糖尿病性腎症重症化予防プログラムの効果検証と重症化予防のさらなる展開を目指した研究

文献情報

文献番号
202009004A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性腎症重症化予防プログラムの効果検証と重症化予防のさらなる展開を目指した研究
課題番号
H30-循環器等-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(丹羽 一代)(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生学部門)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 植木 浩二郎(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター)
  • 安西 慶三(国立大学法人佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科)
  • 和田 隆志(国立大学法人 金沢大学 事務局)
  • 矢部 大介(岐阜大学大学院医学系研究科)
  • 安田 宜成(名古屋大学大学院医学系研究科循環器・腎臓・糖尿病(CKD)先進診療システム学寄附講座)
  • 平田 匠(北海道大学大学院医学研究院 社会医学分野公衆衛生学教室)
  • 森山 美知子(広島大学大学院  医歯薬保健学研究科)
  • 佐野 喜子(学校法人 古屋学園 二葉栄養専門学校 管理栄養士学科)
  • 樺山 舞(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
11,100,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動  研究代表者 津下 一代   愛知県健康づくり振興事業団(令和2年4月1月~8月31日)    女子栄養大学(令和2年9月1日以降) 研究分担者異動   伊藤 禎浩(名古屋大学)は退職(交代なし)   村本あき子(愛知県健康づくり振興事業団)は代表の所属異動に伴い研究中止  (令和2年4月1月~8月31日)  

研究報告書(概要版)

