子ども虐待問題と被虐待児童の自立過程における複合的困難の構造と社会的支援のあり方に関する実証的研究

文献情報

文献番号
200801032A
報告書区分
総括
研究課題名
子ども虐待問題と被虐待児童の自立過程における複合的困難の構造と社会的支援のあり方に関する実証的研究
課題番号
H20-政策・一般-002
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
松本 伊智朗(札幌学院大学 人文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 美香(北海道大学大学院 教育学研究院)
  • 栗山 隆(北星学園大学 社会福祉学部)
  • 小西 祐馬(長崎大学 教育学部)
  • 品川 ひろみ(札幌国際大学 短期大学部)
  • 田中 康雄(北海道大学大学院 教育学研究院)
  • 戸田 まり(北海道教育大学 教育学部)
  • 藤原 里佐(北星学園大学 短期大学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
1,557,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども虐待問題は、家族における生活の不安定と貧困、養育者の心身の疾病や障害、家族関係上の葛藤、子どもの健康と発達上の困難、社会的孤立と排除、社会資源や公的支援へのアクセスの困難などが、複合的に連鎖しするなかで生起し、あるいは深刻化する。被虐待児の回復と社会的自立の困難も、被虐待体験による負因のみならず、こうした家族の不利を基底に持つ。本研究は、こうした複合的な諸困難の構造を実証的に明らかにすることを通して、総合的な社会的支援のあり方を検討することを目的とする。
研究方法
研究初年度である平成20年度は、北海道内の児童相談所における児童虐待受理事例の分析を通して、家族の持つ複合的な困難を明らかにすることを主な目的とした。対象としたのは、平成15年度に北海道内すべての児童相談所において虐待相談として受理したもののうち、当該児童が5歳、14歳、15歳のものすべてである。相当する108例のうち、40例が分析可能な形で調査・転記が終了した。平成15年度を取り上げることで、受理後5年間の支援経過を分析することが可能になる。
結果と考察
40例の分析から得られた主な知見は以下である。
①多くの家族が経済的問題を経験している。これまでの生活歴の中で、「解雇・失業」を経験しているのは19例、借金・多重債務、破産、経済的困窮などを経験しているのは26例、そのどちらかでは30例で、4分の3になる。②多くの家族が、離婚等家族関係の変動を経験している。離婚を経験しているのは、28例である。③夫婦間の暴力、あるいはその疑いがある家族は17例である。
④子どもに知的障害等の障害が見られる家族が多い。当該児童では22例に障害が見られた。また兄弟姉妹では15例に障害が見られた。⑤親の精神疾患が見られる例は15例である。知的障害を含めると19例になる。⑥支援的な親族・知人が確認できたのは15例である。残りの25例は社会的な孤立度が高いと考えられる。⑦18例が、当該虐待受理以前に児童相談所が相談を受け、支援に当たっている。すなわち支援の経過の中で、虐待として受理する場合が半数近くにのぼる。⑧13例が施設入所に至っている。5年後も入所中であるものは4例である。
結論
経済的困窮、家族変動、夫婦間暴力、子どもの障害、親の疾病、社会的孤立が重なり合い、複合的な不利が形成される中で、子育ての困難が子ども虐待問題として表面化すると仮説的に考えられる。また児童相談所の支援は、虐待通告と受理以前にさかのぼるものが半数程度みられ、一事例の支援に長い時間的経過があることが確認できる。

公開日・更新日

公開日
2009-06-24
更新日
-