アルツハイマー病患者に対する生活行為工程分析に基づいたリハビリテーション介入の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
202016009A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病患者に対する生活行為工程分析に基づいたリハビリテーション介入の標準化に関する研究
課題番号
19GA1005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
田平 隆行(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 生活行為工程分析表(Process Analysis of Daily Activity for Dementia; PADA-D)は,認知機能の側面から工程分析した評価表であり,介助量を主体とした既存のADL評価尺度では把握できなかった詳細な変化を捉えることが可能である.我々は、在宅アルツハイマー型認知症(AD)においてPADA-Dの各IADLの自立度を重症度別に検討し,手続き的記憶を用いた工程が中等度者でも残存しやすいことを明らかにした.在宅生活を継続するためには生活行為の残存能力を活かし,かつ具体的な生活行為障害を予測し早期に介入することが重要となる.
 本研究では,地域在住AD患者に対して生活行為工程分析に基づいたリハビリテーションを3か月間介入し,その効果をPADA-Dを用いて非ランダム化比較試験にて検証した.
研究方法
1.研究デザイン
 本研究では,介入施設ごとに特徴があることから非ランダム化比較試験を採用した.アウトカム評価は盲検化し,評価者と介入者は異なるセラピストとした.
2.対象
 地域に在住する65歳以上のAD及びMCI高齢者で,MMSE得点は10点以上の者とした .除外基準は重度な身体障害が認められる者とした.リクルートは,全国6府県の認知症疾患医療センター,訪問看護ステーション,通所リハビリテーション・介護事業所から抽出した.
3. 調査項目
 主要アウトカムとしてPADA-D総合得点(Max210),IADL得点(Max120),BADL得点(Max90),下位項目(Max15),PSMS,Lawton IADL,MMSEとした.PADA-Dの評価方法は,リハ専門職等の自宅訪問による観察及び信頼ある家族からの聞き取りとした.副次アウトカム指標は,Zarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI8),認知症行動障害尺度(DBD13)とし,介入群のみ目標設定した生活行為の満足度(10段階),遂行度(10段階)であった.
4.介入方法
 介入は,PADA-Dにて低下している工程及び残存している工程を明らかにし,本人・家族の合意のもと介入する生活行為を3行為まで選択する.具体的な目標を決定し,目標志向的に生活行為へのリハビリテーション介入を行う.介入は,1回/週を基本とし,1回40分,3か月間,リハ専門職等が自宅を訪問して行うが,目標に応じた自宅以外の実施はこの限りではない. 対照群は,研究協力者の施設で通常行っているプログラムのみを実施した.
結果と考察
1.ベースラインの比較
 対象者は,COVID-19関連を含むドロップアウト8名,対象疾患外3名を除外して,最終的に介入群25名(女性16名,76.2±9.1歳),対照群24名(女性15名,78.5±6.4歳)を分析対象とした.ベースラインでの2群間比較については,基礎的情報,認知機能,ADL,DBD13,Zarit8全てにおいて有意差なく,同等の対象条件であった.しかし,COVID-19の影響による介入中に中断した者が9名(中断期間30-150日)であった.
2.介入前後比較(2元配置分散分析)
 Lawton IADL(F=4.32, P<0.05),PADA-D総合得点(F=3.98)に有意な交互作用が見られ,介入効果が認められた.認知機能,行動心理症状,他ADL尺度には有意な変化なかった.
3.PADA-D下位項目の介入前後比較
 目標とする介入が多かった洗濯,買い物,服薬管理,整容の介入前後の2群間比較を実施し,濯(F=3.32)のみ有意な交互作用が認められた.
4.目標とした生活行為と工程分析の介入前後比較 
 介入群25名の生活行為の目標数は合計53(1事例当たり2.12)であった.そのうち洗濯を目標とした者が8名,移動・外出7名,家事(掃除など)5名,買い物,調理,服薬管理,整容4名,入浴3名の順で多かった.それぞれ介入ポイントに応じた部分的な工程の改善が見られた.
5.目標とした生活行為の満足度と遂行度
 介入後,満足度,遂行度共に有意に向上し,目標指向的介入によって主観的な評価は高まることが確認された.
結論
 認知機能は変化せずともADLの総合点数はわずかながら改善した.特に,目標とする生活行為については介入を焦点化した「工程」で改善する傾向を示した.従来のADL評価スケールは,介助量で段階付けされているため,この点は表出できず,PADA-Dの特徴が示されたと考える.また,目標とした生活行為(工程)の満足度,遂行度は向上し,主観的評価は得られた.地域在住AD患者に対しては生活行為を分析し,直接的にADLに介入することが効果的であった.しかし,COVID-19の影響や重症度,居住環境,習慣性,性差等の交絡因子があるため,さらなる検証が必要である

