マリントキシン等畜水産食品の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
199700436A
報告書区分
総括
研究課題名
マリントキシン等畜水産食品の安全性確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安元 健(東北大学農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 熊谷進(国立感染症研究所)
  • 池康嘉(群馬大学医学部)
  • 野口玉雄(長崎大学水産学部)
  • 多部田修(長崎大学水産学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品規制国際的ハーモナイゼーション促進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水畜産物の安全性確保と輸出入の円滑化を目指し、海産毒の定量法の高精度化と水畜産物の適正な加工処理に関する基礎データを集積することを目的とする。まず、生物試験に代わる貝毒の機器分析法を開発して、分析の高精度化を目指す。毒性評価の情報がない中国産養殖フグについて鑑別法を確立するとともにその毒性に関する情報を得る。また、致命率の高いアオブダイ食中毒の原因解明を目指す。畜産品では、鶏卵によるサルモネラ食中毒対策として重要な消費期限の設定に関し、基礎資料を収集する。また、院内感染が問題となっているバンコマイシン耐性腸球菌について輸入肉を含めた食肉中の疫学調査を実施する。
研究方法
下痢性貝毒についてはペクテノトキシン (PTX) 群の蛍光-HPLC分析法の開発を試みた。蛍光化試薬 DMEQ-TAD によるラベル化とHPLC による分離条件の検討を行った。中国産フグと国内産フグについて遺伝子塩基配列を解析する集団遺伝学的研究を行った。また、収集した中毒産フグの個体別、組織別毒性試験を実施した。アオブダイについては中毒原因試料を入手し、毒性試験を実施するとともに、毒の化学、薬理学的性状および抗パリトキシン抗体による免疫学的性状を調査した。鶏卵によるサルモネラ中毒については、サルモネラ・エンテリティディス対策の観点から鶏卵の消費期限に関して行われている研究および規制について、国内外の情報を収集した。また、輸入食肉検査所および全国数カ所の食肉処理場から鶏肉試料を集め、VRE、特に Class A に分類される高度耐性菌による汚染調査を実施した。
結果と考察
これまで一部の成分を除いて有効な分析法がなかった下痢性貝毒のペクテノトキシン(PTX) 群について、毒群に共通して存在する共役ジエンに着目し、DMEQ-TADを蛍光ラベル化剤とする蛍光HPLCの各種条件を検討した。反応の特質上、各成分ごとに複数のピークを与えるが、PTX1, 2, 3, 4 の分離および定量が可能であった。最も重要な PTX2 は試験した1~200 ng の範囲で良好な直線性を示し、イタリア等の Dinophysis fortii 、ノルウェー産の二枚貝からの検出に成功し、本成分が日本以外でも出現する事を明らかにした。
中国産フグと国産6種のトラフグ属について、3種の遺伝子をPCR で増幅し、塩基配列を解析、比較したが、中国産フグとトラフグ、カラスの3者を明確に区別することはできなかった。また、トラフグと類維持した中国産フグ3群計38個体について、組織別に毒性試験を実施したが、筋肉はいずれも無毒であった。
中毒原因となった個体を含めたアオブダイを集め毒性試験を実施した。長崎大学では酢酸含有エタノールで抽出し、ジエチルエーテルで脱脂した画分に 0.5-2.0 MU/g のマウス腹腔内投与による致死活性が認められた。東北大学および大阪府衛生研究所で行った試験では中毒検体でも 0.5-1.0 MU/g の低い値であり、投与量ー致死時間の関係はパリトキシンと一致しなかった。本中毒へのパリトキシンの関与の有無をより明確にするために、感度のよい溶血試験を実施したところ、抽出物の極性区の数画分に弱い溶血活性が認められた。しかし、この活性は抗パリトキシン抗体で中和されず、これまで原因と疑われていたパリトキシンの関与の可能性が低いことが明らかとなった。なお、トリチウム標識ブレベトキシンを使ったナトリウムチャンネル結合試験を実施したところ、中毒検体の肝臓抽出物中に同毒と拮抗する活性が観察され、シガトキシンと同様の作用を有する毒の存在が明らかになった。標準に使用したCTX3C に換算すると 4 ng/g, 0.16MU/g に相当した。
殻付き鶏卵の保存温度とサルモネラ・エンテリティディスの増殖による内容の変化を調べたHumphreyの実験では、37℃で2日以内、30℃では6-10日後、20℃では約4週間後に、卵黄膜の透過性が変化して菌が急速に増殖できる条件が生じることを示している。殻付き卵のサルモネラ対策に関し、WHOは原則10℃以下で保存、または新鮮な卵を供給しなければならない、消費期限または産卵日表示を検討しなければならないとしている。英国、独国は、乾燥させ、直射日光を避け、20℃程度以下を維持して輸送することとしている。英国は消費期限の表示、米国は5週間以内の消費としている。
輸入鶏肉の試験により、現在、あるいは最近まで飼料添加物としてアボパルシンが使用されていたタイ、フランスの検体から、高頻度でバンコマイシン高度耐性腸球菌が検出されたが、国内産鶏肉および上記抗生物質が使用されていない中国、ブラジル、アメリカからの輸入鶏肉からは検出されなかった。
結論
下痢性貝毒の一群として日本産ホタテガイから同定されていたPTXが世界各地の試料から検出されたことから、国際貿易においても同毒による二枚貝の汚染について十分に留意する必要がある。また、今回、簡便かつ高精度な化学分析法が開発できたことはPTXの監視を容易にしただけではなく、二枚貝の代謝による変化など、毒化機構解明に有用な武器を得たことになる。
中国産フグに筋肉に毒を含む個体は発見ざれず、また、DNA断片の塩基配列の解析からは中国産フグがカラスとは異なることを証明できなかった。しかし、両者には明らかな形態的差異が認められるることから、さらに個体数を増やした毒性試験と現地調査が必要と考えられる。
アオブダイの中毒検体からパリトキシンは検出されなかった。今回、ナトリウムチヤンネルに対してシガトキシンと同じように結合する成分が検出されたことはアオブダイ中毒原因に新たな光を当てるものであり、今後十分に考慮する必要がある。
サルモネラ・エンテリティディス汚染に関する殻付き卵の保存については我が国の夏場の戸外温度条件下の1週間と消費者にわたってからの冷蔵保存の期間を加えた期間が期限設定の目安になると考えられた。また、各国の規制状況から、我が国においても流通時の冷却を考慮するべきであろうことが考えられた。
鶏肉中のバンコマイシン耐性菌については、今回の調査のように一回の調査で高度耐性菌が高頻度に分離された例はなく、同菌による食肉の汚染の広がりを示していた。特に輸入肉から環境ヘ、さらにヒト細菌叢への伝搬の危険性が指摘される。

公開日・更新日

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