コロナ禍における骨髄移植の補完を目的とした臍帯血バンクにおける保存臍帯血の質の向上と提供数増加に向けた研究

文献情報

文献番号
202006080A
報告書区分
総括
研究課題名
コロナ禍における骨髄移植の補完を目的とした臍帯血バンクにおける保存臍帯血の質の向上と提供数増加に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2086
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 剛二(一般社団法人 中部さい帯血バンク)
研究分担者(所属機関)
  • 森島 泰雄(中部さい帯血バンク)
  • 松本 加代子(中部さい帯血バンク)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,789,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液疾患等の患者に移植するための臍帯血は国内の6か所の臍帯血バンクから提供されており、その累積移植件数は20000件を超し、最近の年間移植件数では非血縁者間骨髄移植(末梢血幹細胞移植を含む)のそれを凌駕している。2020年は新型コロナウイルスの流行によってドナーからの移植細胞採取が困難となり2020年前半特に4月は中部さい帯血バンクへの月間の申込件数は通常の2.5倍に増加したため、その申込の内容を検討する必要があると考えられた。さらに臍帯血移植の需要が増大しているため、臍帯血ユニットの細胞数等が移植成績に及ぼす影響の解明も重要な課題である。また臍帯血の供給体制維持のため遠隔地からの臍帯血を運搬の効率化も重要な課題である。このような状況においても業務を安全にかつ効率的に遂行するためにはバンク内の連絡および13の採取病院への情報伝達と教育研修のレベルを維持し、感染防止の観点からもリモートでの情報伝達システムを構築することが必須である。
本研究は上述の課題について検討することによってコロナ禍において減少した非血縁者間骨髄移植を補完し、国内の非血縁者間移植件数維持のために良質な臍帯血の公開数を増加させ、臍帯血の供給と移植が円滑に行われる体制を構築するための方策を検討することを目的とした。
研究方法
1.バックアップ臍帯血の詳細に関しては2020年1年間の臍帯血申込理由を通常の申し込みやバックアップ等の4種に分類し、その件数と最終的転帰を調査した。2.臍帯血ユニットと移植成績の解析では1997年~2018年に中部さい帯血バンクを介して臍帯血移植が実施された1454症例につき、生存率、生着不全の有無をHLA適合度、有核細胞数/kg, CD34細胞数/kg、コロニー形成細胞数/kg等を変数として解析した。3.調製開始細胞数基準の見直しについては2020年に中部さい帯血バンクに到着し、受入基準を満たした臍帯血1,782本につき有核細胞数(NC)とCD34陽性細胞数とを測定して行った。4.遠隔地からの臍帯血運搬については石川県小松市の採取施設からの運搬につき献血運搬便の夜便と朝便を利用することによる、搬送費用と効率につき検討した。5.リモートワークの確立に関しては全採取施設に連絡用パソコンを配備し、メール交換およびZOOMによる情報交換および教育訓練の妥当性を検討した。
結果と考察
1.昨年の4月は緊急事態宣言の発令によって骨髄移植が困難となったため通常月の約2.5倍の94件の臍帯血申込があり、移植件数も増加したが取消件数も多く、年間では639件の申込の中で28件が骨髄から臍帯血に変更されたと推測された。この結果より部分的ではあるが臍帯血が骨髄移植の減少を補完して国内の造血細胞移植件数が維持されていると考えられた。2.臍帯血ユニットの細胞数と移植成績の解析では有核細胞数やHLAよりもCD34陽性細胞数やコロニー数が有意に生存率および生着率に影響していることが判明した。このため臍帯血の選択にはCD34陽性細胞数を重視すること、および調整保存においてもCD34陽性細胞数の多い臍帯血の保存が重要と考えられた。3.またこの結果より臍帯血の調製開始基準はCD34陽性細胞数3.0x106以上とし、有核細胞数は11.4x108に引き下げても年間の目標とする保存件数は維持されることが判明した。4.遠隔地からの臍帯血運搬は長距離にも関わらず効率的な運用が可能であった。5.臍帯血バンクと採取施設とのリモートワークはパソコンの配備によって順調に機能することが確認できた。
結論
コロナ禍によって骨髄移植ドナーから骨髄採取が困難になったが臍帯血移植の申込が増加し、その後に申込の取消もあったが一部は臍帯血移植が実施され、骨髄移植件数の減少を部分的ではあるが補完できたと考えられ、臍帯血の利点が緊急時の対応に生かされたと考えられる。またその臍帯血を選択するにあたり、従来の有核細胞数やHLA適合度ではなく、CD34陽性細胞数やコロニー数が重要であると判明したのは移植の選択およびバンクでの調製保存作業にも方向性を与えるものであった。さらにそのCD34陽性細胞数を臍帯血バンクでの調製開始基準にした場合、有核細胞数を減じても保存件数が減じることがないと判明したことは患者側の視点からも福音であると考えられる。また遠隔地からの効率的な臍帯血運搬やリモートワークの確立によってバンクとの物理的距離が臍帯血バンク運営の大きな障壁ではなくなりつつあることも本研究で明らかになったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2021-08-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-08-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006080C

成果

専門的・学術的観点からの成果
臍帯血移植後の好中球生着に及ぼす有意な因子としてはCD34陽性細胞数/kgが検出され、生着に関するCD34陽性細胞数/kgと総細胞数/kgのROC曲線の比較ではProb>chi2 = 0.009とCD34陽性細胞数/kgの方が有意に生着と関連しており、有核細胞数は有意な因子ではなかった。またCFU-GM数/kgも生着に係る有意な因子として検出されたがHLA適合度は影響を与えなかった。
臨床的観点からの成果
コロナ禍において骨髄移植の実施が困難になり臍帯血移植の申込が急増して臍帯血移植が増加したが結果的に骨髄移植の減少分を補完したと考えられた。また臍帯血のCD34陽性細胞数の多い臍帯血を保存することで高体重の患者への移植の可能性を拡げた。また遠隔地からの臍帯血運搬を効率よく実施し、臍帯血保存件数の増加と運搬コストの低下を両立させた。さらにリモートワークが可能となるよう全臍帯血採取施設にパソコンを配備し教育訓練等を行った。
ガイドライン等の開発
ガイドラインの開発は実施しなかったが臍帯血バンク部内での臍帯血調製開始基準として有核細胞数は^8個以上、CD34陽性細胞数は3x10^6個以上と定めた。
その他行政的観点からの成果
臍帯血移植は骨髄移植と異なり、ドナーに負担をかけることなく造血幹細胞を採取できるためコロナ禍のような非常事態においても対応可能な移植細胞源であり、国策としての造血細胞移植件数が減ずることなく平年通りの件数が維持されたと考えられる。
その他のインパクト
以下のメディアで中部さい帯血バンクの活動が紹介された。
2021年3月18日および19日にNHKで放送
同4月27日中日新聞に掲載
同5月25日中部日本放送で放送

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
2023-06-06

収支報告書

文献番号
202006080Z