種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究

文献情報

文献番号
202011088A
報告書区分
総括
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究
課題番号
20FC1056
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 竹島 多賀夫(社会医療法人 寿会 富永病院 脳神経内科)
  • 西上 智彦(県立広島大学 保健福祉学部(三原キャンパス))
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部)
  • 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
  • 細井 昌子(九州大学 九州大学病院心療内科/集学的痛みセンター)
  • 森岡 周(畿央大学 健康科学部理学療法学科/大学院健康科学研究科)
  • 坂部 貢(東海大学)
  • 岩田 昇(桐生大学 医療保健学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 医学部)
  • 春山 康夫(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
基礎疾患の有無によらず、原因不明で難治性の種々の症状に悩む者は少なからず存在する。その症状の多くは周囲からの理解が得られにくいことから、患者は一人で悩み、生活の質も著しく低下することとなる。そのため、これらの症状の疾患概念と疫学的特徴を明らかにし、患者への理解と対策を行うことは現代の大きな社会的課題である。近年、上記症状の背景要因の一つとして、中枢神経の感作状態が考えられている。すなわち、様々な中枢神経への不快な外部刺激の繰り返しにより、中枢神経が感作され、痛みの増強や広範囲の慢性難治性の疼痛をはじめとする、様々な身体症状や精神症状が引き起こされるという概念である。このような病態で起こる症状は中枢性感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)といわれ、慢性難治性片頭痛,線維筋痛症,慢性疲労症候群,化学物質過敏症,過敏性大腸症候群、重症レストレスレッグス症候群などの一部に関与していると考えられている。CSSの診断は今のところ、2012年に英語版、2017年に日本語版が開発された自記式調査票(central sensitization inventory: CSI)によるが、客観的な標準基準(ゴールデンスタンダード)がないことから、その妥当性の検討が困難となっている。研究代表者らはCSSについての国内外の現状についてのシステマティック・レビューを行い、共通する症状等についてCSIを用いたデータの収集・分析を試みた。その結果、我が国においても慢性難治性片頭痛,線維筋痛症,筋骨格系疼痛障害患者、特に重症者や疼痛増悪者においてはCSSの関連が大きいこと、そして一般集団においても約4%にCSSを有する者が存在することを明らかにした。本研究においては、CSSの疫学的特徴の解明と危険要因の探索を行う。
研究方法
(1) CSS関連症状・危険要因等の調査票の新規作成:日本人におけるCSS関連症状およびその危険要因候補(特に精神的・身体的ストレス曝露状況・曝露既往、成育環境等)の調査票を、既存のCSIや化学物質過敏症調査票(QEESI)に加えて新たに作成する。
CSS関連症状・危険要因等の前方視的調査の開始:以下の各フィールドにおいて調査を行う。①地域集団、②職域集団、③難治性慢性片頭痛患者、④線維筋痛症患者、⑤慢性疲労症候群患者、⑥レストレスレッグ症候群患者、⑦化学物質過敏症候群患者、⑧筋骨格系疼痛障害患者、⑨口腔顔面痛患者。
CSS関連疾患の実態調査と治療法の解明:各分担研究者は全年度を通じて実態調査と検討を継続する。
結果と考察
一般地域集団約23,000名の回答データにカテゴリカル因子分析を行い、CSI-J(25項目)はほぼ同じ項目サイズで構成される3因子構造(うつ不安/身体化症状、CSS張り/痛み、一般/泌尿器系症状)であることを明らかにした。2) 各因子の構成項目ごとに多値型項目反応理論(Item Response Theory、IRT)解析を行い、各項目の項目特性(識別力・閾値)を算出した。3) 各項目の情報量に基づいて算出すると、各測定領域(因子)の情報量の6・7割は、各因子の上位4項目で得られていた。4) IRTによる各項目の特性値を用いて、コンピュータ版適応型テストの試作版(デモ版)を作成した。
また日本人における CSS 関連症状とその危険要因候補の調査票を新規作成し、これを用いて多施設共同前方視調査を各施設の倫理審査委員会の承認を得て開始した。
CSI-Jについて一般地域集団約2万人で検討したところ、ほぼ同じ項目サイズで構成される3因子構造情報量の多い項目を優先的に用いることで、少ない項目でも測定尺度の情報を効率的に得ることが可能であることが示唆された。これは、IRTによる各項目の特性値を用いたコンピュータ版適応型テスト(IRT-CAT)の考え方に通じており、回答者に則した項目が画面に提示されていくというテーラーメイドな測定方法である。すでに欧米ではうつ症状・不安症の測定方法が開発されており、日本でも試みられてきている。CSI-JのCAT試作システムを作成し、一部試用したところ、従来の評定値に比べ、CATによるθ値(偏差値換算)では因子間の差異が小さくなり、項目数の影響も除外できるため、「うつ不安」等のむしろ二次的に生じてくる心理的訴えに影響され過ぎない評価が可能となると考えられる。
結論
CSI-Jについては少ない項目でも測定尺度の情報を効率的に得ることが可能であることが示唆された。全体研究として新規にCSS関連症状・危険要因等の調査票の作成を行い、疾患横断的な多施設共同疫学研究を開始した。各分担者による研究とあわせて、今後の研究の進捗に期待したい。

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2022-03-30

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202011088Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,477,000円
(2)補助金確定額
9,375,000円
差引額 [(1)-(2)]
102,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,133,304円
人件費・謝金 1,243,344円
旅費 386,961円
その他 3,424,555円
間接経費 2,187,000円
合計 9,375,164円

備考

備考
「自己資金163円」「その他(利息)1円」

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2022-02-04