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202016009B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病患者に対する生活行為工程分析に基づいたリハビリテーション介入の標準化に関する研究
課題番号
19GA1005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
田平 隆行(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 地域在住アルツハイマー病患者に対して生活行為工程分析に基づいたリハビリテーションを3か月間介入し,その効果を生活行為工程分析表(PADA-D)を用いて非ランダム化比較試験にて検証する.また,研究成果に基づき「認知症の人の生活行為向上に資するリハビリテーションの手引き」を作成し,標準的な認知症リハビリテーションを提案する.
研究方法
1.研究デザイン
 介入施設ごとに特徴があることから非ランダム化比較試験を採用した.アウトカム評価は盲検化し,評価者と介入者は異なるセラピストとした.
2.対象
 対象は地域に在住する65歳以上のAD,MCI高齢者で,MMSE得点は10点以上の者とした .除外基準は顕著な整形疾患,神経疾患,感覚器疾患等による生活行為障害が認められる者とした.リクルートは,全国6府県の認知症疾患医療センター,訪問看護ステーション,通所リハビリテーション及び通所介護事業所から抽出した.
3.調査項目
 基本情報は,性別,年齢,診断名,既往歴,居住形態,要介護度,主介護者,障害高齢者及び認知症高齢者の日常生活自立度,服薬状況である.主要アウトカム指標としてPADA-D総合得点(Max210),IADL得点(Max120),BADL得点(Max90),下位項目(Max15),PSMS,Lawton IADL,HADL,MMSEとした.PADA-Dの評価方法は,リハ専門職等の自宅訪問による観察及び信頼ある家族からの聞き取りとした.副次アウトカム指標は,Zarit介護負担尺度短縮版(J-ZBI8),認知症行動障害尺度(DBD13)とし,介入群のみ目標設定した生活行為の満足度(10段階),遂行度(10段階)であった.
4.介入方法
 PADA-Dにて低下している工程及び残存している工程を明らかにし,本人・家族の合意のもと介入する生活行為を3行為まで選択する.具体的な目標を決定し,目標志向的に生活行為へのリハビリテーション介入を行う.介入は,1回/週を基本とし,1回40分,3か月間,リハ専門職等が自宅を訪問して行うが,目標に応じた自宅以外の実施はこの限りではない. 対照群は,研究協力者の施設で通常行っているプログラムおよび他のサービスのみを実施した.
結果と考察
 平成31年度では,地域在住認知症者に対して生活行為分析に基づいたリハビリテーションを3か月間実施し,PADA-Dの変化を8事例について個別的に検討した.
 令和2年度には,地域在住アルツハイマー型認知症(AD)患者49名(うち対照群24名)に対して生活行為工程分析に基づいたリハビリテーションを3か月間介入し,その効果をPADA-Dを用いて非ランダム化比較試験にて検証した.その結果,PADA-D総合得点,Lawton ADL,下位項目では「洗濯」のみ有意な交互作用が認められ,介入効果が示された.目標として多かった「買い物」,「洗濯」等はそれぞれ介入ポイントに応じた部分的な工程の改善が見られた. また,介入群は目標とした生活行為(工程)の満足度,遂行度は向上し,主観的評価が得られた.
 また,本研究では,「認知症の人の生活行為向上に資するリハビリテーションの手引き」を作成した.認知症の生活障害とリハビリテーションについてレビューし,これまでの認知症のADL評価を概観したうえでPADA-Dの使用マニュアル,重症度ごとの特徴を示した.さらに,本研究での介入研究の成果を紹介し,その介入戦略を整理した.最後に,PADA-Dを使用した介入事例を紹介して具体性を持たせた.
結論
 生活行為工程分析に基づいたリハビリテーション介入は,認知機能は変化せずともADL自立度はわずかながら改善を示した.特に,目標とする生活行為については介入を焦点化した「工程」で改善する傾向を示した.従来のADL評価スケールは,介助量で段階付けされているため,この点は表出できずPADA-Dの特徴が示されたと考える.地域在住のADを中心とした認知症高齢者が在宅生活を継続するためにもADL/IADLを詳細に分析し,目標指向的にリハビリテーションを実施する必要がある.また,目的に応じて残存している工程や認知機能の活用・代償,人的・物理的環境介入,反復練習等の介入戦略を選択し,かつ複合的な視点で介入することが重要と考える.

公開日・更新日

公開日
2021-06-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202016009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域在住アルツハイマー型認知症患者49名(うち対照群24名)に対して生活行為工程分析に基づいたリハビリテーションを3か月間介入し,その効果をPADA-Dを用いて非ランダム化比較試験にて検証した.その結果,PADA-D総合得点,IADL,下位項目では「洗濯」のみ有意な交互作用が認められた.目標として多かった「買い物」,「洗濯」等はそれぞれ介入ポイントに応じた部分的な工程の改善が見られた. また,介入群は目標とした生活行為工程の満足度,遂行度は向上し,主観的評価が得られた.
臨床的観点からの成果
本人・家族が望む生活行為に対して認知的側面から工程分析するPADA-Dを活用することで,残存する(得意な)工程や障害される(不得意な)工程を明らかにできる.得意な工程は積極的に参加を促し,不得意な工程は残存機能を活かし,動作練習や環境調整などによってIADLやADLを実施できる可能性がある.
ガイドライン等の開発
「認知症の人の生活行為向上に資するリハビリテーションの手引き」(71ページ)を作成した.
その他行政的観点からの成果
認知症は未だ治癒ができない疾患であるが,認知機能が低下してもADL/IADLは早期の介入により維持でき,介入部分は改善も期待できる.認知機能の改善に着目するのではなく認知症の人の生活行為,生活習慣,生活環境に着目し,その視点で介入することが認知症者の尊厳ある暮らしの継続に寄与する.
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
76件
原著論文(英文等)
55件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tabira T, Hotta M, Maruta M, et al
Characteristic of process analysis on instrumental activities of daily living according to the severity of cognitive impairment in community-dwelling older adults with Alzheimer’s disease
International Psychogeriatrics , 1-12  (2022)
doi:10.1017/S1041610222000552
原著論文2
Shimokihara S, Tabira T, Hotta M, et al
Differences by cognitive impairment in detailed processes for basic activities of daily living in older adults with dementia
Psychogeriatrics  (2022)
doi: 10.1111/psyg.12894

公開日・更新日

公開日
2021-07-14
更新日
2023-06-17

収支報告書

文献番号
202016009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,770,000円
(2)補助金確定額
4,770,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,826,972円
人件費・謝金 578,155円
旅費 38,970円
その他 1,225,903円
間接経費 1,100,000円
合計 4,770,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-29
更新日
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