配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究

文献情報

文献番号
202007007A
報告書区分
総括
研究課題名
配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
苛原 稔(国立大学法人徳島大学 大学院医歯薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 石原 理(埼玉医科大学 医学部 産科婦人科)
  • 高橋 俊文(福島県立医科大学 ふくしま子ども女性医療支援センター)
  • 森岡 久尚(徳島大学 医学部)
  • 竹下 俊行(日本医科大学医学部)
  • 大須賀 穣(国立大学法人東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
26,342,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
晩婚化・晩産化のため体外受精・胚移植やそれに関連する医療技術である生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology, ART)を必要とする男女カップルが増加している。ARTに関する課題として、標準的治療法が定められていないこと、およびART出生児の周産期予後について十分検討されていないことが挙げられる。また、現在ART技術を応用した医療、特に配偶子・胚凍結技術を用いた医療が実施されているが、その取り扱いについては十分整備されていない。さらに、不妊症に比べて流早産を繰り返す不育症についても、情報提供体制のさらなる徹底が求められている。そこで、令和2年度は①我が国における配偶子・胚の管理基準などの検討、②COVID-19パンデミック下の諸国における生殖補助医療の現状調査、③ART登録と周産期登録データベースを用いたART妊娠の周産期予後の検討、④不育診療患者の支援に関する指針の提案、⑤生殖医療ガイドライン作成統括、ガイドライン(CQ)の作成を実施した。
研究方法
① 我が国における配偶子・胚の管理基準などの検討では、専門家からの意見を募るとともに、WEBによる全体会議を合計2回開催した。
② COVID-19パンデミック下の諸国における生殖補助医療の現状調査では、当初予定していた現地訪問調査が不可能な状況のため、インターネット、メール、SNSなどによる情報収集により研究を施行した。
③ ART登録と周産期登録データベースを用いたART妊娠の周産期予後の検討では、日本産科婦人科学会が保有するART登録データベースと周産期登録データベースを用いて検討を行った。
④ 不育診療患者の支援に関する指針の提案では、平成20 ~ 22 年度に、厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」(研究代表者:齋藤滋:富山大学教授)において、「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究班を基にした不育症管理に関する提言」を作成した。
⑤ 生殖医療ガイドライン作成統括、ガイドライン(CQ)の作成では、日本生殖医学会と連携して生殖医療GL作成委員会(本研究者が委員となり運営)を設置・研究遂行した。
 なお、調査にあたっては、必要な倫理面での適切な配慮を行った。
結果と考察
① 我が国における配偶子・胚の管理基準などの検討について、未受精卵子凍結保存の必要性とその適応範囲、および未受精卵子凍結保存について一定の見解を示すことの必要性について議論した。その結果、現時点では悪性腫瘍による妊孕性低下の可能性など、明確な理由がある場合には推奨されるが、妊娠する時期を延期する方法(いわゆる社会適応)としては推奨しないとの立場を明確にすべきとの結論に至った。
② COVID-19パンデミック下の諸国における生殖補助医療の現状については、早期にパンデミックの影響を受けた英国では、NHSの要請を受け、HFEAが、ARTクリニックの一時閉鎖を指示した。また治療の延期などに対応するため凍結期間延長を2年延長する法改正を施行した。WHO、ESHRE、ASRM、IFFSなどはART治療中カップルと医療者双方に対してパンデミックへの対応について具体的指示を行うとともに、ワクチンに対する情報提供を継続した。
③ ART登録と周産期登録データベースを用いたART妊娠の周産期予後の検討については、ART登録は悉皆性の高いデータベースであるが、妊娠後は多くの症例がART治療を受けた施設外で出産するため、分娩に関する情報の記載が不十分であることが判明した。今後は、ART登録データベースへの登録項目も周産期登録データベースの登録症例との連結を見越して改善していくことも重要であると考えられた。
④ 不育診療患者の支援に関する指針の提案については、「不育症管理に関する提言2019」を最新の知見を反映した内容へ修正し「不育症管理に関する提言2021」を作成した。また、「平成24年反復・習慣流産の相談対応マニュアル」を改訂し、「不育症の相談対応マニュアル」を作成した。
⑤ 生殖医療ガイドライン作成統括、ガイドライン(CQ)の作成については、生殖医療GLのための40のCQ設定を行い各CQに対して研究協力者として当該分野の専門家を加え文献・情報を収集し、各CQに対するアンサー(A)の原案作成を完了した。
結論
ARTおよびART技術を応用した医療についての課題が浮き彫りとなった。これらについてさらなる検討が必要と考えられる。一方、今後本事業の成果は、今後各治療を標準化する上で重要な情報になり得ると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202007007B
報告書区分
総合
研究課題名
