ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究

文献情報

文献番号
202007025A
報告書区分
総括
研究課題名
ドナーミルクを安定供給できる母乳バンクを整備するための研究
課題番号
20DA1008
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
水野 克己(昭和大学 医学部小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 新藤 潤(東京都立小児総合医療センター)
  • 西巻 滋(横浜市立大学附属病院 臨床研修センター)
  • 田 啓樹(昭和大学 医学部)
  • 櫻井 基一郎(千葉市立海浜病院 新生児科)
  • 和田 友香(佐野 友香)(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科)
  • 宮田 昌史(藤田医科大学 医学部小児科学)
  • 谷 有貴(辻本 有貴)(奈良県立医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
櫻井基一郎は昭和大学江東豊洲病院新生児内科から千葉市立海浜病院新生児科に変更しました

研究報告書(概要版)

研究目的
早産・極低出生体重児や消化管疾患・心疾患があるハイリスク新生児にとって経腸栄養の第一選択は児の母の母乳である。自母乳が得られない場合、または使用できない場合の選択肢として、母乳バンクで安全管理されたドナーミルク(以下「DHM」)がある。わが国でも、令和元年に日本小児科学会より、「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」が出され、安定的なDHMの提供体制の必要性が示された。本研究班では全国のNICUに入院中の早産児に、DHMが必要と判断される場合は、安定的にDHMを提供できる体制を整えることを目的として検討を行った。具体的には、現在稼働してる母乳バンクで今後も安定的にDHMを提供できるのかこれまでのデータから明らかにすること、DHMを必要とする児すべてが利用できるようにするために解決すべき事項を、児の両親・産科医・新生児科医・NICUスタッフへのアンケートを通して明らかにすること、そして、レジストリシステムを導入して、DHMを利用したすべての児の短期予後に関するエビデンスを構築すること、今後の低温殺菌処理方法・DHM保存方法についても新たなエビデンスを構築することである。
研究方法
インフラ整備について:ドナー数、ドナーから提供された母乳量、現在の日本橋母乳バンクで処理している母乳量、全国のNICUから発注された母乳量の推移から、今後、必要とされる低温殺菌処理量を推測する。
より広くDHMを利用できるための対策:実際にDHMを利用した児の両親へのアンケート調査を行う。医療者へのアンケート調査は、1)これまでにDHMを利用したことがある施設対象、2)新生児医療連絡会加盟施設対象、3)日本母乳の会に属する赤ちゃんにやさしい病院(BFH)認定施設対象、4)母乳バンクと年間契約を結んだ東海ネオフォーラム加盟施設対象とした。
結果と考察
月間90ℓの低温殺菌処理を行っている(15%程度は細菌検査結果や破損のため廃棄されるため、提供可能なDHM量は約75ℓ)。一人当たりの平均DHM使用量は平均0.83ℓであった。単純に計算すると1ヵ月に90人の児に提供できる(年間1100人)。NICUに提供したDHM総量は令和2年4月~令和3年3月の1年間で264ℓであった。現状はいつまでDHMを使うかは施設にゆだねており、経腸栄養確立とともにDHMを中止し、母乳が不足する場合は人工乳を使う施設も散見される。今後、NICUにおけるDHM利用の詳細(適応・開始と終了時期など)を海外の取り組みも参考にして決めていく必要があるが、修正33-34週まで母乳の不足分をDHMで補うとなると現在の平均使用量より増加する。2019年は101名、2020年は203名と倍増した。年間7000人弱の極低出生体重児の6人に1人がDHMを利用するとすれば、現在の日本橋母乳バンクだけでは安定供給できなくなる。インフラ整備の必要性以外にも、DHM利用が増えるとともにドナーを安定して確保することが重要であり、ドナー登録施設の教育と確保が欠かせない。DHMを利用した児の家族に対するアンケート調査結果からは、DHMを使うことに前向きであるが、”もっと早く情報を提供してほしい”という要望が見受けられた。社会に対して、母乳バンクについて広く啓蒙する必要がある。
DHM利用に伴う倫理審査・正会員手続きが母乳バンクの利用に踏み切れない一因であるが、根本的な問題として、周産期医療関係者においても母乳バンク自体が周知されていないことがわかった。DHMの利点・注意点、ならびに実際の利用についてわかりやすい資料を作成する必要がある。
DHMを利用することで、合併症(壊死性腸炎/未熟児網膜症/慢性肺疾患/後天性敗血症)の減少、静脈栄養期間の短縮、NICU入院中の体重増加につながるのか、エビデンスの構築を目的としてレジストリを導入し、令和2年末より開始している。
結論
新生児医療連絡会加盟施設へのアンケート調査より、倫理審査や入会費用の問題が解決されれば9割程度のNICUがDHMを利用する可能性があるとわかった。また、一人当たりの利用料も増加することが推測されることからインフラ整備は欠かせない状況にある。令和3年4月に一般財団法人日本財団母乳バンクが設立され、利用量の増加にあわせて新バンクでの処理を増加させる予定である。倫理審査書類を母乳バンク協会のウェブからダウンロードできるようにし、倫理審査の負担を軽減したい。入会費についても静脈栄養期間の短縮、壊死性腸炎罹患率の低下などDPC採用施設においてはトータルではマイナスとならないことをレジストリによりデータを公表することで対応したい。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202007025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,077,202円
人件費・謝金 192,500円
旅費 76,058円
その他 3,854,240円
間接経費 800,000円
合計 10,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-03-30
更新日
-