文献情報
文献番号
202011005A
報告書区分
総括
研究課題名
成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班
課題番号
H30-難治等(難)-一般-006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(国立大学法人新潟大学 脳研究所脳神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 水野 敏樹(京都府立医科大学医学研究科)
- 池内 健(国立大学法人新潟大学 脳研究所)
- 冨本 秀和(三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
最近の研究では、ある特定のHTRA1変異において常染色体優性遺伝形式でも発症することが明らかとなった。そこで、白質脳症におけるCARASILとヘテロ接合性HTRA1変異による脳小血管病、更にCARASIL様の白質脳症を呈する他疾患の頻度を明らかにする。NOTCH3以外の遺伝性脳小血管病の原因遺伝子を同定することを目的とした。マイクロMRIを用いて臨床で観察される脳小血管病の画像異常がどのような病理学的変化に対応するかを明らかにし、CADASIL側頭極病変との病理学的差異を明らかにする。CADASIL患者における側頭極白質病変の画像・病理学的特徴を解明し、CADASIL画像診断マーカーとしての精度向上を目指すことを目的とした。更に、HDLSおよび近縁疾患の分子疫学を明らかにし,ミクログリアにおけるCSF1Rキナーゼ活性が疾患の発症や重症度に影響を及ぼす機序を明らかにすることを目的とした
研究方法
CARASILについては2019年12月までに全国から送られてきた重度白質病変を呈する212症例の中で、NOTCH3の遺伝子変異が陰性である167例の症例に対して、HTRA1の遺伝子解析を実施した。加えて、NOTCH3もHTRA1の双方の遺伝子変異が認められなかった症例の中で、若年発症例または第2親等以内の類症が明らかな91症例に対して、エキソーム解析を行なった。結果、CARASIL 2例、ヘテロ接合生HTRA1変異症例12例に加え、12名の他の遺伝子変異症例を同定した。CADASILについては、2009年から2017年にCADASILの疑いでサンガー法による遺伝子検査を行い、NOTCH3に変異を認めなかった266症例のうち19症例を“CADASIL 類縁疾患”として選出し、エキソームシーケンスを行った。同定したバリアントからアミノ酸同義置換など病原性の低いバリアントを除外し、単一遺伝性脳小血管病の原因として確立している8遺伝子(NOTCH3、HTRA1、COL4A1、COL4A2、CTSA、TREX1、GLA、POLG)1)のバリアントを検討した。マイクロMRIを応用した研究については、生前の臨床機3T MRIで脳小血管病と診断された4名の患者剖検脳を対象とした。生前に異常を指摘された脳ブロックを7T マイクロMRIで撮像し、得られたFLAIR画像から対応する病変部位を同定した。HDLSについては、特定医療費受給証所持者数を調べた。また良性型CSF1R,劣性型CSF1R,優性型CSF1Rのキナーゼアッセイを行った。
結果と考察
CARASILについては、今回の研究により新たな優性遺伝型CARASILの原因となるHTRA1変異について分子生物学的に機能喪失を明らかとした。CADASIL 類縁疾患と定義した19症例の中で、6症例において5遺伝子に7個のバリアントを認め、AHTRA1、POLG、GLAのミスセンス変異を同定した。マイクロMRIの研究を通じて、非特異的な加齢性白質病変の病理機転は血管炎症、BBB障害が主体であり、CADASILに見られる間質液の排出障害と相違する可能性があることを見出した。HDLSは特定医療費受給証所持者数に基づき患者数の推定を行った。CSF1R関連白質脳症の発症や重症度が,CSF1Rキナーゼ活性と関連する事を示した。
結論
非CARASIL非CADASIL症例に含まれる遺伝性白質脳症症例の殆どは55歳以下で神経症状を発症することが明らかとなった。これらの知見を基に、非CARASIL非CADASIL症例における原因遺伝子検索のプロトコルを立案する予定である。CADASIL類似疾患でも、CADASILと同様に脳梗塞発作を繰り返すことが多いことから、これら類似疾患を含めた疫学調査、診療ガイドラインの作成が必要である。また、剖検脳に対し、マイクロMRIを用いた検討を行うことで脳小血管病の原因診断がより確実になる。今後この手法を用いCADASIL剖検脳での検討を行とともに、既存のCADASIL患者レジストリーに蓄積された臨床機MRI画像情報と比較することでCADASILによる側頭極病変の特徴を明らかにする。HDLSについてはCSF1Rキナーゼ活性が疾患の発症や重要度を期待していたことから,キナーゼ活性の調節薬剤がHDLSを含めたCSF1R関連白質脳症の治療につながる可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
2021-07-01
更新日
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