農薬、食品添加物等のエストロジェン様作用等の検出と評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700437A
報告書区分
総括
研究課題名
農薬、食品添加物等のエストロジェン様作用等の検出と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
金子 豊蔵(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品規制国際的ハーモナイゼーション促進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、農薬や環境化学物質などによる内分泌障害性化学物質による実験的腫瘍発生や生殖毒性・生殖障害が、リスクアセスメントを行う上での問題となっている。マウスの内分泌腫瘍発生は、環境化学物質のエストロジェン作用および抗アンドロジェン作用などが関与していること、さらにこれらは細胞内に存在する性ホルモン受容体等を介して惹き起こされることなどが明らかとされた。ところが、動物とヒトでは受容体の構造が異なり、種差が存在する。そこでこの問題を解決して、農薬など、環境中へのこの種の化学物質の放出の逓減を促し、ヒトへの安全性評価法を確定することが求められている。本研究では種々のバイオアッセイ系にヒト型受容体の発現を促し、それを基に環境化学物質の受容体への親和性、受容体による遺伝子転写活性化能等を利用して、エストロジェン様作用物質・アンドロジェン様作用物質の機能発現機序を明らかにするものである。
研究方法
研究方法と結果=
-調査研究:
エストロジェン様作用物質、及びアンドロジェン様作用物質、更に広義の内分泌障害性化学物質に関する情報の蒐集を、研究協力者の渡米を含む、関連集会への出席や、関連諸研究施設(国立毒性研究センター(National Center for Toxicological Research)、国立環境保健科学研究所(National Institute of Environmental Health)、環境保護庁(Environmental Protection Agency)、化学工業毒性研究所(Chemical Industry Institute of Toxicology))の視察・米国研究者の招聘・研究交流、などによって行った。(井上,菅野)
-エストロジェン様作用物質検出系の作製:
・栄養要求変異酵母に2種類のDNA:エストロジェン受容体遺伝子発現ベクターと、エストロジェン反応領域遺伝子の下流にβガラクトシダーゼ酵素蛋白遺伝子を組み込んだDNAを導入した遺伝子組み換え酵母による、エストロジェン様作用化学物質、植物性エストロジェン、その他の食品関連化学物質に関して、その作用強度、複合作用の検討を行った。その結果、複合作用に関しては、相乗効果は認められず、相加的な効果が認められた。(武木田,菅野)
・ヒト乳ガン由来細胞株MCF-7細胞増殖アッセイ系:ヒト乳ガン由来細胞株MCF-7細胞は、エストロジェン受容体を常に発現しており、エストロジェン反応性に、種々の内在性遺伝子発現および増殖反応が惹起される(この様な形質が安定に発現される細胞株は、エストロジェン受容体を発現していない細胞に同遺伝子を導入しても、経験上なかなか得られないことが知られている)。この性質を用いて、種々のエストロジェン様作用化学物質、植物性エストロジェン、その他の食品関連化学物質に関して、用量反応、複合作用の検討を行った。その結果、複合作用に関しては、相乗効果は認められず、相加的な効果が認められた。(Kyung-Sun Kang,武木田,菅野)
・ヒト乳ガン由来細胞株MCF-7細胞CAT assay:エストロジェン反応性領域遺伝子を結合させたCATレポーター遺伝子をヒト乳ガン由来細胞株MCF-7細胞に遺伝子導入して、エストロジェンに対する反応性をCAT assayにて観察した。これにより環境エストロジェン物質の相乗作用の可能性について、エストロジェンと他のホルモンや伝達物質との間の、相乗作用の検討を開始した。その結果、複合作用に関しては、相乗効果は認められず、相加的な効果が認められた。(Kyung-Sun Kang)
-アンドロジェン様作用物質検出系の作製:
