文献情報
文献番号
202008029A
報告書区分
総括
研究課題名
がん検診の有効性に関するエビデンスレビューに関する研究
課題番号
20EA2002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部)
研究分担者(所属機関)
- 濱島 ちさと(帝京大学 医療技術学部 看護学科 保健医療政策分野)
- 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部検診実施管理研究室)
- 細野 覚代(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
- 松本 綾希子(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がん検診に関する社会の期待は大きく、また新たな検診手法の開発に関する情報が溢れている一方、検診ガイドラインの更新には時間がかかり、タイムリーな評価、情報提供が行えていない。本研究では、推奨Iにとどまる検診手法や新たながん検診手法の開発の現状と課題について文献レビューを行い、ファクトシートとしてまとめることを目的とした。
研究方法
乳癌の超音波検診、MRI検診、PSAを用いた前立腺がん検診、膵がん検診について文献レビュー、USPSTFなどの推奨等について検討した。レビューは無症状を対象としたものに限定し、該当する「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン」がある臓器では、それ以降の研究について検討した。また「リスク層別化」という概念を整理し、AMED研究班の研究計画の概要と、リスク層別化の運用上の課題を検討した。さらに血液や尿検体を用いた多臓器同時がん検査法の精度評価の現状と課題について検討した。
結果と考察
(乳がん検診)日本では40歳代を対象としマンモグラフィーに超音波検査を追加したJ-start研究、オランダではマンモグラフィーでdense breastかつ精検不要と判定されたものにMRI検査を追加する検討が行われており、いずれも中間期がんの半減を示しているが、特異度の上昇が問題となっている。(前立腺がん検診)有効性に関する評価は3つの無作為化比較試験の成績が報告されているが、PLCO、CAPは死亡率減少効果を認めず、ERSPCは死亡率減少効果を示しており、2008年時点と大差はない。過剰治療を軽減するための積極的監視療法の長期追跡結果が報告され、手術の方が有意に前立腺がん患者の死亡リスク低減効果があることが示されている。米国USPSTFは2012年版ですべての年齢で推奨Dとしていた。この影響で転移がんが増加したという報告がみられるが2013年の罹患情報であり、ガイドラインの影響にしては早すぎると考えられた。(膵がん検診)家族歴や遺伝子異常などの高リスク者に限定した発見率の報告にとどまり、一般集団を対象とした検診としての報告はまだない。精密検査としてのERCP後の膵炎発症率は5~10%と他の臓器の精密検査に加えて抜きん出て高い。「膵がん検診」として検討をするにあたっては、より侵襲性の低い精密検査を開発するか有病率の著しく高い集団を設定して行う必要がある。(リスク層別化)これまでのリスク層別化という概念は、初年度の発見率の評価(有病リスク)を用いた議論が中心であり、検診(フォローアップ)間隔を検討するための累積罹患リスクの評価と混乱して議論されている。累積罹患リスクを評価するAMED研究班の成果が期待されるが、高リスク者が適正なフォローアップを受診するかどうかは定かではない。フォローアップ受診への行動変容を促す介入研究も早急に開始するべきである。(血液や尿検体を使った多臓器同時がん検査)これまでの報告のほとんどが、患者群と健常者群の検体を別個に収集し、1:1程度の割合でまとめた仮想集団を設定して感度・特異度を算出するtwo-gate design with healthy controlsで行われている。本法は開発段階で行うものであり、感度と特異度の双方が100%に近づくことが知られており、検査法の精度比較のガイドラインでは、本法の利用を慎むことが示されている。今後、一般での利用を検討する段階では、有病率が低い一般的な集団での検討(single-gate design)を行うべきである。
結論
乳癌検診について、日本では超音波、米国ではMRIをマンモグラフィーに追加する検討が行われている。前立腺がん検診については、有効性に関する評価は2008年時点と大差はない。膵がん検診は高リスク者に限定した発見率の報告にとどまり、一般集団を対象とした検診としての報告はない。リスク層別化については初年度の発見率の評価は除いた累積罹患リスクの評価に集中すべきである。血液や尿検体を使った多臓器同時がん検査はまだ一般的な集団での検討が行われておらず、これまでの報告は過大評価である。
公開日・更新日
公開日
2021-06-16
更新日
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