新型コロナウイルス感染症流行時に移植実施施設において脳死下・心停止下臓器移植医療を維持推進するための調査研究

文献情報

文献番号
202006064A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症流行時に移植実施施設において脳死下・心停止下臓器移植医療を維持推進するための調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2067
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 泰平(藤田医科大学 医学部 移植・再生医学)
研究分担者(所属機関)
  • 蔵満 薫(国立大学法人神戸大学 医学部附属病院)
  • 木下 修(東京大学 医学部附属病院)
  • 太田 充彦(藤田医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 曽山 明彦(長崎大学大学院 医歯薬総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下の現状は移植医療に大きな影響を及ぼしている。移植実施施設は脳死下・心停止後臓器提供においては、摘出チームを派遣し、摘出手術ならびに臓器搬送を行う。今般のコロナ禍においては、提供施設の所在地により、移植実施施設からの摘出チームの派遣禁止や、感染拡大地域からの大人数に及ぶ摘出チームの入室制限や受け入れそのものが禁止される事例も発生しており、いずれも患者の不利益に直結する事態を招いている。
臓器の移植に関する法律に規定された臓器移植医療を維持推進することを目的に、本研究では脳死下・心停止後臓器移植実施施設に対し現状調査を行った上で、摘出手術のための移動人員最小化等必要な対策について検討する。
1. 臓器移植実施施設への現状調査:脳死下・心停止後臓器移植を実施している206施設(心臓11、肺 10、肝臓25、膵臓18、小腸12、腎臓130)に対し、COVID-19禍における移植実施状況や移植待機患者のフォローアップ状況についてアンケート調査を行い、移植を断念した要因や移植を安全に実施するために行った院内体制再構築の現状について解析する。
2. 互助制度確立のための実装研究:現状調査によって明らかとなった対策を実現するために必要とされる臓器摘出体制および搬送システムの可能性を検討し、提言する。
研究方法
2020年12月から1月にかけて、移植実施206施設(心:11,肺:10、肝:25、腎:130、膵:18、小腸:12)にCOVID-19禍に関するアンケート調査を行った。アンケートは外部委託しWebで行った。
結果と考察
アンケートは177施設から回答が得られ、回答率は85.9%と高いものであった。脳死臓器提供件数は2019年が過去最多の98件であったのに対して、2020年は68件(前年比69%)であった。一方心停止下臓器提供は近年年間30件程度で推移しており、2019年が28件であったのに対し、2020年は9件(前年比32%)と著明に減少していた。85施設(48%)で一時的に移植医療の提供を中止していた。胸部臓器移植では移植プログラムを中止した施設は無かったのに対し、肝移植では1施設(4%)、腎移植では80施設(78%)、膵移植では4施設(22%)と腹部臓器移植プログラムが一時中止されていた。停止した移植手術として、56施設(31%)が脳死下心停止後移植および生体移植の全てを中止、25施設(14%)が生体移植のみ、1施設(1%)が脳死下心停止後移植のみを中止していた。アンケート実施時点で、移植プログラムを未だ中止している施設は7施設(4%)であり、それらは全て腎移植であった。アンケート実施時点で移植プログラムを継続している施設の内、112施設(63%)が特に制限なく移植医療を行っているのが、34施設(19%)は医学的理由により延期が難しいと判断される症例のみに移植を実施していることが明らかとなった。また、今後のCOVID-19感染の拡大が見られた際には、その後は制限なく移植医療を提供すると回答したのは30施設(17%)に過ぎず、66施設(37%)はCOVID-19感染患者のICU入室もしくは入院状況によって移植プログラムの中止を検討すると回答した。一方で、COVID-19禍での臓器摘出の際に他施設の臓器摘出に対して何かしらの互助をしたことがあると言う施設は54施設(30%)であった。
結論
COVID-19禍により、本邦の脳死下・心停止下臓器移植が大きく影響を受けて、件数が減少している現状が明らかとなった。今後の移植医療の継続性を効果的に実施するため、摘出機材の貸し出しシミュレーションの研究を継続して行っている。

公開日・更新日

公開日
2021-08-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006064C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2020年12月から1月にかけて、移植実施206施設(心:11,肺:10、肝:25、腎:130、膵:18、小腸:12)にCOVID-19禍に関するアンケート調査を行った(回答率:85.9%)。2020年の脳死下臓器提供件数は68件(前年比69%)、心停止下臓器提供件数は9件(前年比32%)と著明に減少していた。本調査の結果から、COVID-19禍により脳死下・心停止後臓器移植が大きく影響を受けている現状が明らかとなった。
臨床的観点からの成果
COVID-19禍により、本邦の脳死下・心停止下臓器移植が大きく影響を受けて、件数が減少している現状が明らかとなった。今後の移植医療の継続性を効果的に実施するため、摘出機材の貸出シミュレーションを実施、貸出した10臓器摘出において問題なく移植手術を行うことができた。本シミュレーションで行った摘出機材貸出の実装化によって、摘出医のより負担の少ない、移植医療の継続の可能性が示された。
ガイドライン等の開発
現在のところ、特になし。
その他行政的観点からの成果
現在のところ、特になし。
その他のインパクト
以下の論文が掲載された。
National survey on deceased donor organ transplantation during the COVID-19 pandemic in Japan. Surgery Today.2021
COVID-19 感染流行期における理想的な臓器摘出を創出するためのアンケート調査の結果―厚生労働科学特別研究事業による調査研究. 移植.2021

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Taihei Ito, Takashi Kenmochi, Atsuhiko Ota, et al.
National survey on deceased donor organ transplantation during the COVID-19 pandemic in Japan
Surgery Today , 52 (5) , 763-773  (2022)
doi: 10.1007/s00595-021-02388-1
原著論文2
伊藤 泰平, 剣持 敬, 太田 充彦,他
COVID-19感染流行期における理想的な臓器摘出を創出するためのアンケート調査の結果 厚生労働科学特別研究事業による調査研究
移植 , 56 (4) , 405-412  (2022)
DOI:10.11386/jst.56.4_405
原著論文3
伊藤 泰平, 剣持 敬, 太田 充彦,他
COVID-19感染流行期における摘出医の負担軽減を目指した臓器摘出機材貸出シミュレーション
移植 , 57 (2) , 169-175  (2022)
DOI:10.11386/jst.57.2_169

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
2025-05-23

収支報告書

文献番号
202006064Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,304,000円
(2)補助金確定額
2,000,216円
差引額 [(1)-(2)]
303,784円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 645,850円
人件費・謝金 0円
旅費 57,427円
その他 912,939円
間接経費 384,000円
合計 2,000,216円

備考

備考
以下の2つの理由により、303,784円の補助金確定額と支出とに差額は発生した。
1.新型コロナウイルス感染拡大により救急医療が逼迫する中で、臓器提供自体が激減していることから令和2年度の臓器摘出機材貸出シミュレーションの実施件数が0件となったこと
2.新型コロナウイルス感染拡大により予定していた国際学会参加が不可能であったこと

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-