多中心性細網組織球症の疫学および治療法に関する調査研究

文献情報

文献番号
202011022A
報告書区分
総括
研究課題名
多中心性細網組織球症の疫学および治療法に関する調査研究
課題番号
19FC1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
西田 佳弘(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 真志(国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学 大学院医学系研究科 皮膚科学分野)
  • 小田 義直(九州大学大学院 医学研究院 形態機能病理学)
  • 川井 章(国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍科・リハビリテーション科)
  • 奥野 友介(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター)
  • 松井 茂之(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多中心性細網組織球症は日本だけでなく世界的に疫学は不明とされている。破壊性多発性関節炎と皮膚粘膜病変を特徴として診断される。全身性炎症性の疾患であるため、肺を初めとする内臓も冒される。不適切な診療を受ける例があり、また治療法が確立されていないために様々な治療法が各施設で試され、その中で治療に抵抗してQOL低下や長期療法を要する例が少なくない。小児から成人まであらゆる年代に発症する可能性がある。。本研究では、本疾患の疫学および現在本邦で実施されている治療法調査を、診療する可能性の高い整形外科、リウマチ科、皮膚科、小児科、そして病理診断科を通して全国的に実施し、本邦における多中心性細網組織球症の疫学と治療法の実態を明らかにし、本疾患の情報を広く発信するとともに診断基準を確立することを目的とする。
研究方法
希少がんホットライン調査:国立がん研究センター希少がんホットライン担当(加藤看護師)を通じて多中心性細網組織球症に関する相談件数を調査することにより、全国で本疾患について診療に難渋している実態を把握する。
疫学調査:全国の疫学調査について、全国の大学80施設の皮膚科、整形外科、病理診断科に対して、また日本リウマチ学会認定施設596施設に対してアンケートを送付して一次調査を実施する。多中心性細網組織球症の診療経験有りとする施設に対して2次調査票を送付し、重複症例を除き、疫学と診療実態を明らかにする。
明らかとなった病理診断法、治療実態をもとに多中心性細網組織球症診断基準作成のデータとする。
結果と考察
国立がん研究センターの希少がんホットラインデータでは多中心性細網組織球症の相談はなかった。各科における全国二次調査の結果を集計し、49例の多中心性細網組織球症の情報が集積された。地域別では関東が多いが、人数比でみると九州が多かった。男性12例、女性37例で、診断年代については最近になるにつれて診断数が徐々に多くなっていた。診療科はリウマチ科が最も多く、次いで皮膚科が多かった。悪性腫瘍の合併は8例16%、自己免疫疾患は9例18%に合併していた。皮膚病変の部位は頭頚部、顔面、手指が多く、下肢は少なかった。関節病変は上肢に多く、大関節にも認めた。病理診断は48例でなされていた。病理診断に使用される抗体としてはCD68やCD1a、ランゲリンが多かった。血液データは正常値に近いものが多く、血沈の上昇は比較的多くの症例で認めた。薬物治療はプレドニン、メソトレキセートが多く使用されており、また有効性を認めるとの報告が多かった。DMARD、免疫抑制剤はSD症例が多かった。生物学的製剤使用では有効例が多かった。Bisphosphonate、デノスマブ、抗がん剤を使用した症例も存在した。
二次調査の結果により、多中心性細網組織球症49例に関する本邦の疫学が明らかとなり、従来実施されていた診療方法が明らかとなった。これらは診断基準・重症度分類構築の基礎データとなる。まだ世界から200-300例しか報告のない多中心性細網組織球症についての世界最大の診療情報データベースとなった。多中心性細網組織球症2例のWES、RNAシーケンス解析により、本疾患が腫瘍性病変の可能性が高いことが判明し、またこの報告の後、海外の他研究室より2編の遺伝子異常の報告があった。症例を増やして腫瘍のドライバー変異がいっそう明らかになれば、有効な治療薬開発につながる。
これらの情報は多中心性細網組織球症の疫学、診療実態調査の結果として各学会(日本リウマチ学会、日本整形外科学会、日本皮膚科学会、日本病理学会)を通じて、またNPO鶴舞骨軟部腫瘍研究会のホームページを通じて全国に情報を発信することで希少疾患診療の啓蒙活動につながる。
今後、本疾患に関して難治性疾患実用化研究事業の研究助成を取得することにより、今回集積された49症例について、患者の組織および血液を採取し、whole exome sequenceにより病因を解明し、治療法の開発をめざすことが可能になると考える。
結論
本邦における多中心性細網組織球症の疫学、診療実態が明らかとなった。世界的に49症例は最大規模のデータとなり、今後診断基準の作成、新規治療法の確立に寄与すると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202011022B
報告書区分
総合
研究課題名
多中心性細網組織球症の疫学および治療法に関する調査研究
課題番号
19FC1004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
西田 佳弘(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 真志(国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学 大学院医学系研究科 皮膚科学分野)
  • 小田 義直(九州大学大学院 医学研究院 形態機能病理学)
