ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究

文献情報

文献番号
202008055A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究
課題番号
20EA1027
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
  • 新井 正美(順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学)
  • 青木 大輔(慶應義塾大学 医学部産婦人科学)
  • 戸崎 光宏(相良病院 放射線科)
  • 中村 清吾(昭和大学 医学部 外科学講座 乳腺外科学部門)
  • 西垣 昌和(国際医療福祉大学大学院医療研究科)
  • 平沢 晃(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 (臨床遺伝子医療学分野) )
  • 山内 英子(聖路加国際大学 聖路加国際病院 ブレストセンター 乳腺外科)
  • 吉田 玲子(昭和大学 先端がん治療研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は遺伝性腫瘍の中でも最も頻度の高い疾患であり、令和2年4月には遺伝学的検査やリスク低減手術など、HBOC関連診療の一部が保険収載された。その意味でもHBOCはわが国のがん診療における戦略的な先制医療のモデルとなる疾患と言える。また、HBOC診療の一部保険診療化に伴い、今後は血縁者の未発症変異保持者数も飛躍的に増加すると予想される。海外諸国では、いくつかの遺伝性腫瘍において未発症変異保持者に対するリスク低減治療の有用性と費用対効果の優越性が示されているが、わが国では十分なデータは得られておらず、また国民皆保険制度下においては、罹患者ではない未発症変異保持者は保険診療の対象外という問題もある。
本研究班の目的はこうした課題を解決するためのエビデンスの構築と社会発信である。
研究方法
本研究では5つの課題、すなわち1)患者データの収集と解析、2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化、3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価、4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出、5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動、である。
結果と考察
1)今年度は新たに7780例の登録があり、総登録数は約3万例となった。BRCA受検者の全国登録について、2020年度は5回目の集計を行った。2019年の2倍近い症例を登録した。また、コンパニオン診断は全登録検査の16.9%を占めた。50歳以上の乳がん発症者で、乳癌卵巣癌の家族歴がなくても9.7%もあり、BRCA遺伝学的検査で確認する意義はある。乳癌および卵巣癌の臨床病理学的特徴は昨年と著変を認めなかった。RRM後乳癌発症は120例中2例(0.5%/年)、RRSO後腹膜癌の発症は289例中1例(0.1%/年)であった。
2)国内の遺伝性腫瘍に関する多遺伝子パネル検査の動向を収集し、課題・問題点を抽出を抽出した。来年度は日本でのMGTの適応基準とそれを活用した診療体制の指針を設定し、パブリックコメントを求めたのちにガイドラインに反映させていく。さらに未発症血縁者への対応や保険適応に向けたエビデンス構築を行いガイドラインへの反映をめざす。
3)造影MRIと超音波の乳癌検出感度の比較検証は、データ解析中であり、昭和大学のデータは来年度の乳癌学会にて発表予定である。またMRIサーベイランスの普及のための教育セミナーを2021年3月13日にweb開催した。当日とオンデマンドを合わせて638名が視聴し、関心の高さがうかがわれた。
4)患者とその血縁者に対するインタビュー調査を行い、6名の対象者にインタビューを実施した。対象者の平均年齢は47.8±4.7歳、全員女性乳がん患者であった。平均診断時年齢は42.8±3.1歳で、全員BRCA1/2遺伝子検査を受検し病的バリアントが検出されていた。HBOCに関連する表現型としては、家族歴(n=5)、若年(n=5 うちトリプルネガティブ4)、両側(n=2)で、すべての患者がHBOCを主治医あるいは患者自身が疑ってBRCA1/2遺伝子検査を受検していた。一次対応施設における適切なリスク評価とそれに基づいて適切な医療機関に患者を紹介する機能を強化すること、HBOC患者に十分な医療を提供するための専門施設間・施設内連携の強化すことが重要である。そのためには、それぞれの段階で患者に関与する医療スタッフの専門職間連携とそのための教育が必須といえる。また、遺伝性乳がん患者が常日頃から安心な療養生活を送るためには、一般市民の啓発も重要である。
5)⽇本婦⼈科腫瘍学会会員に対してHBOC診療に関する診療実態についてGoogle Formによるアンケート(質問計25問 回答所要時間15分程度)によりデータ収集を行った。回答者の80.1%が本邦でのHBOC診療は十分に普及していないと答え、普及させるためには遺伝診療を専門とする医療者などの人的資源(71.3%)、HBOC診療に関する情報共有・教育機会(67.3%)が必要としていた。
結論
本研究の5つの課題について、今年度は順調に研究を遂行することができた。またこの成果は来年度にはデータベースの解析結果報告、診療ガイドラインの形で公開する予定である。

公開日・更新日

公開日
2021-07-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202008055Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,950円
(2)補助金確定額
14,950円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,520円
人件費・謝金 1,130円
旅費 341円
その他 7,509円
間接経費 3,450円
合計 14,950円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-07-07
更新日
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