文献情報
文献番号
199700433A
報告書区分
総括
研究課題名
残留農薬の相乗毒性に関する薬物動態学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 杉山雄一(東京大学)
- 山添康(東北大学)
- 鈴木康夫(静岡県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 残留農薬安全対策総合調査研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
11,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
農薬は他の農薬や化学物質とともに環境中や食品中に残留することが予想されることから、農薬の安全性評価に際しては、このような複合汚染状況での相乗毒性の発現可能性も含めて検討する必要がある。しかし、このような相互作用の可能性は膨大であり、実験的に一つ一つ検討することは不可能である。一方、最近の毒性学や薬物動態学の進歩により、主な相互作用の発現機構が整理されてきた。また、代謝酵素に対する分子種レベルの解析と生理学的薬物速度論的解析が相互作用予測に有用であることが明らかになってきた。また、ヒト薬物代謝の予測にヒト組織を用いた検討の重要性が認識されてきた。一方、ウィルス感染や免疫反応に重要な意味を持つ細胞表面の糖鎖への農薬の影響についてはほとんど検討されていない。
そこで、本研究では、複合汚染残留農薬及び残留農薬と他の化学物質との相互作用による相乗毒性の可能性について主に薬物動態の面から実験的、理論的に検討することにより、残留農薬の安全性評価において問題とすべき相乗毒性及びそれを予測するために必要な試験の内容について提案する。一方、細胞の増殖・分化など様々な生命活動に重要な働きを持ち、ウィルス感染や発癌過程に重要な糖鎖に対する残留農薬の影響を調べ、糖鎖変化を指標とする新しい安全性評価系を構築する。
そこで、本研究では、複合汚染残留農薬及び残留農薬と他の化学物質との相互作用による相乗毒性の可能性について主に薬物動態の面から実験的、理論的に検討することにより、残留農薬の安全性評価において問題とすべき相乗毒性及びそれを予測するために必要な試験の内容について提案する。一方、細胞の増殖・分化など様々な生命活動に重要な働きを持ち、ウィルス感染や発癌過程に重要な糖鎖に対する残留農薬の影響を調べ、糖鎖変化を指標とする新しい安全性評価系を構築する。
研究方法
ヒト及びラット肝ミクロソーム、また、ヒト及びラット肝細胞を用いて各種農薬の肝代謝能に及ぼす影響およびそれらによるIBPの代謝を検討した。また、ラットを用いてIBPとCYP3A阻害剤であるケトコナゾールとの相互作用を検討した。また、ラット に CNP投与し、肝における薬物輸送に関係しているcMOATおよび mdr の Northern blot 用特異的プローブを使用し、それらのmRNAの発現量を測定した。感染抵抗性に及ぼす農薬の影響の検討ではインフルエンザA型ウイルスA/PR/8/34(H1N1)株のMDCK細胞への感染に対する農薬の影響をLDH遊離により評価した。また、細胞表面糖鎖の変化の検討ではセレクチン固相化プレートに農薬処置後、細胞懸濁液を加え、インキュベート後のプレートに接着した細胞数を計数した。
結果と考察
平成9年度では、複合汚染残留農薬の相乗毒性の可能性を検討するため検討を行い、以下のことを明らかにした。
各種農薬同士あるいは医薬品、生活関連物質との相互作用の可能性を検討するために、農薬の代謝に関与する薬物代謝酵素の解析と農薬による代謝関連酵素の変動を検討した。また、農薬による感染抵抗性に対する作用を検討した。
ヒト標本の例数を6例まで増やして、各種農薬のヒトCYP3A4の阻害活性を検討したところ、Ethiofencarb, Aranycarb, AmetrynおよびIBPが有意な強い阻害を示した。また程度は弱いがSWEPおよびPrometrynも有意な阻害を示した。また、代謝産物による阻害の可能性が示唆された。しかしながらその阻害は活性阻害程度が弱い農薬で認められ、阻害程度の強いものは母化合物自身が直接作用を示していることが明らかとなった。
有機リン系農薬であるIBP(iprofenfos)の影響を動物及びヒト組織、細胞、また発現系ヒト型P-450 等を用いて検討し、IBPがヒト及びラット肝ミクロゾーム及び肝細胞ではCYP3Aで代謝を受け、これを阻害する薬物との相互作用を起こす可能性があることを示した。また、細胞系ではエステラーゼ阻害剤によっても代謝が阻害を受けることから、そのような作用を有する他の有機リン系農薬と相互作用を起こす可能性が示された。また、ラットを用いた実験により、CYP3A阻害作用を有するケトコナゾールによりIBPの血中濃度が約2倍に増加し、in vivoでも相互作用を起こすことが確認された。
肝臓において、異物の胆汁中への排泄に関与する種々のトランスポーターに対するクロロニトロフェン (CNP) の誘導能を、Northern blot により定量的に評価したところ、ラット肝臓における canalicular multispecific organic anion transporter (cMOAT)、P-glycoprotein (mdr)、および MRP (multidrug resistance-associated protein) like protein (MLP2) の mRNA の発現量は、CNP の連続投与により、それぞれ平均 1.14 倍、1.42 倍および 7.25 倍に増加した。したがって、CNP は cMOAT および mdr に対する誘導能は小さいものの、MLP2 に対しては顕著な誘導能を持つことが明らかとなった。