研究目的
透析新規導入を減らすため、国保・後期高齢者医療広域連合は、糖尿病性腎症重症化予防事業の実施を求められている。本研究班ではエビデンスのある効果的な方法を示すなど自治体事業の実証支援をおこないつつ、保健事業対象者登録、アウトカム評価体制を整えた。国保データベース(KDB)を用いた評価方法を確立すること、本事業が腎機能等に及ぼす影響を分析することを目的とする。
研究方法
1.糖尿病性腎症重症化予防プログラム参加者の追跡
112自治体より匿名化した健診・レセプト情報を最大5年分収集。2015年度をベースライン(BL)とした分析で、① 4年後検査値の変化、② 腎症病期、検査値カテゴリーの推移、③ eGFR低下速度に着目した分析、④ 透析の発生状況を行った。佐野は2017年度をBLとして、肥満度に着目した分析を実施、対象者抽出並びに指導のための基準設定を提案した。安田は糖尿病治療薬処方実態を調査した。
2.自治体の支援と実施状況の評価
1)ワークショップ(WS);コロナのためオンラインで実施した。指導教材の活用法、後期高齢者の重症化予防事業、データ分析から見えること、コロナ渦での保健事業について情報提供、意見交換した。
2)地域における重症化予防プログラムの実際と評価:安西、矢部、樺山は佐賀県、岐阜県、大阪府の実施体制、プログラム内容、評価、課題と対策についてまとめた。平田はコロナ禍での実施状況についてアンケート調査を行った。森山はデータヘルス計画と本事業の方策についてまとめた。
3)科学的エビデンスの重症化予防事業への展開:植木はJ-DOIT3、J-DREAMSにおける腎症の発症予防、進展抑制のエビデンスを、岡村は保健指導の指標として推定24時間尿中ナトリウム・カリウム排泄量比の活用可能性を、和田は腎生検所見とヘモグロビン低値の関連、三浦は腎機能と冠動脈石灰化の関連を追跡調査した。
結果と考察
1.プログラム参加者の追跡:①4年後体重が平均1.6㎏減少、HbA1c、TG、LDLは低下、HDLは増加。ΔeGFR/年は3.7±9.9低下、平均年間低下率は1.1%。②BL2期のうち4年後3期への移行5.7%、4期への移行0.17%。BL3期では約半数は可逆的な段階にあった。BL:HbA1c≧7.0%のうち半数が区分改善したが、8%以上の継続・悪化者が8.9%であった。BL:SBP≧160またはDBP≧100の者のうち36.8%が高血圧区分を脱したが、目標値に到達する者は少なかった。 ③eGFR年間低下率が5%以上の者が全体の8.7%。尿蛋白陽性者では低下率が大きい者が多かった。④ 4年追跡した5,419例のうち、5例が透析導入に至った。うち4例はBL時3期以上であった。
重症化予防事業対象者はやせ(BMI<18.5)3.5%、肥満(BMI≧25.0)40%と肥満者の多い集団であった。BMI<22.0以下は生活習慣について比較的良好と回答する傾向があり、改善意欲は無関心期、関心期で63%を占めた。
2018年度糖尿病治療薬処方薬はビグアナイド41.3%、チアゾリジン10.7%、SU薬30.1%、グリニド薬4.4%、DPP4阻害薬74.4%、α-GI15.8%、SGLT2阻害薬14.4%、GLP1RA 1.6%、インスリン6.5%であった。G4+G5でもビグアナイド薬が12.5%に処方されていた。
2.自治体の支援と実施状況の評価:佐賀県では行政と医療機関の綿密な連携体制を構築、全国と比較してHbA1cの改善度、腎症病期の変化が良好であった。岐阜県の調査では受診勧奨における糖尿病連携手帳配布率は9.2%にとどまり、利用の均てん化が必要であることが判明した。大阪府では糖尿病性腎症重症化予防アドバイザー事業により未実施自治体を減少させることができた。宮城県の調査ではコロナの影響により39.4%の自治体で本事業の計画変更していた。森山はデータヘルス計画との関連で実効的な方法を提案した。
3.植木は腎症の発症抑制には血糖コントロールが重要であるが、すでにeGFRの低下を認めている場合には収縮期血圧の厳格な管理が重要であること、末期腎不全に至る糖尿病患者の特徴として発症年齢が若いことを報告した。岡村は推定24時間尿中ナトカリ比が高いと腎機能低下のリスクが高く、減塩、野菜、果物の摂取増加を推奨した。和田はHb低値が腎症の悪化要因であり、IFTAの進展が関連することを示した。三浦は冠動脈疾患発症予測において、アルブミン尿とeGFRcysが重要である可能性を示唆した。
結論
重症化予防事業について、自治体に対しエビデンスのある効果的な方法の提示、進捗評価とWSによる支援を行った。KDB活用によるアウトカム評価を実施したが、今後未実施自治体との比較が必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-03-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-03-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202009004B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病性腎症重症化予防プログラムの効果検証と重症化予防のさらなる展開を目指した研究
課題番号
H30-循環器等-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
津下 一代(丹羽 一代)(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座 公衆衛生学部門)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 植木 浩二郎(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター)
  • 安西 慶三(国立大学法人佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科)
  • 和田 隆志(国立大学法人 金沢大学 事務局)
  • 矢部 大介(岐阜大学大学院医学系研究科)
  • 後藤 資実(名古屋大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科)
  • 安田 宜成(名古屋大学大学院医学系研究科循環器・腎臓・糖尿病(CKD)先進診療システム学寄附講座)
  • 平田 匠(北海道大学大学院医学研究院 社会医学分野公衆衛生学教室)
  • 森山 美知子(広島大学大学院  医歯薬保健学研究科)
  • 佐野 喜子(学校法人 古屋学園 二葉栄養専門学校 管理栄養士学科)
  • 樺山 舞(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻)
  • 村本 あき子(あいち健康の森健康科学総合センター 健康開発部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病性腎症による新規透析導入を減らすため、自治体(国保・後期高齢者医療広域連合)は糖尿病性腎症重症化予防事業の実施を求められている。
 本研究班ではこれまでの介入研究等でエビデンスのある効果的な方法を示す、具体的な連携手法を示すなど、自治体事業の実証支援をおこない、ストラクチャー、プロセス評価に及ぼす影響を確認する。また、本事業が血糖等の管理や腎機能等に及ぼす効果分析を行うことを目的とした。
研究方法
1.重症化予防プログラムの効果評価:
 全国より自治体の参加を呼びかけ、148自治体(141市町村、7広域連合)の参加を得た。ワークショップ(WS)を開催し、重症化予防プログラムの意義と方法を周知、地域に合った方法を企画・運営・評価できることを目指した。その際、各書式のひな型や教材を提供し円滑に事業を開始できるよう支援、課題について相談できる場を設けた。
 自治体からの健診・医療費等のデータ登録について、入力の負担を軽減するため、「KDBデータ作成ツール」を開発した。KDBに不慣れな自治体も多いため、ヘルプデスクを設けてサポートした。その結果、112自治体より追跡データを取得することができた。
 2015年度をベースラインとする対象者については、① 4年後検査値の変化、② 腎症病期、検査値カテゴリーの推移、③ eGFR低下速度に着目した分析、④ 腎機能の悪化に影響する要因分析、⑤ 透析の発生状況、の分析を行った。
 2017年度をベースラインとしたデータセットは健診・レセプト・質問票の突合率が高いため、重症化予防事業参加者のベースラインの特徴を分析した。

2.標準的な糖尿病性腎症重症化予防プログラムに向けた検討:
 ワークショップ(WS)、進捗チェックリスト等で自治体の状況を収集し、ストラクチャー、プロセス評価を行った。共通する課題について対策を検討した。糖尿病学、腎臓病学の新たな知見を対象者選定や指導に反映できるよう、情報を整理した。

