HAMならびに類縁疾患の患者レジストリを介した診療連携モデルの構築によるガイドラインの活用促進と医療水準の均てん化に関する研究

文献情報

文献番号
202011025A
報告書区分
総括
研究課題名
HAMならびに類縁疾患の患者レジストリを介した診療連携モデルの構築によるガイドラインの活用促進と医療水準の均てん化に関する研究
課題番号
19FC1007
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
  • 亀井 聡(日本大学医学部 内科学系神経内科学分野)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
  • 郡山 達男(脳神経センター大田記念病院)
  • 岡山 昭彦(宮崎大学 医学部 )
  • 川上 純(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学共同専攻)
  • 湯沢 賢治(国立病院機構水戸医療センター 臨床研究部)
  • 中川 正法(京都府立医科大学 大学院・医学研究科/附属北部医療センター)
  • 中村 龍文(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学)
  • 久保田 龍二(鹿児島大学医歯学総合研究科難治ウイルス病態制御研究センター)
  • 松浦 英治(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 松尾 朋博(長崎大学病院 泌尿器科・腎移植外科)
  • 高田 礼子(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 井上 永介(昭和大学統括研究推進センター)
  • 鴨居 功樹(東京医科歯科大学 医学部附属病院)
  • 中島 孝(独立行政法人国立病院機構新潟病院 脳神経内科)
  • 村井 弘之(国際医療福祉大学医学部神経内科学)
  • 内丸 薫(国立大学法人東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
  • 坪井 義夫(福岡大学 医学部脳神経内科学教室)
  • 石原 聡(琉球大学病院 第三内科)
  • 新野 正明(国立病院機構北海道医療センター 臨床研究部)
  • 永井 将弘(愛媛大学医学部附属病院臨床研究支援センター)
  • 梅北 邦彦(宮崎大学医学部内科学講座免疫感染病態学分野)
  • 竹之内 徳博(関西医科大学 医学部 微生物学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
11,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究班は「HAM診療ガイドライン2019」を作成し、エビデンスに基づいた標準的診療アルゴリズムを示した。しかしながら、患者を取り巻く診療の質を真に向上させるためには、診療ガイドラインを作成し公開するのみでは不十分で、診療現場における普及活動の実施、さらには活用の実態や満足度を定量的に把握し、ガイドラインの有効性を客観的に評価することで、さらなる改善へとつなげていくことが重要である。そこで本研究では、HAM診療ガイドラインの「普及→導入→評価→改訂」といったPDCAサイクルを実現し、HAMならびに類縁疾患の医療水準の向上と均てん化を目指す。
研究方法
 全国へ向けガイドラインの普及啓発活動を実施する。またガイドラインで推奨した重要検査について患者レジストリを活用した提供体制を整備することでガイドラインの導入を促す。さらにガイドラインから抽出した”診療プロセスにおける重要項目”の診療現場における実践度や有効性を定量的に評価する指標(Quality Indicator: QI)を開発し、その全国調査を行う。また患者レジストリの疫学的解析より、診療ガイドラインの改訂に必要な情報を得る。
結果と考察
 診療ガイドラインの「普及」については、関連学会やMindsのウェブサイトで公開した。また診療ガイドライン英語版をアメリカ神経学会誌に掲載し、世界の専門医への普及を行った。またHTLV-1陽性者の臓器移植に関するエビデンス(New Engl J Med, 2019)がアメリカ移植学会ガイドラインに引用され、世界の医療レベル向上にも貢献できた。
 診療ガイドラインの「導入」については、HAM患者、HTLV-1陽性リウマチ患者、HTLV-1陽性臓器移植患者のレジストリ、いずれも倫理委員会の承認を得た。今後、症例登録が進むことで、ガイドラインが推奨する重要検査の提供が実現し、レジストリを介した質の高い医療の導入につながる。
 診療ガイドラインの「評価」については、各診療ガイドラインの活用実態およびその評価のための全国調査を実施した。これらガイドラインを「知っていて、参考にしている」とした割合は、それぞれ12%, 16%, 23%といずれも低く、まだ十分に活用されていなかった。一方、「このアンケート調査でガイドラインを知り、今後の参考にする」と回答した割合は、それぞれ52%, 84%, 56%と高かった。また、ガイドラインが示す「確定的な診療行為に関する実施率」を“代替QI”として測定し、Evidence-practice gapを定量化した。その結果、低い実施項目が明らかとなり、周知すべきポイントが明確となった。また、「確定的でない診療行為」については、“同意率”としてその妥当性を定量化した。低い同意率の背景として、エビデンス不足、実施環境の未整備といった問題点が挙げられた。このように、今回の調査時点では活用不足であるものの、本研究による調査自体が普及活動となり、Evidence-practice gapの解消に寄与したと思われる。またガイドラインの内容を日常診療で実践するにあたっての課題の抽出とニーズの把握が進み、ガイドラインの改善に向け取るべき方針が明らかとなった。
さらにHAM患者レジストリを活用した疫学解析では、HAM患者の生命予後が悪いこと、死因としてATLが多いことを証明し、ATLハイリスク集団の同定方法を示した。今後、HAM患者やHTLV-1陽性患者におけるATLハイリスク患者の「同定方法」や「治療方針」に関するエビデンスの集積が急務である。またHAM患者の排尿障害評価指標とQOLの関連解析から、HAM患者では排尿障害がQOL、特に精神的健康度に大きく影響していることが示された。さらにHAM排尿障害症状スコアの重症度判定基準を確立し、その重症度判定が将来の予後予測に有用であることが示され、HAM患者では排尿障害の正確な評価に基づいた個別化医療確立の重要性が示唆された。
結論
 本研究で開発した「診療の質評価指標:代替QI」は、ガイドラインに記載された診療行為のうち、診療プロセスにおける重要項目を抽出して調査を行うため、「調査項目=診療上の重要性が高い」ことを調査対象者に意識付けでき、さらに調査結果の公開により、医療者自身の診療プロセス改善や、実情を踏まえたガイドラインへの継続的な改訂へと繋がり、豊富なエビデンスを得にくい希少難病の診療環境を改善させるユニークな手法となる可能性がある。さらに、HAM患者レジストリの解析から得られた結果は、診療ガイドラインの改訂に資する情報を提供するだけでなく、今後の重要な検討課題も示した。このように本研究の遂行は、診療ガイドラインの普及や改善を促し、患者のQOLを大きく向上させることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
2021-08-03

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202011025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
15,210,000円
(2)補助金確定額
15,210,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,099,492円
人件費・謝金 271,478円
旅費 110,020円
その他 5,220,528円
間接経費 3,510,000円
合計 15,211,518円

備考

備考
自己資金 1,518円

公開日・更新日

公開日
2021-12-20
更新日
-