インフルエンザウイルス感染に及ぼす残留農薬の影響をMDCK細胞を用いたin vitro感染系で検討した。MDCK細胞に毒性を示さない濃度に調製した7種類の農薬(Fenthion, Mefenacet, Permethrin, Prometryn, Chlomethoxyfen, Aramyte, Cinosulfuron)を添加し10日間培養したMDCK細胞に対するインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)株の感染性を調べた。その結果、検討した7種類の農薬は、インフルエンザウイルスの感染性には影響を及ぼさなかった。さらにマウス転移性癌細胞B16BL6を用い、上記の農薬の低濃度の長期培養による細胞障害活性をLDH遊離法で調べた。また、6日間の農薬処理後の細胞のL-セレクチンとの細胞接着能を指標として、細胞表面糖鎖の変化を調べた。その結果、いずれの農薬も2ppm濃度以下ならば有意な細胞障害性を示さなかった。また、農薬処理後の細胞のL-セレクチンとの細胞接着能は、いずれの農薬処理でも影響されなかった。
各種農薬同士あるいは医薬品、生活関連物質との相互作用の可能性を検討するために、農薬の代謝に関与する薬物代謝酵素の解析と農薬による代謝関連酵素の変動を検討した。また、農薬による感染抵抗性に対する作用を検討した。
ヒト標本の例数を6例まで増やして、各種農薬のヒトCYP3A4の阻害活性を検討したところ、Ethiofencarb, Aranycarb, AmetrynおよびIBPが有意な強い阻害を示した。また程度は弱いがSWEPおよびPrometrynも有意な阻害を示した。また、代謝産物による阻害の可能性が示唆された。しかしながらその阻害は活性阻害程度が弱い農薬で認められ、阻害程度の強いものは母化合物自身が直接作用を示していることが明らかとなった。
有機リン系農薬であるIBP(iprofenfos)の影響を動物及びヒト組織、細胞、また発現系ヒト型P-450 等を用いて検討し、IBPがヒト及びラット肝ミクロゾーム及び肝細胞ではCYP3Aで代謝を受け、これを阻害する薬物との相互作用を起こす可能性があることを示した。また、細胞系ではエステラーゼ阻害剤によっても代謝が阻害を受けることから、そのような作用を有する他の有機リン系農薬と相互作用を起こす可能性が示された。また、ラットを用いた実験により、CYP3A阻害作用を有するケトコナゾールによりIBPの血中濃度が約2倍に増加し、in vivoでも相互作用を起こすことが確認された。
肝臓において、異物の胆汁中への排泄に関与する種々のトランスポーターに対するクロロニトロフェン (CNP) の誘導能を、Northern blot により定量的に評価したところ、ラット肝臓における canalicular multispecific organic anion transporter (cMOAT)、P-glycoprotein (mdr)、および MRP (multidrug resistance-associated protein) like protein (MLP2) の mRNA の発現量は、CNP の連続投与により、それぞれ平均 1.14 倍、1.42 倍および 7.25 倍に増加した。したがって、CNP は cMOAT および mdr に対する誘導能は小さいものの、MLP2 に対しては顕著な誘導能を持つことが明らかとなった。
インフルエンザウイルス感染に及ぼす残留農薬の影響をMDCK細胞を用いたin vitro感染系で検討した。MDCK細胞に毒性を示さない濃度に調製した7種類の農薬(Fenthion, Mefenacet, Permethrin, Prometryn, Chlomethoxyfen, Aramyte, Cinosulfuron)を添加し10日間培養したMDCK細胞に対するインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)株の感染性を調べた。その結果、検討した7種類の農薬は、インフルエンザウイルスの感染性には影響を及ぼさなかった。さらにマウス転移性癌細胞B16BL6を用い、上記の農薬の低濃度の長期培養による細胞障害活性をLDH遊離法で調べた。また、6日間の農薬処理後の細胞のL-セレクチンとの細胞接着能を指標として、細胞表面糖鎖の変化を調べた。その結果、いずれの農薬も2ppm濃度以下ならば有意な細胞障害性を示さなかった。また、農薬処理後の細胞のL-セレクチンとの細胞接着能は、いずれの農薬処理でも影響されなかった。
結論
農薬の内にはCYP3A4により代謝に影響するものが多い。また、IBPがin vivoで医薬品と相互作用を起こすことが確認された。CNPは肝薬物トランスポーターを誘導したことから、この面での相互作用の発現可能性も考えられる。インフルエンザウイルス感染に対する抵抗性に各種の農薬は影響しなかった。
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