄養 、サルコペニア、フレイル、身体機能障害、疾患(誤嚥性肺炎など)などの発現リスクの実態把握もされておらず、重症度に沿った系統立った支援・対応策は国内外でもほとんど検討されていない。
このような背景のもと、研究初年度は高齢者の口腔機能低下の重症度別に、歯科医療機関が高齢者に提供する口腔衛生・ 口腔機能に関する指導・訓練や介助者へ行う指導について、効果的・効率的な管理方法を考えるための基礎資料を構築する。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
長期コホートの統合データを用いて、地域在住高齢者の口腔機能低下症の有病率を算出したところ、全体で48.5%であり、フレイル(6.3%)、サルコペニア(18.0%)と比較して著しく高かった。口腔機能低下症に対応する物的・人的資源は限られているため、他の病態(フレイル・サルコペニア)の有病率とも大きな乖離のない、新たな口腔機能低下症の定義が必要であると考えられた。口腔機能低下症の各項目は該当率が高く、その組み合わせが口腔機能低下症の有病率を押し上げる原因となっているため、各項目がアウトカムを識別する上で本当に必要なのかを評価することとした。
「口腔の機能」が注目され、日本初のオーラルフレイル概念の考案、口腔機能低下症の医療保険病名採用による医療環境整備などが急速に進んでいる。その一方で、口腔機能低下症から摂食嚥下障害の発症の詳細な実態、またその重度化から導かれる低栄養 、サルコペニア、フレイル、身体機能障害、疾患(誤嚥性肺炎など)などの発現リスクの実態把握もされておらず、重症度に沿った系統立った支援・対応策は国内外でもほとんど検討されていない。
このような背景のもと、研究初年度は高齢者の口腔機能低下の重症度別に、歯科医療機関が高齢者に提供する口腔衛生・ 口腔機能に関する指導・訓練や介助者へ行う指導について、効果的・効率的な管理方法を考えるための基礎資料を構築する。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
長期コホートの統合データを用いて、地域在住高齢者の口腔機能低下症の有病率を算出したところ、全体で48.5%であり、フレイル(6.3%)、サルコペニア(18.0%)と比較して著しく高かった。口腔機能低下症に対応する物的・人的資源は限られているため、他の病態(フレイル・サルコペニア)の有病率とも大きな乖離のない、新たな口腔機能低下症の定義が必要であると考えられた。口腔機能低下症の各項目は該当率が高く、その組み合わせが口腔機能低下症の有病率を押し上げる原因となっているため、各項目がアウトカムを識別する上で本当に必要なのかを評価することとした。
研究方法
高齢者の口腔機能低下の実態・課題の把握
地域(東京都板橋区、群馬県草津町)在住高齢者2,503 名(平均77.0 歳;男性888 名、女性1,615 名)の統合データベースを作成した。さらに歯・口腔の変数の特性探索として潜在クラス分析と項目反応理論による解析を実施した。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
統合データベースに登録された地域在住高齢者のうち、口腔機能低下症を定義可能な者1,611 名を対象に、アウトカムを
・ フレイル
・ サルコペニア
・ 低アルブミン血症(< 4g/dL)
とし、口腔機能低下症各項目(0 / 1 でコード)とアウトカムとの関連の強さについてオッズ比を算出した。オッズ比を効果量の代替として、オッズ比の大小で各項目を相対的に重み付けした。
口腔機能低下症を定義する7項目について、オッズ比の大きいものから順に相対的な重みを与えた。フレイル、サルコペニア、低アルブミン血症、それぞれについて重み付けをした後、その重みを合計した。重みの合計値の大きい項目、すなわちアウトカムと最も強く関連していた項目から順に組み込んだモデルを逐次構築し、各モデルのアウトカム識別能を評価した。
地域(東京都板橋区、群馬県草津町)在住高齢者2,503 名(平均77.0 歳;男性888 名、女性1,615 名)の統合データベースを作成した。さらに歯・口腔の変数の特性探索として潜在クラス分析と項目反応理論による解析を実施した。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
統合データベースに登録された地域在住高齢者のうち、口腔機能低下症を定義可能な者1,611 名を対象に、アウトカムを
・ フレイル
・ サルコペニア
・ 低アルブミン血症(< 4g/dL)