・栄養要求変異酵母に2種類のDNA:アンドロジェン受容体遺伝子発現ベクターとアンドロジェン反応領域遺伝子の下流にβガラクトシダーゼ酵素蛋白遺伝子を組み込んだDNAを導入した遺伝子組み換え酵母による、アンドロジェン様作用物質、抗アンドロジェン物質、および、それらの相互作用を検討した。(武木田,菅野)
-アッセイ系のエンドポイントの設定:
・細胞間連絡(Gap junction intercellular communication):種々の発がんプロモータが細胞間連絡を障害することが知られている。一方、内分泌障害性化学物質の発がんに対する作用機序としては、これらの物質には遺伝子障害性がほとんどないことが知られている点を鑑みると、発がんプロモータとして作用することが想定されている。本研究では、種々の内分泌障害性化学物質について、その細胞間連絡に対する影響を検討した。その結果、種々の内分泌障害性化学物質において、細胞間連絡に対する障害が認められ、また、複合作用としては、見掛け上の相乗効果が見られた。(Kyung-Sun Kang)
・卵巣摘出マウスにおける子宮増殖(uterotropic)アッセイ:卵巣摘出マウス(C57BL/6 )におけるエストロジェンの子宮重量、細胞回転およびアポトーシスに関する検討を行った。実験は、8週令~12週令のマウスより両側卵巣を摘出後7日目より3日ないし14日間エストラジオールを皮下投与し、屠殺前3日間BrdU経飲水投与後、子宮重量、BrdU標識率、およびTUNEL法によるアポトーシスの検出を行った。その結果、3日目における子宮重量は14日目のそれの90%に達していたが、浮腫が著明であった。このことは3日目までの変化はエストラジオールによる血管透過性亢進による変化が主体であり、子宮の細胞増殖に基づく変化は弱いことが示唆された。これは、後述する乳腺の結果とも一致した。この3日暴露プロトコールでは、血管透過性作用のある化合物が偽陽性結果を招来する可能性が示唆された。(松島,菅野,Kyung-Sun Kang)
・乳腺増殖(mammotropic)アッセイ:卵巣摘出マウス(C57BL/6 )におけるエストロジェンの乳腺態に及ぼす影響からその作用を検出する。乳腺は、whole mount法により乳腺全体を包埋、染色、透徹し、導管の分岐およびエンドバッド形成の定量的観察を行った。実験は、8週令~12週令のマウスより両側卵巣を摘出後7日目より3日ないし14日間エストラジオールを皮下投与し、屠殺前3日間BrdU経飲水投与後、子宮重量、BrdU標識率、およびTUNEL法によるアポトーシスの検出を行った。その結果、3日目においては、乳腺の変化は軽微であり、少なくとも5日以上の増殖刺激が必要であることが示唆された。刺激が充分に長ければ、子宮を対象としたアッセイよりも定量化が容易である点で、優れていると考えられた。(Kyung-Sun Kang,松島,菅野)
結果と考察
考察=OECD、WHOなどにおいて、種々のスクリーニング法や、テスト法が提案され、国際的にそのバリデーションが開始されようとしている中、本研究班では、それらに対応すべく、いくつかの研究項目に対して検討を加えてきた。その結果、比較的単純な方法においても詳細なメカニズムに関連して更に検討を要する事項が残されていることが判明した。内分泌障害性化学物質の作用機序は様々である。それら個々の化学物質についてエンドポイントでくくることはたやすいが、相乗効果や相加効果などの理論問題を考慮すると問題の解決は難しい。特に、受容体結合後のシグナル伝達過程などについての検討法が対象としてあげられる。上記の如き問題点を端緒に更に検討を進めたい。
結論
環境エストロジェンの相乗作用については、多くのエンドポイントにおいて、エストロジェン様作用物質同士の相乗作用はない、と考えられる。しかしながら、相加効果や、エストロジェンとその他の物質との間の作用については、注意深く観察する必要が有るものと考える。また、一口に卵巣摘出マウスを用いた子宮増殖といっても、そこには血管透過性など科学的解析が未だ及んでいない不確定要因が存在している。それらの点をも考慮して更に検討を進めていく。

公開日・更新日

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