3.プログラム普及に向けた研究
 研究班のWSの経験をもとに、国保連合会が実施する都道府県単位の研修プログラム作成に協力した。多数の学会で本プログラムの内容や課題、成果を専門医、療養指導士に共有し、地域でのネットワークが構築しやすくなるよう努めた。
結果と考察
1.重症化予防プログラムの効果評価:
 112自治体(105市町村、7広域連合)より、重症化予防事業対象者の健診・レセプトデータを最大5年分収集し、分析した。
 2016年度に重症化予防事業の対象者としてリストアップされた5,419人のうち、5人がこの4年間に透析導入に至った。健診でデータが追跡可能な2,676人のeGFRの年間低下率は平均1.1%であるが、5%以上低下した者は8.7%であった。eGFR低下の予測因子として介入前HbA1c高値、SBP高値、HDL-C低値、尿蛋白(+)以上が挙げられた。血糖、血圧、脂質の良好な管理が、腎症進展およびeGFR低下抑制につながる可能性が示唆された。本研究ではプログラム非参加者の登録が少なかったため、非参加群との比較が困難であるのが課題として残った。

2.標準的な糖尿病性腎症重症化予防プログラムに向けた検討:
WSでは保健事業の実施方法、課題解決のためのグループワーク(GW)を実施した。進捗管理シートの分析から、経年的にプログラムの質の向上がみられる一方で、評価、継続性が不十分な自治体もあった。実施体制の在り方について考察した。

3.プログラム普及に向けた研究 厚生労働省プログラムへの提案、普及
 研究の成果を生かし、厚生労働省の手引書、普及啓発ツール作成に協力した。厚生労働省主催の糖尿病性腎症重症化予防セミナーに協力した。医療機関との連携のポイントに配慮した内容とした。国連合会が行うセミナーに協力したことで、自治体に身近な専門機関の支援が受けられる体制に寄与できた。また、KDBの保健事業への活用が進んだことから、今後の戦略的な保健事業につながっていくものと考えられた。
結論
 重症化予防プログラムでは、関係者が健康課題を共通認識し、地域にあった方法で連携していくことを重視したため、抽出基準や実施方法、評価方法にばらつきがあった。このことが評価を難しくしている要因となったため、保健指導の記録を標準化することが期待される。保健事業参加者のデータ変化については分析できたが、対照群との比較について今後の課題となった。大規模実証事業において非実施自治体との比較を行っていく予定である。
 データヘルスで保険者としての戦略を明確にすること、継続的にPDCAサイクルが回るよう、指標の明確化、安定的な実施体制の構築が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2023-03-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202009004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
保険者から見た糖尿病医療、予防の実態が明らかになった。自治体(国保等)の保健事業の評価方法について、自治体から提出されたKDBから作成されたデータを活用した分析手法を示すことができた。地域連携による保健事業、多様な関係者による介入、保健指導の対象者選定や指導方法についての研究をまとめることができた。
臨床的観点からの成果
糖尿病・腎症の未受診者、受診中断者に対して、保険者と医療機関が協力して取り組む地域連携の意義を周知することができた。医療関係者が地域の保健活動に関心を持つための情報提供の仕方を提供することができた。実際に、本事業により適切な医療につながった事例が多く報告された。
ガイドライン等の開発
糖尿病性腎症重症化予防プログラム改訂版(平成31年4月25日)
糖尿病性腎症重症化予防に関する事業実施の手引き(2019年3月)
国民健康保険中央会「糖尿病性腎症重症化予防セミナーの研修プログラム」(2021年4月)
その他行政的観点からの成果
第12回重症化予防(国保・後期広域)ワーキンググループ(令和元年6月17日)に本研究の成果を報告した。重症化予防事業評価の視点について解説した。
             
その他のインパクト
日本健康会議において成果や具体的な取り組みを発表、横展開につながった。(2015年、2016年、2018年、2019年) 
マスコミにも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
59件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
その他成果(普及・啓発活動)
73件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hattori H, Hirata A, Kubo S, et al
Estimated 24 h Urinary Sodium-to- Potassium Ratio Is Related to Renal Function Decline: A 6-Year Cohort Study of Japanese Urban Residents
Int. J. Environ. Res. Public Health  (2020)
原著論文2
Rieko Okada, Kazuyo Tsushita, Kenji Wakai, et al
Healthy lifestyle reduces incidence of trace/positive proteinuria and rapid kidney function decline after 2 years: from the Japan Ningen Dock study
Nephrol Dial Transplant  (2020)
原著論文3
Furukawa M, Onoue T, Tsushita K. et al
Prediabetes is associated with proteinuria development but not with glomerular filtration rate decline: A longitudinal observational study.
Diabetic Medicine  (2021)

公開日・更新日

公開日
2022-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202009004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,000,000円
(2)補助金確定額
9,499,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,501,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 860,573円
人件費・謝金 458,775円
旅費 0円
その他 7,279,960円
間接経費 900,000円
合計 9,499,308円

備考

備考
自己資金308円。COVID-19 のため、予定していた班会議、ワークショップをすべてオンラインで実施したため、旅費の執行がありませんでした。

公開日・更新日

公開日
2022-03-25
更新日
-