文献情報
文献番号
199700412A
報告書区分
総括
研究課題名
病者用食品開発及び有用性評価に関する基礎的調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
上野川 修一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 河野陽一(千葉大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多くの疾患は、食と関係して発症あるいは悪化するが、また同時に食の適切な摂取により、これを正常に修復することも可能である。このような観点から厚生省によって許可された特定の疾患を持つ人の治療等を目的に食事療法を行うためにデザインされた食品群として病者用食品がある。この病者用食品は、食品に特別の用途に適する旨の表示を許可する特別用途食品に位置づけられるものである。規格基準設定型の病者用食品については、すでに多数が表示許可を受けているが、平成9年度よりさらに個別評価により許可される個別評価型病者用食品が新規に設けられた。以上の状況を背景に、本研究においてはまず始めにこれまで病者用食品としてこれまで利用されたもの、そして将来用いられるべき新規病者用食品の開発に向けて、その有用性を評価する方法について調査考察し、その一部については実際に新評価法に関する研究を実行することを目的とした。
研究方法
1.病者用食品の評価法、治療効果についての調査研究 病者用食品、および慢性腎不全・糖尿病における食事療法の文献を検索、収集した。2.アレルギー疾患用食品の開発および評価法確立のための基礎的研究(1)食物アレルゲン経口摂取に対するIgE応答モデルを利用したアレルギー疾患用食品の評価法確立に関する研究 卵白アルブミン特異的T細胞抗原レセプタートランスジェニックマウス(OVA-TCR-Tg)に20%卵白タンパク質を含む飼料を摂取させた。このマウスの血中におけるOVA特異的IgE抗体価をELISAで測定した。
(2)アレルゲン由来ペプチドフラグメントによる経口免疫寛容を利用したアレルギー疾患用食品開発のための基礎的研究 C3Hマウスに牛乳αs1-カゼインの部分ペプチドf91-110、f151-170を0.5μmol、3-4日間隔で4回で経口ゾンデを用いて経口投与した。最後の抗原の経口投与から3日後にαs1-カゼインで皮下免疫し、T細胞増殖試験を行った。ペプチド投与群におけるT細胞増殖応答をコントロール群の場合と比較して、経口免疫寛容誘導を評価した。3.新しい食物アレルギー診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法の確立に関する臨床的研究 健常児、牛乳アレルギー患者の末梢血単核球をαs-カゼインと共に培養し、フローサイトメトリーによりT細胞における細胞上のα4β7インテグリンの発現誘導を解析した。
(2)アレルゲン由来ペプチドフラグメントによる経口免疫寛容を利用したアレルギー疾患用食品開発のための基礎的研究 C3Hマウスに牛乳αs1-カゼインの部分ペプチドf91-110、f151-170を0.5μmol、3-4日間隔で4回で経口ゾンデを用いて経口投与した。最後の抗原の経口投与から3日後にαs1-カゼインで皮下免疫し、T細胞増殖試験を行った。ペプチド投与群におけるT細胞増殖応答をコントロール群の場合と比較して、経口免疫寛容誘導を評価した。3.新しい食物アレルギー診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法の確立に関する臨床的研究 健常児、牛乳アレルギー患者の末梢血単核球をαs-カゼインと共に培養し、フローサイトメトリーによりT細胞における細胞上のα4β7インテグリンの発現誘導を解析した。
結果と考察
1.病者用食品の評価法、治療効果についての調査研究 病者用食品をキーワードとして検索を行ったが、病者用食品の評価に関する論文は認められなかった。今後、病者用食品の評価研究を行い、研究発表を積極的に行う必要性が考えられた。 そこで慢性腎不全および糖尿病における食事療法の文献を検索、収集した。その結果、腎不全患者への低タンパク食、 肥満・糖尿病に対する低カロリー食について必ずしも期待された効果が認めらない場合があり、食事療法の難しさが浮き彫りになった。慢性疾患における食事療法の基本は継続性にある。病者用食品の認定制度は、特定の食事療法に合致するような献立の作成を容易にするものである。しかしながら、現状、その認可数は日々の食事を豊かにするほどのバリエーションがあるとは言い難い。 今後許可品目を広げ、制度の認知と利用を広く推進する必要があると思われる。2.アレルギー疾患用食品の開発および評価法確立のための基礎的研究 本研究においては申請が予想される病者用食品の中で特にアレルギー疾患用食品の評価法確立、開発のための基礎的研究を行った。現在アレルギーの増加は大きな社会問題となっているが、この中でも食物を原因とするアレルギーは急激に増加し、日本人の健康問題の重要な課題となっている。この食品アレルギーに対する根本的な予防法や治療法は確立されておらず、その対処法としてはもっぱら原因食品の除去に依存しているのが実状である。また、食品アレルギーの患者の多くは乳幼児であるが、 食品アレルギーの原因物質すなわち食品アレルゲンとなる大豆、卵、牛乳などを含む食品が乳幼児期に多く与えられるものであることが問題をいっそう大きくしている。このような状況から、新規のアレルギー疾患の病者用食品の開発、および評価法の確立が切望されている。(1)食物アレルゲンの経口摂取に対するIgE応答モデルを利用したアレルギー疾患用食品の評価法確立に関する研究 アレルゲン特異的IgE抗体はI型アレルギー反応において主役を演じており、食物アレルギー患者の血清中にはアレルゲン特異的IgE抗体が検出される。食物アレルギー用病者用食品の開発、および評価において、食物アレルギーモデル動物の作出は必須であるが、現在までのところ有効なモデルは開発されていない。 これに対し本研究ではOVA-TCR-Tgに卵白飼料を自由摂取させたところ、血中にOVAに対する強いIgE応答が誘導されることを見出した。今後このモデル系の卵アレルギー疾患用食品の評価法への適用が期待される。また、このモデルを用いて、様々な食品成分の食物アレルギーへの影響を評価することが可能と考えられる。(2)経口免疫寛容を利用したアレルギー疾患用食品開発のための基礎的研究 健常人においては食物タンパク質に対して過剰な免疫応答を起こさないための調節機構が働くと考えれており、経口免疫寛容と呼ばれている。食品アレルギー患者にそのアレルゲンに対して経口免疫寛容を誘導できれば根本的な治療となりうる。しかしながら、アレルゲンをそのまま経口的に投与すれば、アレルギー症状を誘発する危険がある。一方で、アレルギー症状を感作するのはアレルゲンタンパク質の特定の領域に限られている場合や、感作にはある程度の大きさを必要とする場合が考えれる。このような場合には、経口免疫