配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-006
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
苛原 稔(国立大学法人徳島大学 大学院医歯薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 石原 理(埼玉医科大学 医学部 産科婦人科)
  • 齊藤 英和(独立行政法人国立成育医療研究センター 病院 周産期・母性診療センター 不妊診療科)
  • 高橋 俊文(福島県立医科大学 ふくしま子ども女性医療支援センター)
  • 森岡 久尚(徳島大学 医学部)
  • 竹下 俊行(日本医科大学医学部)
  • 大須賀 穣(国立大学法人東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
晩婚化・晩産化のため体外受精・胚移植やそれに関連する医療技術である生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology, ART)を必要とする男女カップルが増加している。本事業では、①我が国における配偶子・胚の管理基準とその取り扱いについて、現在の課題の抽出と今後の目標を策定すること、②諸外国における配偶子・胚凍結の現状調査を通じて、わが国における管理システムを構築するための情報収集を行うこと、③配偶子・胚の凍結保存に関して、ART登録データベースを用いて保存の実態を明らかにし、凍結保存管理を行うART実施施設に内在するリスクについて明らかにすること、④ARTによる妊娠における周産期合併症のリスクを明らかにするため、ART登録データと周産期登録データとの連結解析に関する検討を行うこと、⑤不育診療患者の支援に関する指針の提案、⑥生殖医療ガイドライン作成統括、ガイドライン(CQ)の作成を目的とした。
研究方法
① 生殖医療技術の安全性と情報提供体制についての情報を収集した。また、未受精卵子凍結保存の必要性とその適応範囲、および未受精卵子凍結保存について一定の見解を示すことの必要性について検討した。
② インターネット上の文書や文献検索などに加え、現地訪問調査をおこなった。また、COVID-19パンデミック下の諸国における生殖補助医療の現状調査では、当初予定していた現地訪問調査が不可能な状況のため、インターネット、メール、SNSなどによる情報収集を行なった。
③日本産科婦人科学会のART登録データおよび厚生労働省の実施する医療施設動態調査の概況を用いて、わが国における配偶子・胚胚結数(推定値)の実態把握と、ART実施施設数の増減から見た卵子・胚凍結のリスクに関して検討した。
④ 日本産科婦人科学会が保有するART登録データベースと周産期登録データベースを用いて検討を行った。
⑤ 平成20 ~ 22 年度に、厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究」(研究代表者:齋藤滋:富山大学教授)において、「不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究班を基にした不育症管理に関する提言」を作成した。
⑥ 生殖医療ガイドライン作成統括、ガイドライン(CQ)の作成では、日本生殖医学会と連携して生殖医療GL作成委員会(本研究者が委員となり運営)を設置・研究遂行した。
 なお、調査にあたっては、必要な倫理面での適切な配慮を行った。
結果と考察
①配偶子・胚の凍結保存について、現時点では悪性腫瘍による妊孕性低下の可能性など、明確な理由がある場合には推奨されるが、妊娠する時期を延期する方法(いわゆる社会適応)としては推奨しないとの立場を明確にすべきとの結論に至った。
② ARTの技術的成熟とともに、法整備に加え情報管理保存などに代表される国あるいはそれに準ずる公的管理機関が携わるべき事業内容が増加しており、わが国も緻密な制度設計による制度整備を急ぐべきであることが判明した。COVID-19パンデミックにより、各国の生殖補助医療を利用するカップルは大きな影響を受けたこと、この経験をもとに、緊急時をも想定したARTの管理体制整備を急ぐ必要があることが判明した。
③ 凍結保存胚約100万個のトレーサビリティが不可能である実態が明らかになった。さらに、ART実施施設の廃止または休止が実際起きている事が明らかになり、配偶子・胚の凍結保存に関するリスク管理が重要であることがわかった。
④ ART登録は悉皆性の高いデータベースであるが、妊娠後は多くの症例がART治療を受けた施設外で出産するため、分娩に関する情報の記載が不十分であることがわかった。今後は、ART登録データベースへの登録項目も周産期登録データベースの登録症例との連結を見越して改善していくことも重要であると考えられた。
⑤ 不育診療患者の支援に関する指針の提案:「不育症管理に関する提言2019」を最新の知見を反映した内容へ修正し「不育症管理に関する提言2021」を作成した。また、「平成24年反復・習慣流産の相談対応マニュアル」を改訂し、「不育症の相談対応マニュアル」を作成した。
⑥生殖医療GLのための40のCQ設定を行い各CQに対して研究協力者として当該分野の専門家を加え文献・情報を収集し、各CQに対するアンサー(A)の原案作成を完了した。令和2年度内に生殖医療GL草案を委員会内で査読・校正した。
結論
ARTおよびART技術を応用した医療についての課題が浮き彫りとなった。これらについてさらなる検討が必要と考えられる。一方、今後本事業の成果は、今後各治療を標準化する上で重要な情報になり得ると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202007007C

収支報告書

文献番号
202007007Z