妊娠初期の感染性疾患スクリーニングが母子の長期健康保持増進に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
202007006A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠初期の感染性疾患スクリーニングが母子の長期健康保持増進に及ぼす影響に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科生殖生育病態医学)
研究分担者(所属機関)
  • 山中 竹春(横浜市立大学 大学院医学研究科 臨床統計学)
  • 稲森 正彦(横浜市立大学 医学群健康社会医学ユニット)
  • 梁 明秀(横浜市立大学 大学院医学研究科 微生物学)
  • 倉澤 健太郎(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 青木 茂(横浜市立大学 附属市民総合医療センター総合周産期母子医療センター)
  • 榎本 隆之(新潟大学 医歯学系(産科婦人科学))
  • 光田 信明(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪母子医療センター)
  • 池田 智明(国立大学法人三重大学 大学院医学系研究科生命医科学専攻・病態解明医学講座・生殖病態生理学分野)
  • 田畑 務(東京女子医科大学 医学部)
  • 石岡 伸一(札幌医科大学 産科周産期科)
  • 上田 豊(大阪大学 大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
9,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子化と妊婦の高齢化が進む中、母子の健康保持・増進を目的とした妊婦健康診査(以下妊婦健診)の公的支援項目について実施主体の地方自治体による結果把握や介入の必要性を明らかにするとともに、現状の課題を明らかにする。2021年度は妊婦健診結果の感染性疾患スクリーニング陽性率を明らかにし、スクリーニングを行うことの必要性・重要性の告知を行う。
研究方法
①妊婦コホート研究:母子の健康への影響が大きい感染性疾患の妊娠初期のスクリーニング結果判明後の疾患予防や健康管理状況と効果を明らかにするための妊婦コホート研究を実施し、初回アンケートの妊婦アンケートと完結し医師からの調査票との統合解析を行った。②妊婦健診における感染性疾患スクリーニングの課題に関する新規研究:過去に自治体に対して行った対面調査を行ったが、今年度はCOVID-19の影響でフィールドワークが不可能であったため、風疹抗体価が16倍未満の妊婦が多いことに着目した解析と子宮頸がん検診の結果と採取器具に関する後方視的観察研究、10代の妊娠と感染症についての解析などを行った。③研究班ホームページ開設:妊娠と感染性疾患に関する啓発を目的とするHPを開設しコンテンツを拡充した。
結果と考察
①妊婦コホート研究:アンケート調査を実施した3,020人の回答(異常と言われたとの設問)と4,357人の医師からの調査票を比較した。妊婦が自覚しているB型肝炎陽性率は1%・医師調査票では0.6%であった。C型肝炎は妊婦が0.4%・医師が0.2%であり肝炎についての大きな差異はなかった。一方風疹は、妊婦が4.7%に対し医師では29.8%でほとんどの異常は抗体価16倍未満であった。妊婦は自分の風疹抗体価の低いことの問題を認知していない頻度が高い可能性がある。梅毒は妊婦0.6%・医師0.3%、HTLV-1 は妊婦・医師とも0.3%、子宮頸がん(ASC-US)以上の陽性者は、妊婦が5.0%・医師が3.0%であった。この調査にて、風疹抗体価が低い妊婦が多い、妊娠を契機に梅毒感染発見が一定数いること、子宮頸部前がん病変が妊娠中に数多く発見されることなどが判明した。また母の疾患が児の健康に影響を及ぼす可能性についての回答で、B型肝炎32%、C型肝炎27%、梅毒36%、HTLV-127% と認識の低さも浮き彫りになった。②妊婦健診における感染性疾患スクリーニングの課題に関する新規研究:風疹については、パートナーのワクチン接種なしあるいは不明が50%を超えることが判明した。妊婦3,346例の子宮頸がん検診についての小田原市立病院における後方視的研究では、妊婦健診を契機に頸がん検診を受けた妊婦が8割に上っていた。細胞診異常は96例(2.8%)に認められた。細胞診異常の詳細は、ASC-USが44例(1.2%)、ASC-Hが12例(0.4%)、LSILが19例(0.6%)、HSILが20例(0.6%)、SCCが1例(0.03%)であった。さらに、細胞採取器具による病変検出差異を明らかにするために、2019年の妊婦子宮頸がん検診経過の大規模調査研究を実施中である。日本産科婦人科学会周産期データベースに登録された2013年~2015年に分娩した646,152人の妊婦を対象に解析を行ったところ、TORCH感染症は、2013年から増加傾向、10代妊娠においては、BMIが低い傾向、喫煙率とTORCH感染症の罹患割合が有意に高いことが示された。③研究班ホームページ開設:研究班のホームページを開設し、市民向けに妊婦健診における感染性疾患のスクリーニングの重要性を告知した。上記6つの感染性疾患に加えて、トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、B群溶連菌GBS、妊婦の関心が高い新型コロナウイルス感染症についても解説した。
結論
妊婦健診で行われているには母児の双方の健康増進についての重要な検査が包括されており、一定の陽性者が発見されることで検査陽性後の対策の重要性が確認された。今回、ウイルス性肝炎患者等の重症化予防推進事業の実施について」の一部改正(健肝発0327第3号 令和2年3月27日)により、肝炎患者等の重症化予防推進事業に妊婦健診で発見された患者も適応とすることが広く周知され本年度実施されたことは、自治体ヒアリングで判明した自治体の取り組みなどから派生した重要な施策となった。また、妊婦健診における感染性疾患スクリーニングの意義とその後の健康管理の重要性を一般市民に告知する役割を果たしていくためのプラットホームとしてホームページを充実させた。今後は、妊婦初回アンケート回答者の出産から約1年半経過した時点での感染予防行動などの結果を明らかにすることで、妊婦健診の意義と課題をさらに追及していく。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
2021-10-14

