社会的ハイリスク妊婦の把握と切れ目のない支援のための保健・医療連携システム構築に関する研究

文献情報

文献番号
202007004A
報告書区分
総括
研究課題名
社会的ハイリスク妊婦の把握と切れ目のない支援のための保健・医療連携システム構築に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
光田 信明(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪母子医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 武男(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学)
  • 菅原 準一(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 片岡 弥恵子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
  • 中井 章人(日本医科大学 医学部)
  • 荻田 和秀(りんくう総合医療センター)
  • 前田 和寿(国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター 総合周産期母子医療センター)
  • 佐藤 昌司(大分県立病院総合周産期母子医療センター)
  • 倉澤 健太郎(横浜市立大学産婦人科)
  • 佐藤 拓代(公益社団法人母子保健推進会議)
  • 中村 友彦(地方独立行政法人長野県立病院機構長野県立こども病院)
  • 清野 仁美(兵庫医科大学 精神科神経科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,483,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会的ハイリスク妊娠と児童虐待の強い関連性(因果関係)を実証的に明らかにすることを目的とした。医療・保健・福祉が連携するためには「共通言語」が必要となる。この研究によって全国の関連機関において適応可能な社会的ハイリスク妊娠の定義およびアセスメントシートの作成、医療・保健・福祉による切れ目のない連携支援体制の構築を目指した。
研究方法
研究Ⅰ: 社会的ハイリスク妊娠と子育て困難の関連性を効果検証する前方視的研究
産科医療機関(4府県)調査を実施。
研究Ⅱ: 産後うつおよび児の虐待に関与する妊娠期の社会的リスクの抽出
妊娠出産情報アプリ「Babyプラス」においてインターネット調査を実施。
研究Ⅰ・Ⅱから妊娠中の問診項目および産後1か月健診時に産後うつや虐待に関するアンケートより産後うつもしくはボンディング障害に関しての関連を検討し、産後うつもしくはボンディング障害を抽出するためのSocial Life Impact for Mother (SLIM)スコアを作成。
研究Ⅲ:「社会的ハイリスク妊婦の支援と連携に関する手引書」の作成
社会的ハイリスク妊娠の妊娠中管理ならびに関係機関との連携構築の指針となる「社会的ハイリスク妊婦の支援と連携に関する手引書」を作成する。
研究Ⅳ: 社会的ハイリスク妊産婦に対するメンタルヘルスケアと連携ネットワークに関する調査
大阪府すべての分娩取扱施設、精神科医療機関に対し郵送にてアンケート調査を実施。
研究Ⅴ:シリアスゲームによる社会的ハイリスクリスク妊婦支援における多職種連携の促進
光田班から全国の周産期施設に配布する「社会的ハイリスク妊婦支援の手引書」の内容をゲーム形式で学習可能にする。
結果と考察
研究Ⅰ:大阪府、宮城県、香川県、大分県で5,772名(追跡率:73.0%)であった。産後うつは471名(8.2%)、ボンディング障害は428名(7.4%)で、いずれかを有する社会的ハイリスク妊産婦は744名(12.9%)であった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、妊娠が分かった時の気持ち、精神疾患の既往、発達障害傾向、経済状況、生活環境の安定性、社会的サポート、被虐歴、夫婦(パートナー)関係で有意な関連が認められた。さらにオッズ比による重み付けを行ったところ、AUC=0.63で社会的ハイリスク妊産婦を予測するモデルを構築することができた。この尺度をSocial Impact for Mother (SLIM) スコアとし、SLIMスコアを低群(5点以下, 88.5%)、中群(6-9点, 9.0%)、高群(10点以上, 2.6%)とし、社会的ハイリスク群に関するオッズ比を算出すると、中群で2.89 (95%信頼区間:2.32-3.59)、高群で5.61 (95%信頼区間:3.99-7.88)であり、有意に予測することが確認された。
研究Ⅱ: 産前アンケートの解答者:11,287人、産後アンケートの回答者: 580人(同時点で出産後の人数1772人、アンケート回収33%)データ不備19人除き、561人で検討。現時点の結果で、産後うつ24%、ボンディング障17%であった。SLIMスコア5点以下をReferenceとした場合、SLIM中群(6〜9点)Odds比4.20 (2.69 – 6.56)、SLIM高群 (10点以上) Odds比4.93 (2.81 – 8.64)であった。
研究Ⅲ: 産婦人科医師、小児科医師、精神科医師、医療ソーシャルワーカー、地域保健師、助産師、看護師、児童福祉司などさまざまな職種の専門家(17名)に執筆を依頼した。全体は7章92ページから構成されている。
研究Ⅳ: 横断的調査では大阪府下の精神科医療機関66施設、分娩取扱施設53施設の施設代表者から有効な回答を得た(回収率22.6%)。精神科医療機関の妊婦・授乳婦の診療体制に関する横断的調査より、迅速な診療受け入れを望む分娩取扱施設側のニーズとのずれが浮かび上がった。
研究Ⅴ: 光田班による“社会的ハイリスク妊娠(SHP)支援の手引き書”を基にしたIT動画を作成した。“妊健を通じた適切な妊産婦支援の方法についての提言”をベースとし、さらに広範囲の知見を盛り込み、ストーリーのあるIT動画を通して、多機関・多職種連携を追体験してもらい、ハイリスク妊婦の支援に必要な知識を習得する一助としたい。
結論
社会的ハイリスク妊娠把握のためのツールとして前方視的研究に基づいたSLIMスコアを開発した。社会的ハイリスク妊娠に関わる多機関・多職種連携のために、手引書・IT動画を作成した。これらを利活用することによってメンタルヘルス不調、子育て困難等の母児にさらなる支援を届けることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202007004B