とし、口腔機能低下症各項目(0 / 1 でコード)とアウトカムとの関連の強さについてオッズ比を算出した。オッズ比を効果量の代替として、オッズ比の大小で各項目を相対的に重み付けした。
口腔機能低下症を定義する7項目について、オッズ比の大きいものから順に相対的な重みを与えた。フレイル、サルコペニア、低アルブミン血症、それぞれについて重み付けをした後、その重みを合計した。重みの合計値の大きい項目、すなわちアウトカムと最も強く関連していた項目から順に組み込んだモデルを逐次構築し、各モデルのアウトカム識別能を評価した。
結果と考察
高齢者の口腔機能低下の実態・課題の把握
地域在住高齢者の口腔機能低下症の有病率を算出したところ、全体で48.5%であり、フレイル(6.3%)、サルコペニア(18.0%)と比較して著しく高かった。また、85歳以上の年齢階級では4人に3人が口腔機能低下症に該当した。口腔機能低下症を定義する7項目のうち、「地域在住高齢者の口腔機能」の特性を見る上で機能する項目は「咀嚼機能低下」「咬合力低下」であることが示された。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
フレイル・低アルブミン血症をアウトカムとする場合、「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」の4 項目を含めた時点で、それ以上に項目を加えても識別能の向上は認められなかった。サルコペニアをアウトカムとする場合、「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下 + 嚥下機能低下」の5 項目を含めた時点でそれ以上の識別能の向上は認められなかった。
口腔機能低下症(7 項目)と「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」4 項目モデルのアウトカム識別能をC 統計量を用いて比較すると、両者に差は認められなかった。
地域在住高齢者の口腔機能低下症の有病率を算出したところ、全体で48.5%であり、フレイル(6.3%)、サルコペニア(18.0%)と比較して著しく高かった。また、85歳以上の年齢階級では4人に3人が口腔機能低下症に該当した。口腔機能低下症を定義する7項目のうち、「地域在住高齢者の口腔機能」の特性を見る上で機能する項目は「咀嚼機能低下」「咬合力低下」であることが示された。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
フレイル・低アルブミン血症をアウトカムとする場合、「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」の4 項目を含めた時点で、それ以上に項目を加えても識別能の向上は認められなかった。サルコペニアをアウトカムとする場合、「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下 + 嚥下機能低下」の5 項目を含めた時点でそれ以上の識別能の向上は認められなかった。
口腔機能低下症(7 項目)と「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」4 項目モデルのアウトカム識別能をC 統計量を用いて比較すると、両者に差は認められなかった。
結論
高齢者の口腔機能低下の実態・課題の把握
口腔機能低下症に対応する物的・人的資源は限られているため、他の病態(フレイル・サルコペニア)の有病率とも大きな乖離のない、新たな口腔機能低下症の定義が必要であると考えられた。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」4 項目モデルが現在の口腔機能低下症(7項目モデル)とアウトカム識別能に遜色がなく、有病率は約半分(24.4%)であり、さらに重症度の定義も可能になることが示された。
口腔機能低下症に対応する物的・人的資源は限られているため、他の病態(フレイル・サルコペニア)の有病率とも大きな乖離のない、新たな口腔機能低下症の定義が必要であると考えられた。
地域在住高齢者コホートデータを用いた「口腔機能低下症」の検証
「低舌圧 + 咀嚼機能低下 + 舌口唇運動機能低下 + 咬合力低下」4 項目モデルが現在の口腔機能低下症(7項目モデル)とアウトカム識別能に遜色がなく、有病率は約半分(24.4%)であり、さらに重症度の定義も可能になることが示された。
公開日・更新日
公開日
2021-06-02
更新日
-