食品中残留農薬暴露評価の精密化に関する研究

文献情報

文献番号
199700419A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中残留農薬暴露評価の精密化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
槙 孝雄(社団法人日本食品衛生協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、食品衛生法に基づき161種類の農薬について各種農作物における残留基準が設定されている。これらの残留基準は各種農作物の摂取量と残留基準から農薬の推定摂取量を換算して、ADIを越えない範囲としている。しかしこの摂取量評価手法は1989年FAO/WHO合同食品規格計画残留農薬部会(CCPR)において報告されたTMDI方式(理論的最大一日摂取量方式)を基本としており、残留実態など最近の研究並びに国際動向から見て実際に摂取される量より過度な推計であり、より実態に近い農薬摂取量の推計が求められている。
このため本研究は、食生活における残留農薬推計摂取量の精密化を図ることを目的とした。
研究方法
わが国の食生活から農薬推定摂取量をより実態に近い形で把握するための手法の検討ならびにデータを得るため、8名の研究者により「残留農薬推定摂取量調査研究班」を構成し、下記の事項についてデータの収集及び調査検討を行うとともに、3)については農薬使用農作物を試験的に栽培し、その個体間残留分析データをもとに統計学的手法による急性暴露評価を試みた。
1)食品残留農薬の実態と摂取量
2)食品残留農薬摂取量推計のための食物摂取データベースの開発
3)個体間残留調査データに基づく急性毒性アセスメントの試算
4)食品残留農薬摂取量推定に関する国際動向
結果と考察
1)食品残留農薬の実態と摂取量について
厚生省で行った日常食についての平成7年度及び8年度のマーケット・バスケット調査によると、この2年間の農薬摂取量は、各農薬のADIを大きく下回っていた。
また、大阪府での食事からの有機塩素系及び有機リン系農薬に対する一日摂取量報告でもADIを大きく下回っており、国民の健康に影響を及ぼすものではなかった。
加工食品中の残留実態調査では果実加工品、穀類加工品、野菜加工品について調査したが、多くの加工品については検出率が低く、残留濃度も比較的低い状況にあった。
2)食品残留農薬摂取量推計のための食物摂取データベースの開発
平成7年度の国民栄養調査データファイルを用いて性別・年齢別あるいは妊婦をサブグループとし、体重1?当たりの主な食物摂取量を求めるデータベースを開発した。
ここに開発したデータベースを用いることによって乳幼児、妊婦、老人等の摂取量評価が可能となった。
3)個体間残留調査データに基づく急性毒性アセスメント
FAO/WHO合同食物摂取及び化学物質暴露評価に関する専門家会議(1997年2月)の報告で、化学物質の慢性毒性評価のみではなく急性暴露評価について提示され、急性暴露評価には急性参照値(Acute Reference Dose:Acute RfD)を用いることが報告されている。
本研究では、2種類の農薬(モノクロトホス、エチルチオメトン)を使用したきゅうりをGAP管理下のもとで試験的に栽培し、個体間の残留分析調査と国民栄養調査データファイルの年齢別摂取量分布データから統計学的手法により2農薬の急性毒性アセスメントを試行した。
その結果、急性暴露評価手法を確立し、個体間残留調査データを多く積み重ねることによって急性暴露評価をより精密なものにすることができる。
4)食品残留農薬摂取量推定に関する国際動向
『IUPAC Reports on Pesticides(39)』(1997年)の『残留農薬食物経由摂取量の推定における入手可能な残留データの適切な使用』を入手し、調査した結果、農薬残留量推定に関する18項目の勧告及び管理下残留試験のデータから最大残留基準(MRL)と管理下試験残留中央値(STMR)、加工食品に対する管理下試験残留中央値(STMR-P)を求める実例を解説されている。これらは1997年CCPRにおいて報告された『残留農薬の食物経由摂取量推定のためのガイドライン(改訂)』を理解するのに役立つものである。
結論
本研究は、食品残留農薬推定摂取量の精密化を図るための数々の要因について調査検討した。
その結果、マーケット・バスケット調査及び食品残留農薬の調査データからはADIを大きく下回っており健康に影響を及ぼすものではなかった。
平成7年度の国民栄養調査データファイルを用いて食物摂取量の性別・年齢別データベースを開発した。このデータベースは行政における食品残留農薬摂取量の試算に役立つものである。
1997年の国際専門家会議で提案されている食品残留農薬の急性毒性アセスメントについて試験的に実施し、統計学的手法を用いた急性暴露の評価手法を確認した。なお、更に調査サンプル数を多くして行う必要がある。
本研究で実施してきた食品残留農薬摂取量評価のための基礎データは、今後、行政における食品残留農薬摂取量の科学的評価、またこれに基づく残留農薬基準設定のための検討資料として役立つものと思慮する。
食料の50%以上が海外に依存しているわが国の食生活において、食生活の安全性を確保するためには、国際的整合性を踏まえながら、より科学的なデータに基づき安全性の評価を行う必要がある。食品に残留する農薬の暴露評価においても、更に十分な科学的調査データを得ることが今後とも必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)