特定保健用食品素材の有用性評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700411A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材の有用性評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中村 治雄(防衛医科大学校第一内科)
研究分担者(所属機関)
  • 池田義雄(東京慈恵会医科大学健康医学科)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来より、特定保健用食品素材の有用性を評価する場合、その領域によってはかなり実験条件が異なっており、特に臨床における評価では症例数、摂取期間、摂取量の決め方、評価項目等様々であった。特にその効果が緩除であり、その程度も大きくない場合には、ある程度厳密な条件下での検定が必要となる。
今回、主要な素材で広く用いられる可能性のあるものとして、コレステロール低下には大豆蛋白を、血圧低下にはラクトトリペプチド、杜仲葉配糖体を、便秘改善等整腸作用を目的とした場合にはガラクトオリゴ糖を選び、それぞれの有用性を評価するには、どの様な条件が必要かを検討した。
研究方法
対象:コレステロール低下には、26才より65才の男性のみで、血清コレステロール200~220 mg/dl の境界域の異常値を示す15例、血圧低下には 45才より80才迄の軽度、中等度高血圧を示す男女16例、整腸作用には2型糖尿病で平均年令 66才の男女12例で、便秘を訴える症例である。
観察期での注意:試験の内容を十分理解していただくと共に、観察期におけるコレステロール、血圧、便秘の状況などほぼ安定していることを確認した。
測定項目とその選択:コレステロール低下では、総コレステロール、LDL-コレステロール(直接法)、トリグリセライド、HDL-コレステロール、各種アポ蛋白、一部にLDL受容体活性、レプチンを測定した。血圧低下に関しては、午前中での血圧測定,採尿、血液電解質、アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性を測定した。整腸作用では1日の排便回数、腸内フローラの検索の他、糖及び脂質への影響も観察した。
摂取量、期間の設定:大豆蛋白 20g/日、30g/日の2用量で、期間は2~3週間、ラクトトリペプチド、杜仲葉配糖体ではそれぞれアミールS(150ml、杜仲葉 2.5g )で、約3ヶ月摂取、ガラクトオリゴ糖は18.5g、1 ヶ月摂取とした。
結果と考察
結果:大豆蛋白摂取によるコレステロール低下については、20g 2週間摂取で総コレステロールは9.2%減少、LDL-コレステロールで12.4%の減少、アポ蛋白Bで10.6%の減少でそれぞれ有意であった。30g/日 2週間摂取ではそれぞれ有意の減少はみられなかった。20g3週間摂取では、総コレステロール 9.4% 減少、LDL-コレステロール 7.2% 減少、アポ蛋白Bは 6.4% 減少がみられ、それぞれ有意の変化ではあるが、2週目以降よりやや漸増し、3週目では2週目に比し減少率は軽度となっている。30g 3週間摂取では有意の変動は得られなかった。
ラクトトリペプチド(アミールS)摂取では収縮期血圧 8±4mmHg、拡張期血圧で4± 3 mmHgの減少を3ヶ月後に認めた。 杜仲葉配糖体摂取では 3ヶ月後収縮期血圧 6± 4 mmHg、拡張期血圧 4 ± 3mmHgの低下を認めた。この間心機能、電解質、クレアチニン値などにはそれぞれ有意の変動は認められていない。
ガラクトオリゴ糖 18.5g、1ヶ月摂取を行った2型糖尿病で明らかな便秘例(9例)では、7例に有効性が確認され、著効5例では糞便のbacteroidaceaeの減少、bifidobacteriumの増加が認められ、しかも血糖、HbA1cの改善傾向も認められた。便秘の改善と腸内フローラ性状の好転がほぼ一致してみられた。
考察:コレステロール低下については、従来より大豆蛋白摂取が明らかに総コレステロールを低下させるには10g以上の摂取が必要であると考えられていた。今回はその上限を知るべく、20g、30g摂取を行ったが 20gでは明らかな総コレステロール、LDL -コレステロール、アポ蛋白Bの有意の減少がみられ、むしろ 30gでは有意の変化は得られなかった。エネルギーの過剰になること、LDL受容体活性の変動は得られていないことなどが関与して有効性は認め難かったものと推定される。しかも、投与期間も、2週間で最大効果を示し、3週間でやや前値に復する傾向を認めることなど、コンプライアンスなどにも問題が生じやすい点を考えると、2週間摂取で十分であろうと考えられる。性周期を示す女性では、これらの有効性はマスクされやすく、男性が症例としては望ましいと考えられた。
降圧については収縮期血圧で8~6mmHg、拡張期血圧で4mmHgの降圧であるので、観察期に恒常性をもって軽度、中等度の血圧上昇を示している例でないと、これら降圧が確認しにくいものと思われる。しかもできるだけ食生活などをあまり変動させないことも大切であろう。ACE活性の高い例、低い例とに分けること、摂取量との関係など今後より詳細に検討する必要がある。
整腸については症例の選択については、2型糖尿病で便秘を持続的に訴える例が対象としては望ましい。ガラクトオリゴ糖 18.5g摂取では便秘9例中7例(78%)に有効性が確認され、しかも腸フローラの改善と便秘の改善が一致しており、今後この点は重要な評価項目となろう。しかも摂取を中止してもフローラ好転例では便秘改善が継続されている。
結論
1. 大豆蛋白摂取におけるコレステロール低下について:症例は男性で、血清コレステロール値の境界値(200~220mg/dl)を示す例が望ましい。摂取量は20g以上ではむしろ効果は低下し、10~20g/日が望ましい。摂取期間も2週間で最大効果の確認には十分である。評価項目として、最低総コレステロール、LDL-コレステロール(直接法)、アポ蛋白B、それに加えてHDL-コレステロール、アポ蛋白A-Iがあればよい。
2. ラクトトリペプチド、杜仲葉配糖体における降圧について:症例は、安定して軽症、中等症の高血圧例で、特に男女は問わない。摂取量はラクトトリペプチド(アミールS 150ml)、杜仲葉配糖体 2.5g を基準とし、降圧の程度に応じて増量した際の降圧効果も確認したい。摂取期間は、ほぼ 3ヶ月を要する。評価項目として血圧、検尿、電解質、心機能、腎機能が必要項目で、一部ACE 活性が測定されればよい。
3. ガラクトオリゴ糖における整腸について:症例は、持続的に便秘を訴える必要があり、軽症、中等症の2 型糖尿病などでは、その頻度が高い。摂取量は 18.5g/日を基準とし、整腸の程度に応じて摂取量を変更させるべきである。摂取期間は1ヶ月程度で、評価項目として、自覚的な排便回数の変化と共に、糞便のフローラの検定も必要である。特にフローラの好転は、その予後と密接に関係していることが示されている。

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