母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究

文献情報

文献番号
202007022A
報告書区分
総括
研究課題名
母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究
課題番号
20DA1005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
中村 安秀(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の母子健康手帳(以下、母子手帳)は、戦後日本の母子保健水準の向上に大きく寄与したといわれ、近年国際的に高い評価を受けている(Nakamura 2019)。2018年には世界医師会は母子健帳の開発と普及に関する声明を採択し、世界保健機関(WHO)は母子の家庭用記録に関するガイドラインを出版した。
 本研究では、日本の母子手帳に対する研究と同時に、海外に広まった母子手帳をも課題対象とすることにより、母子手帳という日本発の画期的な媒体が果たす役割をグローバルな視点を加味して再評価する。
研究方法
 令和2年度は、「歴史分析」(国内外文献のシステマティック・レビュー)と母子手帳国際ウェビナーを実施した。また、令和3年度に実施する「国内実態調査」(保護者に対する利活用調査、保健医療者へのインタビュー調査)、「海外実態調査」(海外の母子手帳関係者に対するインタビュー調査)、「デジタル分析」(電子アプリ、デジタル母子手帳の実態調査)、「多様性分析」(低出生体重児、障害児など国内外の好事例収集)の準備を行った。
結果と考察
本研究は、グローバルな視点を加味したものであり、新型コロナウイルス感染症による世界的な外出制限や国境遮断の影響を直接に受けた。ウィズ・コロナ時期の研究推進戦略として、①海外出張やフィールド調査は困難、②対面状況を介する質問紙調査やインタビュー調査は困難であったが、③基礎的な先行文献・データ収集は可能、④オンライン会議は世界中の研究者と可能、⑤オンラインを駆使したデジタル調査は可能であるということで、大幅な戦略変更を行った。
オンラインによる研究班全体会議を3回(2020年8月、11月、2021年2月)実施した。「歴史分析班」は、システマティック・レビューの準備を開始し、国内文献(医中誌)の分析を実施した。「デジタル分析班」は有識者に対するヒアリング調査を開始し、「国内実態調査班」は保護者に対する母子手帳の利活用調査の準備にとりかかった。「多様性分析班」では、低出生体重児をもつ家庭に対するリトルベビー・ハンドブックに関する実地情報収集を行った。「海外実態調査班」では、2020年7月に予定されていた「第12回母子手帳国際会議」(オランダ)は延期されたが、2021年2月に「母子手帳国際オンライン会議」を開催した。今後、本研究班と国際母子手帳委員会、アムステルダム大学などと共催で、1年に4回のペースで世界に向けて発信することとなった。
 2020年11月のグローバルヘルス合同大会2020において国際シンポジウム「MCH Handbook program during COVID-19: No one left behind」を実施し、だれひとり取り残されない母子手帳の強みがコロナ時代においても大きな意義を持つことを議論した。
 国内文献のシステマティック・レビューにおいては、母子手帳は日本において、これまで多くの母子、医療関係者、行政関係者、研究者に利用され、有用であることが示された。一方、多胎児や社会的養護児童を養育する際には、個別のニーズに沿った情報や母子手帳が手元にないことで利益が得られないことが課題であった。また、自然災害などで紛失するリスクもあることから、クラウド化・電子化することの必要性も指摘されている。多くの市民が、PHR(パーソナルヘルスレコード)の整備を望んでいることからも、母子手帳の電子化について、今後検討する必要性が示唆された。

結論
 1948年に母子手帳が発行されてから、昭和、平成、令和と3つの時代が過ぎた。いま少子化の時代に、子どもを産み育てようと決意してくれた家庭に届く行政からの最初の贈り物が、母子手帳である。地方分権の時代だからこそ、地域で母子手帳を創ることができる。子どもたちや保護者や行政とともに、地域の実情やニーズに応じた新しい時代にふさわしい母子手帳を創造していくことは、未来を担う子どもたちへの最高の贈りものになるに違いない。

公開日・更新日

公開日
2021-07-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-07-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202007022Z