WHOの自殺予防戦略に基づくがん患者自殺予防プログラムの開発

文献情報

文献番号
202008006A
報告書区分
総括
研究課題名
WHOの自殺予防戦略に基づくがん患者自殺予防プログラムの開発
課題番号
H30-がん対策-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 豊(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター健康支援研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院支持療法開発部門)
  • 藤森 麻衣子(国立がん研究センター社会と健康研究センターコホート連携研究部)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多職種専門家パネルによる中長期的な対策のあり方の検討(研究❸)、わが国における自殺リスクを明らかにする検討(研究❹)、事例に基づいた医学心理社会的背景、要因の検討(研究❺)を行う。
研究方法
研究❸では、医療安全の視点、保健・福祉・経済・労働等の社会科学的視点を含めた中長期的な対策のあり方を包括的に練り直すために多職種専門家パネルを招集し検討を行った。研究❹では、革新自殺(令和元年度)内富班ではじめた全国がん登録データからわが国における自殺リスクを明らかにする研究を引き継いで解析を進めた。研究❺では、日本医療機能評価機構医療安全情報収集事例データ(2010年-2019年)を用いて自殺の実態や関連因子を詳細に明らかにする事例検討を行い、医学心理社会的背景、要因の検討を行った。
結果と考察
研究❸より、①がん患者の自殺の実態を明らかにし、②危険因子・保護因子を同定するための調査、③実態に基づく介入研究の開発と有効性の評価、④モニタリング、⑤がん医療に携わるあらゆる職員に対する自殺対策への取り組み必須であることや自殺の実態、具体的対応に関する教育が必要であることがまとめられた。研究❹より、自殺の実態として一般人口と比較したがん診断後6ヶ月以内のがん患者の自殺リスクが有意に高く特にがん診断後1ヶ月以内のリスクが高いこと、がん患者の自殺の大半は自宅で発生していることが明らかとなった。研究❺より、入院がん患者138例の自殺、自殺未遂事例の報告が抽出されていること、そのうちの51例(37%)が医療者に心身のつらさを訴えていたにもかかわらず何等かの対応につながった事例は23例(45.1%)にすぎないことが示された。
結論
今後、がん医療における自殺対策としてハイリスクがん患者のコホート調査等に基づく危険因子・保護因子の同定、実態に基づく介入研究開発、全国がん登録データを活用したがん患者の自殺のモニタリングの継続が必要であると考えられた。
「がん医療における自殺対策のための提言」をホームページ上で公開するとともに、(https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/icsppc/070/index.html)、がん診断後6ヶ月以内のがん患者の自殺リスクが有意に高いこと、がん患者の自殺の大半は自宅で発生していることを専門誌に公表した(PMID: 33529336)。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202008006B
報告書区分
総合
研究課題名
WHOの自殺予防戦略に基づくがん患者自殺予防プログラムの開発
課題番号
H30-がん対策-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 豊(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター健康支援研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 河西 千秋(公立大学法人 横浜市立大学 医学部)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院支持療法開発部門)
  • 藤森 麻衣子(国立がん研究センター社会と健康研究センターコホート連携研究部)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 一家 綱邦(国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部医事法研究室)
  • 井上 佳祐(横浜市立大学精神医学教室)
  • 三枝 祐輔(横浜市立大学附属次世代臨床研究センター)
  • 三角 俊裕(横浜市立大学 附属市民総合医療センター)
  • 島津 太一(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部)
  • 野口 普子(武蔵野大学 通信教育部 人間科学部)
  • 川島 義高(明治大学 文学部 心理社会学科 臨床心理学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1-2年度は、WHOの自殺予防戦略(全体的、選択的、個別的予防介入)を念頭に、二つの予備的な研究「がん患者に対するメンタルヘルスケアへのアクセス勧奨法の開発(研究❶)」と「自殺の危険が高いがん患者に対する多職種連携による支援プログラムの開発(研究❷)」に取り組んだ。最終年度は、研究体制を改め、「医療安全の視点、保健・福祉・経済・労働等の視点を含めた中長期的な対策のあり方を抜本的に練り直すための多職種専門家パネルによる自殺対策の検討(研究❸)」、パネルの検討を踏まえて、「がん患者の自殺の実態(研究❹)」、「がん患者の自殺の事例検討(研究❺)」を行うことを目的とした。
研究方法
研究❶のパイロット調査Ⅰでは、精神科受診を促すポスター等貼付・カード設置の、がん診断を契機にうつ状態となるがん患者を精神心理的なケアに誘導する効果を検討した。パイロット調査Ⅱでは、①組織風土の改革を目指した定期的な研修会と病院内でのメンタルヘルスケアへのアクセスを促すポスター貼付、②診断告知時等に看護師署名欄のある書式様式の利用促進、③看護師同席時にカード配布、という複合的な介入を行うことによって、がん患者指導管理料の算定ならびに精神科受診者数の増加が生じるか否かを検討した。
