文献情報
文献番号
202009043A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢者の歯科受診による全身疾患の予防効果に関する研究:傾向スコアを用いた共変量調整法による因果効果の推定
課題番号
20FA1015
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 枝広 あや子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 平田 匠(北海道大学大学院医学研究院 )
- 北村 明彦(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 光武 誠吾(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
北海道の75歳以上の高齢者を対象にレセプトデータを用いて、(分析1)歯科医療機関の受診が全身疾患の発生を予防するかどうか傾向スコアを用いて共変量調整法による因果効果を検討し、次いで(分析2)歯周病関連診療行為と全身疾患の発生の関連を検討した後に、医科歯科連携の体制整備のあり方を検討することを目的とする。
研究方法
分析1:75歳以上の北海道民で2016年9月から2017年2月の間(曝露期間)に医療を受けた者(748,113名)で、入院経験なし・在宅医療利用なし・要介護認定なしの448,792名を対象者とした。歯科レセプトデータから曝露期間に歯科医療機関を受診した者を「歯科受診あり」、2017年3月から2019年3月までの入院レセプトデータに、対象疾患(肺炎、尿路感染症、急性冠症候群、脳卒中発作)の病名と急性期入院治療が登録されていた場合に対象疾患「発生あり」と定義した。歯科受診ありに係る傾向スコアを算出し、歯科受診あり群となし群について1対1の傾向スコアマッチングを行った。二群間で対象疾患の発生を比較した。
分析2:75歳以上の北海道民で2016年9月から2017年2月の間に医療を受け、除外基準(入院経験者、在宅医療利用者、要介護認定者、死亡者)の非該当者(448,792名)のうち、2016年9月から2017年2月までの間に歯科レセプトデータに「歯周炎」が登録されていた者(117,010人)を分析対象者とした。歯周病関連診療行為として、歯周病検査(歯周基本検査、歯周精密検査を含む)、歯周基本治療(スケーリング)、歯周基本治療(スケーリング・ルートプレーニング:SRP)、歯周基本治療(歯周ポケット掻把)、咬合調整(歯の削合、歯冠形態修正)、暫間固定、歯周疾患処置・歯周基本治療処置(歯周疾患の急性症状時に歯周ポケット内への抗菌薬注入)、歯周外科手術(歯周精密検査の結果に基づいて実施される歯周ポケット搔爬術等)、口腔内消炎手術(歯肉膿瘍切開)、歯周病安定期治療を対象とした。全身疾患の発生は分析1と同様の方法で把握した。歯周病関連診療行為と全身疾患発生との関連を、多変量ロジスティック回帰分析を用いて分析した。
分析2:75歳以上の北海道民で2016年9月から2017年2月の間に医療を受け、除外基準(入院経験者、在宅医療利用者、要介護認定者、死亡者)の非該当者(448,792名)のうち、2016年9月から2017年2月までの間に歯科レセプトデータに「歯周炎」が登録されていた者(117,010人)を分析対象者とした。歯周病関連診療行為として、歯周病検査(歯周基本検査、歯周精密検査を含む)、歯周基本治療(スケーリング)、歯周基本治療(スケーリング・ルートプレーニング:SRP)、歯周基本治療(歯周ポケット掻把)、咬合調整(歯の削合、歯冠形態修正)、暫間固定、歯周疾患処置・歯周基本治療処置(歯周疾患の急性症状時に歯周ポケット内への抗菌薬注入)、歯周外科手術(歯周精密検査の結果に基づいて実施される歯周ポケット搔爬術等)、口腔内消炎手術(歯肉膿瘍切開)、歯周病安定期治療を対象とした。全身疾患の発生は分析1と同様の方法で把握した。歯周病関連診療行為と全身疾患発生との関連を、多変量ロジスティック回帰分析を用いて分析した。
結果と考察
分析1:対象者のうち、共変量データに欠損のあった12,763名を除外した436,029名(歯科受診あり群150,559名、なし群285,470名)を傾向スコア分析の対象者とした。歯科受診あり群となし群の判別に対する傾向スコアの識別能(c統計量)は0.618(P<0.001)であり、マッチングによって、歯科受診あり群となし群それぞれ149,289名ずつが抽出された。歯科受診あり群ではなし群よりも肺炎(P<0.001)、尿路感染症(P<0.001)、脳卒中発作(P=0.024)の発生が有意に抑制されており、歯科受診があると受診がない場合と比べて肺炎は14.6%、尿路感染症で14.0%、脳卒中発作で5.2%、発生が抑制されていた。
分析2:多変量解析の結果、全身疾患発生と統計学的有意に関連していた診療行為は、肺炎ではスケーリング(あり:調整済みオッズ比0.91、P=0.029)、咬合調整(あり:同0.86、P=0.037)、歯周外科手術(あり:同0.68、P=0.002)、歯周病安定治療(あり:同0.79、P<0.001)、尿路感染症では歯周病安定治療(あり:同0.80、P=0.008)、急性冠症候群では歯周病安定治療(あり:同0.89、P=0.031)、脳卒中で咬合調整(あり:同0.79、P=0.020)と、診療行為がある場合に各疾患の発生リスクが1割~3割、有意に低くなっていた。一方、脳卒中発作では、口腔内消炎手術(あり:同1.25、P=0.015)で、歯周炎急性発作に対し消炎手術を受けた場合は、疾患発生リスクは有意に高くなっていた。
後期高齢者の診療において医科歯科連携が重要であるが、診療ガイドラインに医科歯科連携のあり方は示されていない。医科・歯科のそれぞれが必要とする医科・歯科診療に係る情報を適切なタイミングで漏れなく提供可能とする情報の構造化・標準化が医科歯科連携の基盤となる。
分析2:多変量解析の結果、全身疾患発生と統計学的有意に関連していた診療行為は、肺炎ではスケーリング(あり:調整済みオッズ比0.91、P=0.029)、咬合調整(あり:同0.86、P=0.037)、歯周外科手術(あり:同0.68、P=0.002)、歯周病安定治療(あり:同0.79、P<0.001)、尿路感染症では歯周病安定治療(あり:同0.80、P=0.008)、急性冠症候群では歯周病安定治療(あり:同0.89、P=0.031)、脳卒中で咬合調整(あり:同0.79、P=0.020)と、診療行為がある場合に各疾患の発生リスクが1割~3割、有意に低くなっていた。一方、脳卒中発作では、口腔内消炎手術(あり:同1.25、P=0.015)で、歯周炎急性発作に対し消炎手術を受けた場合は、疾患発生リスクは有意に高くなっていた。
後期高齢者の診療において医科歯科連携が重要であるが、診療ガイドラインに医科歯科連携のあり方は示されていない。医科・歯科のそれぞれが必要とする医科・歯科診療に係る情報を適切なタイミングで漏れなく提供可能とする情報の構造化・標準化が医科歯科連携の基盤となる。
結論
健康状態の良好な75歳以上の高齢者において、歯科医療の受診が肺炎、尿路感染症、脳卒中発作の発生を予防することが示された。また、75歳以上の歯周病患者では、歯周病安定期治療は肺炎、尿路感染症、急性冠症候群の発症抑制と関連する可能性が示唆された。高齢者の多くは慢性疾患を抱えていることから、高齢者の健康管理と慢性疾患の重症化予防において、継続的で定期的な歯科受診を効果的に促進するためには、医科歯科連携が重要である。
公開日・更新日
公開日
2021-10-27
更新日
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