微量栄養素(ビタミン、ミネラル)の安全性評価研究

文献情報

文献番号
199700409A
報告書区分
総括
研究課題名
微量栄養素(ビタミン、ミネラル)の安全性評価研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 脩(お茶の水女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 糸川嘉則(福井県立大学)
  • 美濃真(清恵会病院)
  • 湯川進(和歌山県立医科大学)
  • 岡野登志夫(神戸薬科大学)
  • 大塚恵(お茶の水女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 食品衛生調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、微量栄養素であるビタミンとミネラルについて、その摂取の際に考慮すべき最大安全摂取量を、それぞれのビタミンやミネラルについて設定することを目的としている。というのは、近年、ビタミンやミネラルを添加した食品やいわゆるサプリメントと称される栄養補助食品が多数、しかも様々なタイプのものが市場に登場している。これらの製品は、ビタミンやミネラルの含量の点からいえば、栄養所要量程度のものから医薬品に匹敵する含量のものなど、含量の点から考えても、広い範囲に渡る製品が市販されている。また、ミネラルについては、カルシウム以外には、微量元素を含むものはそれほど多くないのが現状である。しかし、世界的な観点からすれば、これからは、このような微量元素を含む製品も多数市場に登場する可能性が高いといえよう。このような現状に立つと、各種のビタミンとミネラルについて、それらの摂取に際して、それらの安全性限界値を確立することが急務であるといえよう。ところで、ビタミンとしては現在13種類が知られ、その内4つが脂溶性ビタミンで、残りの9つがB群ビタミン8種とビタミンCである。しかし、これらのビタミンの作用機構、代謝、体内動態などについても未だ明確に確立されていないものもあり、それらの摂取に際しての最大安全摂取量を設定するためには、個々のビタミンについての詳細な検討が必要である。また、ミネラルについても同様で、1つ1つのミネラルの動態や作用機構、安全性範囲が異なるために、個々のミネラルについての個別の検討が最大安全摂取量の設定には必要不可欠である。また、ミネラルについては、その安全性評価に際しての適切な測定法が確立されていないものも含まれている。従って、ミネラル、特に微量元素についてはまず、適切な評価法の確立がまず必要であるといえよう。即ち、これまでの研究成果だけに基づいて、全てのビタミンとミネラルについて、それらの最大安全摂取量を確立することには様々な問題点が存在することが分かる。そこで、本年度の本研究においては、まず一部のビタミン、特にビタミンCとEについて、その安全性評価を行い、また、ミネラルについては、微量元素の1つであるマンガンについて、その安全性評価試験法の確立を行い、ヒトにも応用可能な方法の設定を試みた。この結果に基づいて、来年度以降での研究の進展に寄与させようとするものである。なお、ビタミンとミネラルの相互作用に関する問題の1つとして、ビタミンDとカルシウムの問題があり、この点についても検討を加えることとした。
研究方法
本年度の検討対象としては、ビタミンについてはビタミンE、C、Dを、ミネラルについてはマンガンとカルシウムを取り上げた。まず、これらのビタミンについて、過去の研究成果を文献検索し、全ての文献検索の結果により得られた主要な文献の成果及び本研究を分担した研究者の最近の研究成果に基づき、検討を行い、最大安全摂取量の設定が可能なものについて設定することにした。ビタミンCについては、これまでの文献を調査した結果と本年度の研究成果に基づいて、その評価を全分担研究者で討論して行った。ビタミンCについては、投与量とヒト血液中のビタミンC濃度との関係、食事由来の鉄吸収や銅代謝への影響などを始めとする多様な問題点も考慮した。なお、疾病時の問題についても、併記することにした。ビタミンEについては、本研究事業の主任研究者の五十嵐を始めとする多数の研究者のこれまでの研究成果があり、それらの評価を行うと共に、天然に8つあるビタミンE同族体の体内におけ
る動態機構の解明を行った。即ち、肝臓に存在するビタミンEと特異的な結合を行い、転送を司るα-トコフェロール転送蛋白質との結合特異性を検討することで、安全性評価への追加研究を行った。なお、ビタミンDについては、カルシウム摂取への影響についても検討を加えた。ミネラルについては、微量元素の代表としてマンガンを取り上げ、ヒト常用量に相当する量をラットに経静脈的に投与し、その投与量と組織濃度、血液中の細胞濃度との関係などを調べ、ヒトでの実験に適用できる指標の策定、即ち、組織濃度を代表する指標となるものを探すことにした。これにより、過剰投与の指標が確立できるものと考えた。また、ビタミンKについては、文献的に安全性の指標になるデータを検索した。
結果と考察
ビタミンCについては、その吸収、代謝、排泄について、腎臓への影響(特にシュウ酸結石と尿酸結石への影響について)、骨と歯への影響、鉄吸収や銅代謝への影響を主として取り上げ、最大安全摂取量の策定の指標とした。また、細胞毒性などへの影響も検討した。その結果、ヒトの血液中の濃度は、摂取量が1,000mg/日でほぼ最大値に達し、白血球値は100mg/日で飽和に達する。また、体内プールは3g摂取で飽和されるという。また、腎臓結石などへの影響については、尿中のシュウ酸や尿酸濃度との関連から論ずべきであり、これまでの多数の知見について、それらの分析法の問題点などを再検討した結果、1日2g以下であれば、これらの結石の問題は起こらないことが確認された。しかし、腎不全などの患者では、0.5g以下にすべきことも確認された。その他の解析でも、この数値でよいとされた。ビタミンEについては、ビタミンA、D、Kと異なり、従来から高い安全性が確認されている。この差は、従来の研究では明確でなかったが、本年度行った幾つかのビタミンE同族体と肝臓中に存在するα-トコフェロール転送蛋白質との結合特異性から、ビタミンEが肝臓から血液を介して、各臓器に輸送される機構が解明され、各同族体濃度が、何故各組識中で一定値以上に上昇しない理由が分かり、ビタミンEの過剰症が起こりにくい理由が解明され、天然α-トコフェロール最大1日600mgの摂取を最大安全摂取量とした。ビタミンDとカルシウムの同時摂取の影響についても、それぞれ単独に摂取した場合に比べて、効果が高いことが分かり、最大安全摂取量の策定の必要なことが示された。また、マンガンを用いた安全性検討のための指標については、ヒトでは採取できる血液中の細胞として、リンパ球中の濃度が最も組織濃度を反映することが分かり、微量元素の安全摂取量策定のための方策が策定された。次年度以降、この方法で他の微量元素についても、安全性を確認する予定である。なお、ビタミンKについても、文献的に検索を行ったが、従来の研究で安全性指標となるような研究がほとんどないことが明らかにされた。
結論
以上、本年度得られた結果より、ビタミンCについては腎不全の患者を除き、健常者では1日2gが最大安全摂取量とされた。この摂取量で、健常者では腎臓結石などの副作用をもたらさないと判断された。次に、ビタミンEについては、8つの同族体中最も生理活性の高い天然α-トコフェロールで1日600mgが、最大安全摂取量と判断された。この摂取量で組織中の過剰蓄積などを起こさない生理的な理由も解明された。また、ビタミンDの最大安全摂取量については、カルシウムの摂取と一緒に判断する必要があることが確認された。なお、微量元素の最大安全摂取量を決めるために行うヒトでの実験において、その判断材料となる組織濃度を代表する指標として、リンパ球中の濃度が最適であることが、マンガンを用いた研究で明らかにされた。

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