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202007006B
報告書区分
総合
研究課題名
妊娠初期の感染性疾患スクリーニングが母子の長期健康保持増進に及ぼす影響に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-005
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科生殖生育病態医学)
研究分担者(所属機関)
  • 山中 竹春(横浜市立大学 大学院医学研究科 臨床統計学)
  • 稲森 正彦(横浜市立大学 医学群健康社会医学ユニット)
  • 梁 明秀(横浜市立大学 大学院医学研究科 微生物学)
  • 倉澤 健太郎(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 青木 茂(横浜市立大学附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター)
  • 榎本 隆之(新潟大学 医歯学系(産科婦人科学))
  • 光田 信明(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪母子医療センター)
  • 池田 智明(国立大学法人三重大学 大学院医学系研究科生命医科学専攻・病態解明医学講座・生殖病態生理学分野)
  • 田畑 務(東京女子医科大学 医学部)
  • 石岡 伸一(札幌医科大学 産科周産期科)
  • 上田 豊(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子化と妊婦の高齢化が進む中、母子の健康保持・増進を目的とした妊婦健康診査(以下妊婦健診)の公的支援項目について、実施主体の地方自治体による結果把握や介入の必要性を明らかにするとともに、現状の課題を明らかにする。また、その結果を施策提言するとともに、一般市民に妊婦感染性疾患のスクリーニングを行うことの必要性・重要性の告知を行い、意識を高めることが本研究の目的である。
研究方法
①妊婦コホート研究:母子の健康への影響が大きい感染性疾患として、妊娠初期のスクリーニング結果判明後の疾患予防や健康管理状況と効果を明らかにするための妊婦コホート研究を実施し、初回妊婦アンケートを完結し、医師からの調査票との統合解析を行なった。出産後の調査は今後も継続した。②妊婦健診結果データベース化自治体の検討:感染性疾患スクリーニング結果のデータベース化について、対面調査を行ない積極的に取り組んでいる自治体を明らかにしその効果を検証した。妊婦の認識と医師調査の齟齬についても検討した。③異常指摘頻度が高い項目や付随する課題の抽出:風疹抗体価と子宮頸がん検診などについて、詳細な解析を行った。④研究班ホームページ開設:妊娠と関連する感染性疾患に関する啓発を目的とするHPを解説しコンテンツを充実した。
結果と考察
①妊婦コホート研究:アンケート調査を実施した3,020人の回答(異常と言われたかについての設問)と4,357人の医師からの調査票を比較し、肝炎については大きな差異はなかったが、風疹については、妊婦が4.7%に対して医師では29.8%で、ほとんどの異常は抗体価16倍未満であった。この乖離は妊婦が風疹抗体価低値を意識していないことによる可能性がある。B型肝炎・C型肝炎・梅毒・HTLV-1の医師調査での陽性率は、0.6%・0.2%・0.2%・0.3%、子宮頸がん(ASC-US)以上の陽性者は3.0%であった。ベースライン調査にて、風疹抗体価が低い妊婦が多いこと、妊娠を契機にウイルス性肝炎や梅毒感染が発見される妊婦が一定数いること、HPV感染による子宮頸部前がん病変が妊娠中に数多く発見される(3%)ことなどが判明した。また、母の各々の疾患が児の健康に影響を及ぼす可能性についての認識は低く、リスクを認識している妊婦は4割以下であった。②妊婦健診結果データベース化自治体の検討:11自治体の担当者の対面調査を行ったところ、複数の地方自治体が実際にデータベース化を行っていた。複数の自治体では児の健診時にそのデータを活用していたが、都市部では利用が困難であることが判明した。自治体が行う特定健診などの肝炎検査以外に、妊婦健診で発見されたケースに積極的に補助金を出している自治体があることが判明し、この取り組みが2020年に全国に広がることとなった。③妊婦健診における感染性疾患スクリーニングの課題に関する新規研究:妊婦が風疹抗体価の低いことの問題を認知していない頻度が高い可能性があり、パートナーのワクチン接種なしあるいは不明が50%を超えることは、有効な啓発の必要性を示唆する。妊婦の3,346例の子宮頸がん検診について、小田原市立病院における後方視的研究で、妊婦健診の細胞診異常は96例(2.8%)で、全国調査と一致していた。さらに、細胞採取器具により差異を明らかにするために、2019年の妊婦子宮頸がん検診経過の大規模調査研究を実施中である。また、日本産科婦人科学会周産期データベースに登録された2013年~2015年に分娩した646,152人の妊婦を対象とした解析では、児の健康に影響を及ぼす可能性のある感染症が、2013年から全体に増加傾向であり、10代妊娠においてはBMIが低い傾向、喫煙率とTORCH感染症の罹患割合が有意に高いことが示された。④研究班ホームページ:研究班のホームページを開設し、国民に向けての妊婦健診における感染性疾患のスクリーニングの重要性について、上記6つの感染性疾患に加えて、トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、B群溶連菌GBS、関心が高い新型コロナウイルス感染症についても情報を提供した。
結論
妊婦健診で行われているには母児の両者の健康増進についての重要な検査が包括されており、一定の陽性者が発見されることで検査陽性後の対策の重要性が確認された。また、妊婦健診における感染性疾患スクリーニングの意義について妊婦の意識が低いことが明らかになり、その後の健康管理の重要性を一般市民に告知する役割を果たしていくためのプラットホームとなるホームページを構築した。今後、妊婦初回アンケート回答者の出産から約1年半経過した時点での感染予防行動などの結果を解析し、妊婦健診の意義を明らかにするとともに、課題を抽出し解決策を提言していきたい。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-10-14
更新日
2024-03-25

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202007006C

収支報告書

文献番号
202007006Z