  • 川井 章(国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍科・リハビリテーション科)
  • 奥野 友介(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター)
  • 松井 茂之(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻薬剤疫学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多中心性細網組織球症は日本だけでなく世界的に疫学は不明とされている。破壊性多発性関節炎と皮膚粘膜病変を特徴として診断される。治療法が確立されていないために様々な治療法が各施設で試され、その中で治療に抵抗してQOL低下や長期療法を要する例が少なくない。本研究では、本疾患の疫学および現在本邦で実施されている治療法調査を、診療する可能性の高い整形外科、リウマチ科、皮膚科、小児科、そして病理診断科を通して全国的に実施し、本邦における多中心性細網組織球症の疫学と治療法の実態を明らかにし、本疾患の情報を広く発信するとともに診断基準を確立することを目的とする。
研究方法
研究代表施設の倫理委員会で承認を得た後に、一次調査は、多中心性細網組織球症の診療を担当していると推測されるリウマチ科、皮膚科、整形外科、病理診断科の全国80の大学施設に調査票を送付した。日本リウマチ学会認定351施設に対して調査票を送付した。一次調査で多中心性細網組織球症ありと返答のあった施設に対して二次調査としての診療実態調査を実施した。「希少がんホットライン」の問い合わせリストから「多中心性細網組織球症」の病名で相談のあったものを調査した。また、研究代表施設において経験した2症例に対してwhole exome sequence(WES)解析を実施することで本疾患の病態解明を行った。
結果と考察
「希少がんホットライン」の問い合わせリストは26,000件以上あり、その中で「多中心性細網組織球症」と病名を名乗っての相談者は0名であった。
WESの結果、症例1では明らかなドライバー変異は検出されず、一方症例2ではMAP2K1のin-frame deletionとTET2のnon-sense mutationを検出した。RNAシーケンスにより、症例1で、KIF5BとFGFR1を含む新規のin-frame fusionを検出した。GSEA解析により、症例1ではKIF5B-FGFR1融合タンパク質のチロシンキナーゼ活性上昇を示唆するキナーゼの活性化が、症例2ではMAP2K1によるRAS-MAPKシグナル伝達経路の活性化を示唆するKRASシグナル伝達の上昇が示された。
一次調査により、症例ありと返答のあった施設は、リウマチ科が25/413(6.1%)、皮膚科が14/74(19%)、整形外科が5/75(6.7%)、病理診断科が14/55(25%)であった。合計58施設に75症例の多中心性細網組織球症症例数があるとの結果となった。二次調査票を作成し、58施設75症例にして二次調査を実施した。回答のあった65症例について重複症例16症例を除外し、最終的に49症例が抽出された。男性12例、女性37例で、診療科はリウマチ科が最も多く、次いで皮膚科が多かった。悪性腫瘍の合併は8例16%、自己免疫疾患は9例18%であった。皮膚病変の部位は頭頚部、顔面、手指が多く、下肢は少なかった。関節病変は上肢に多く、大関節にも認めた。病理診断は48例でなされていた。病理診断に使用される抗体としてはCD68やCD1a、ランゲリンが多かった。血沈の上昇は比較的多くの症例で認めた。薬物治療はプレドニン、メソトレキセートが多く使用されており、また有効性を認めるとの報告が多かった。DMARD、免疫抑制剤はSD症例が多かった。生物学的製剤使用では有効例が多かった。
二次調査の結果により、本邦49症例の多中心性細網組織球症に関する疫学が明らかとなり、診療方法が明らかとなった。これらは診断基準構築に向けての基礎データとなる。まだ世界から200-300例しか報告のない多中心性細網組織球症についての世界最大の診療情報データベースとなった。多中心性細網組織球症2例のWES、RNAシーケンス解析により、本疾患が腫瘍性病変の可能性が高いことが判明し、リウマチ性疾患やparaneoplastic syndromeの可能性が報告されてきたが、腫瘍性疾患である可能性が高いことを世界で初めて報告することができた。
これらの情報は多中心性細網組織球症の疫学、診療実態調査の結果として各学会(日本リウマチ学会、日本整形外科学会、日本皮膚科学会、日本病理学会)を通じて、またNPO鶴舞骨軟部腫瘍研究会のホームページを通じて全国に情報を発信することで希少疾患診療の啓蒙活動につながり、本疾患に罹患する患者・家族への益するところが大きいと考える。
結論
本邦における多中心性細網組織球症の疫学、診療実態が明らかとなった。診断基準の確立のためには症例数が少なく、診断にいたっていない症例を増やすなどのさらなる取り組みが必要である。世界的に49症例は最大規模のデータとなり、今後診断基準の作成、新規治療法の確立に寄与すると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202011022C

収支報告書

文献番号
202011022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,495,000円
(2)補助金確定額
1,270,000円
差引額 [(1)-(2)]
225,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 892,140円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 33,373円
間接経費 345,000円
合計 1,270,513円

備考

備考
自己資金513円

公開日・更新日

公開日
2022-01-26
更新日
-