寛容を効果的に誘導する部位のみをペプチドとして投与すれば、アレルギー反応を避けつつ免疫寛容を誘導でき、食品アレルギーの予防・治療が期待できる。 本研究では、経口免疫寛容がT細胞依存的現象であるため、T細胞抗原決定基(T細胞に認識されるタンパク質抗原上の部位)を含むペプチドが経口免疫寛容の誘導において有効であると考えた。すなわち牛乳の主要なアレルゲンであるαs1-カゼインのT細胞抗原決定基を含む部分ペプチドを用いて、αs1-カゼインに対する経口免疫寛容を誘導しようと試みた。タンパク質抗原には複数のT細胞抗原決定基が存在が、本研究ではαs1-カゼインの最も優勢な抗原決定基を含むf91-110、さらに中程度の増殖応答を誘起する抗原決定基を含んでいるf151-170についても検討した。その結果、f91-110を経口投与すると、αs1-カゼイン全体に対する経口免疫寛容誘導能があることが明らかとなった。食品アレルギー抑制の観点から、単一のT細胞抗原決定基を含むペプチドでタンパク質全体に対する応答が低下した意義は大きい。本研究より得られた知見は、アレルギー疾患のための病者用食品の設計、開発のみならず、他の免疫関係食品、自己免疫疾患用食品の開発に有用と考えられる。3.新しい食物アレルギー診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法の確立に関する臨床的研究 健常児の末梢血T細胞ではαs-カゼイン刺激によってα4β7インテグリンの発現が、全く増強しなかったのに対し、牛乳アレルギー患者では明らかにα4β7インテグリンの発現の増強が認められた。一方で牛乳アレルギー患者では必ずしも牛乳に対するIgE抗体が検出されず、また、健常人でもリンパ球増殖反応を示した。従って、α4β7インテグリンの発現誘導はIgE抗体の有無やリンパ球の増殖反応と比較して、食物アレルギーの診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法として有用であると考えられる。
寛容を効果的に誘導する部位のみをペプチドとして投与すれば、アレルギー反応を避けつつ免疫寛容を誘導でき、食品アレルギーの予防・治療が期待できる。 本研究では、経口免疫寛容がT細胞依存的現象であるため、T細胞抗原決定基(T細胞に認識されるタンパク質抗原上の部位)を含むペプチドが経口免疫寛容の誘導において有効であると考えた。すなわち牛乳の主要なアレルゲンであるαs1-カゼインのT細胞抗原決定基を含む部分ペプチドを用いて、αs1-カゼインに対する経口免疫寛容を誘導しようと試みた。タンパク質抗原には複数のT細胞抗原決定基が存在が、本研究ではαs1-カゼインの最も優勢な抗原決定基を含むf91-110、さらに中程度の増殖応答を誘起する抗原決定基を含んでいるf151-170についても検討した。その結果、f91-110を経口投与すると、αs1-カゼイン全体に対する経口免疫寛容誘導能があることが明らかとなった。食品アレルギー抑制の観点から、単一のT細胞抗原決定基を含むペプチドでタンパク質全体に対する応答が低下した意義は大きい。本研究より得られた知見は、アレルギー疾患のための病者用食品の設計、開発のみならず、他の免疫関係食品、自己免疫疾患用食品の開発に有用と考えられる。3.新しい食物アレルギー診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法の確立に関する臨床的研究 健常児の末梢血T細胞ではαs-カゼイン刺激によってα4β7インテグリンの発現が、全く増強しなかったのに対し、牛乳アレルギー患者では明らかにα4β7インテグリンの発現の増強が認められた。一方で牛乳アレルギー患者では必ずしも牛乳に対するIgE抗体が検出されず、また、健常人でもリンパ球増殖反応を示した。従って、α4β7インテグリンの発現誘導はIgE抗体の有無やリンパ球の増殖反応と比較して、食物アレルギーの診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法として有用であると考えられる。
結論
(1)国内外の文献を探索し、これまで使用認可されている病者用食品の評価法、治療効果について再確認のための調査研究を行なったところ、今後病者用食品の評価研究、研究発表を積極的に行う必要性、また、病者用食品の許可品目を広げ、制度の認知と利用を広く推進する必要性が考えられた。(2)卵白飼料を摂取させたOVA-TCR-Tgにおいて強い抗原特異的IgE応答が認められた。経口摂取アレルゲンに対するIgE応答モデルとして、アレルギー疾患用の病者用食品の評価への適用が期待される。(3)牛乳アレルゲン上の経口寛容誘導部位を同定し、T細胞抗原抗原決定基を含むペプチドフラグメントにより経口免疫寛容が誘導されることを示した。この知見は、経口免疫寛容を利用した新規アレルギー疾患病者用食品の設計、開発に有用と考えられる。(4)食物アレルゲン刺激による末梢血T細胞上のα4β7インテグリンの発現誘導の有無は食物アレルギーの診断法、食物アレルギー疾患用食品の評価法として有用であると考えられる。
公開日・更新日
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