報告書区分
総合
研究課題名
社会的ハイリスク妊婦の把握と切れ目のない支援のための保健・医療連携システム構築に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-003
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
光田 信明(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪母子医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 武男(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学)
  • 菅原 準一(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 片岡 弥恵子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
  • 中井 章人(日本医科大学 医学部)
  • 荻田 和秀(りんくう総合医療センター)
  • 前田 和寿(国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター 総合周産期母子医療センター)
  • 佐藤 昌司(大分県立病院総合周産期母子医療センター)
  • 倉澤 健太郎(横浜市立大学産婦人科)
  • 佐藤 拓代(公益社団法人母子保健推進会議)
  • 中村 友彦(地方独立行政法人長野県立病院機構長野県立こども病院)
  • 清野 仁美(兵庫医科大学 精神科神経科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会的ハイリスク妊娠と児童虐待の強い関連性(因果関係)を実証的に明らかにすることを目的とした。医療・保健・福祉が連携するためには「共通言語」が必要となる。この研究によって全国の関連機関において適応可能な社会的ハイリスク妊娠の定義およびアセスメントシートの作成、医療・保健・福祉による切れ目のない連携支援体制の構築を目指した。
研究方法
1)社会的ハイリスク妊娠(SHP:Social High risk   
Pregnancy)の定義の作成
2)SHPの妊娠中管理ならびに関係機関との連携構築指針の作成
①『社会的ハイリスク妊娠 手引書』の作成
②シリアスゲームによるSHP支援におけるIT動画作成
3)SHPと子育て困難の関連性を効果検証する前方視的研究
①SHPと子育て困難の関連性を都道府県単位で効果検証する前方視的研究
②「産後うつおよび児の虐待に関与する妊娠期の社会的リスクの抽出」(インターネット調査)を実施
①②よりSHPを把握するためのリスクスコア(Social Life Impact for Mother(SLIM)スコアの開発
4)子育て世代包括支援センターとの連携のあり方を検討
〔実態調査〕
・全国の産科施設におけるSHPへの支援体制に関する調査
・特定妊婦支援の状況(A市)
・妊娠届出時アセスメント結果と出生児の虐待状況における妊娠期から3歳6か月児健康診査までの追跡調査(B市)
・本邦の母子保健事業の現状調査
5)メンタルヘルス(MH)問題
①周産期センター通院児童の養育者のMH問題の調査
②SHPに対するMHケアと連携ネットワークに関する調査
結果と考察
SHPの定義として『さまざまな要因により、今後の子育てが困難であろうと思われる妊娠』を提唱した。
手引書は産婦人科医師はじめ多職種の専門家17名に執筆を依頼した。また手引書をもとにIT動画を作成した。
SHPを把握するためのリスクスコアを前方視的データに基づき策定した(8項目)。SLIMスコアが有用な尺度であることが示された。インターネット調査より母体年齢が項目として追加され、当面9項目からなるSLIMスコアを提唱した。
市区町村から産科施設へのフィードバックについて妊娠中、分娩入院中はタイムリーに連携できていないことが示唆された。
平成24年度からA市における特定妊婦は年々と急増していた。出生児の内訳は要保護:23.5%、要支援:64.3%、問題なし:12.2%であった。平成29年度に出生した53人の転帰を見ると、終結:26.4%、要支援継続:41.5%、要保護継続:15.1%、要支援⇒要保護:17.0%であった。
B市の妊娠中のSHPアセスメントと育児状況を調査した。内訳は、特定妊婦:1.9%、ハイリスク妊娠:19.7%、ローリスク妊娠:64.4%であった。特定妊婦は3歳半時において、転出:20.7%、終結:34.5%、要支援・保護:44.8%であった。ハイリスク、ローリスク妊娠は3歳半時までに7.3%、1.2%が要支援・保護児童として登録された。
ほとんどの市区町村が妊娠届時に質問票・問診票・アセスメントシートを用いており、9割が面談を行っていた。特定妊婦の頻度は平均2.4%であったが、特定妊婦疑いや台帳記載後の他機関への連絡は約半数にしか行われていなかった。各事業(子ども家庭総合支援拠点、家庭児童相談室、産婦健診、産前・産後ケア)については、約半数の市町村しか設置・実施されていなかった。
MHに問題がある妊婦が増加していると感じている施設は169/191であり、MHに問題のある妊産婦のかかわりに困難を感じている施設は193/194に上った。また、回答者は経験年数の長い医師が多く、30%の回答者がキャリアの中で妊産婦の自殺を経験しており、周産期MHの悪化、深刻度の高まりが伺われた。地域の助産師が参加している施設は 15%、地域の精神科医が7%に止まっていた。
妊産婦が精神科医療機関にて継続診療を受けている割合はおよそ2.5%であった。その背景には、軽症例については分娩取扱施設の助産師、母子保健の保健師らによりサポートを受けている可能性と、重症例で精神科医療が必要であるにもかかわらず診療連携できていない可能性が考えられた。精神科医療機関側の受け入れを阻む要因は、妊産婦が精神症状悪化時の入院の受け入れ先がない、妊婦・授乳婦に対する薬物療法への懸念が多かった。総合病院精神科への受診の集中もみられ、診療までのタイムラグがみられた。
結論
我々の研究班から得られた成果を利活用すれば、より有用な母児支援を包含した母子保健事業遂行に寄与できることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-07-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202007004C

収支報告書

文献番号
202007004Z