 研究➋では、自殺未遂者の自殺再企図防止に有効であることが示されているACTION-Jモデルを修正・応用した、多職種連携によるケース・マネジメント介入の実施可能性試験を実施した。
 研究❸では、医療安全の視点、保健・福祉・経済・労働等の社会科学的視点を含めた中長期的な対策のあり方を包括的に練り直すために多職種専門家パネルを招集し検討を行った。
 研究❹では、革新自殺(令和元年度)内富班ではじめた全国がん登録データからわが国における自殺リスクを明らかにする研究を引き継いで解析を進めた。
 研究❺では、日本医療機能評価機構医療安全情報収集事例データ(2010年-2019年)を用いて自殺の実態や関連因子を詳細に明らかにする事例検討を行い、医学心理社会的背景、要因の検討を行った。
結果と考察
研究❶のパイロット調査Ⅰでは、エンドポイント(初診のがん患者のうち、精神科受診もしくは緩和ケアを受けたうつ病・適応障害・不安障害患者の人数を、同院に初診となった全がん患者数で除した比)が、増加しなかったことから、精神科受診を促すポスター等貼付・カード設置等の単一介入では効果が乏しいことが示唆された。パイロット調査Ⅱは、がん患者指導管理料と精神科受診率・自殺率との因果関係が明白ではないとの外部評価を受けたため、3月末で中断した。
研究❷では、令和2年2月より研究を開始したが、介入プログラムによるリスク軽減と自殺減少の因果関係が明らかでないとの外部評価を受けたため、令和2年3月末で中断した。
研究❸では、多職種専門家パネルによる検討にて、①がん患者の自殺の実態を明らかにし、②危険因子・保護因子を同定するための調査、③実態に基づく介入研究の開発と有効性の評価、④モニタリング、⑤がん医療に携わるあらゆる職員に対する自殺対策への取り組み必須であることや自殺の実態、具体的対応に関する教育が必要であることがまとめられた。
研究❹では、革新的自殺研究推進プログラム(令和元年度)内富班ではじめた全国がん登録データからわが国における自殺リスクを明らかにする研究を引き継いだ。自殺の実態として一般人口と比較したがん診断後6ヶ月以内のがん患者の自殺リスクが有意に高く特にがん診断後1ヶ月以内のリスクが高いこと、がん患者の自殺の大半は自宅で発生していることが明らかとなった。
研究❺では、10年間の医療安全情報収集事例データより、入院がん患者138例の自殺、自殺未遂事例の報告が抽出されていること、そのうちの51例(37%)が医療者に心身のつらさを訴えていたにもかかわらず何等かの対応につながった事例は23例(45.1%)にすぎないことが示された。
結論
1-2年度に計画・実施した二つの予備的研究は、令和2年2月の中間・事後評価委員会のヒアリングにて、両研究の介入とがん患者の自殺減少の因果関係が明白でないとのを受け、令和2年3月末で両研究を中断した。介入の効果は評価できない。
最終年度は、多職種専門家パネルによる中長期的な対策のあり方検討、及び全国がん登録データによる自殺リスクの検討、日本医療機能評価機構医療安全情報収集事例データを用いた自殺の実態や関連因子の検討を行った。その結果、今後、がん医療における自殺対策としてハイリスクがん患者のコホート調査等に基づく危険因子・保護因子の同定、実態に基づく介入研究開発、全国がん登録データを活用したがん患者の自殺のモニタリングの継続が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202008006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国がん登録データより、一般人口と比較して、がん診断から6か月以内に自殺(標準化死亡比:2.68)、他の外因子、および心血管死のリスクが増加し、特に最初の1か月以内の自殺リスク(同:4.06)が高いことが観察された。
臨床的観点からの成果
がん患者に精神科受診を促すポスター等貼付・カード設置(全体的な単一介入)だけでは、がん診断を契機にうつ状態となるがん患者を精神心理的なケアに誘導する効果は乏しいことが示唆された。
ガイドライン等の開発
多職種専門家パネルならびに班員での定期会議により、がん患者の自殺対策に関する提言をまとめ、令和3年3月31日にホームページ上で公開した。https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/icsppc/070/index.html
その他行政的観点からの成果
全国がん登録データより、一般人口と比較して、がん診断から6か月以内に自殺(標準化死亡比:2.68)、他の外因子、および心血管死のリスクが増加し、特に最初の1か月以内の自殺リスク(同:4.06)が高いことが観察された。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Harashima S, Fujimori M, Akechi T, et al.
Death by suicide, other externally caused injuries and cardiovascular diseases within 6 months of cancer diagnosis (J-SUPPORT 1902)
Jpn J Clin Oncol , 51 (5) , 744-752  (2021)
https://doi.org/10.1093/jjco/hyab001

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202008006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,722,000円
(2)補助金確定額
7,376,844円
差引額 [(1)-(2)]
345,156円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 34,122円
人件費・謝金 5,116,140円
旅費 24,080円
その他 420,502円
間接経費 1,782,000円
合計 7,376,844円

備考

備考
コロナ禍における緊急事態宣言等により会議開催をオンラインで行う、在宅勤務にしたことで経費の削減となりました。

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-