新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響-予期せぬ妊娠等に関する実態調査と女性の健康に対する適切な支援提供体制構築のための研究

文献情報

文献番号
202006060A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響-予期せぬ妊娠等に関する実態調査と女性の健康に対する適切な支援提供体制構築のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2062
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
安達 知子(公益社団法人日本産婦人科医会 事業支援部 女性保健部会)
研究分担者(所属機関)
  • 北村 邦夫((社)日本家族計画協会 クリニック)
  • 北村 俊則(株式会社北村メンタルヘルス研究所)
  • 種部 恭子(公益社団法人日本産婦人科医会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、これまでに経験したことのない状況-所得低下、他者との接触の制限、自宅滞在時間の増加、女性や子供たちへの暴力の懸念などが発生した。本研究では、このような状況下における日本人の性行動、妊娠に対する意識や行動、人工妊娠中絶を主とする予期せぬ妊娠等の実態や性暴力被害等の現状について、可能な限り前年度と比較して種々の観点から実態調査を行い、問題点を抽出して、今後の感染症パンデミック等が発生した際の、女性のリプロダクティブ・ヘルスの推進にかかわる支援体制を整備することを目的とする。
研究方法
COVID-19の流行下における6つの調査研究を行った。
(1)人工妊娠中絶の実態調査
各都道府県の母体保護法指定施設に同意を得て行った。
1)2019年1-12月および2020年1-9月における人工妊娠中絶件数と人工妊娠中絶選択に対するCOVID-19流行、および性暴力やDV等の影響についての意識調査を、182施設に行った。
2)2020年10月15日から1ヵ月間に178施設を受診した人工妊娠中絶患者2004名に対し、年齢、週数、妊娠分娩歴、婚姻状況、避妊法使用の有無、人工妊娠中絶を選択した背景等をCOVID-19流行の影響も含めて、医療者からの聞き取り調査をおこなった。
(2)性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(ワンストップセンター)の調査
・全国51施設に対し、性暴力被害の実態をアンケート調査した。
・代表的なワンストップセンターである大阪SACHICOに、性暴力被害の状況をヒアリング調査し、2020年と2019年で比較した。
(3)妊活中の患者および不妊治療施設における生殖医療に対する意識と実態の調査
・2020年11-12月に東京、福岡、京都の3病院に通院中の患者768名に対し、同年4月と11月の時点の意識をアンケート調査した。日本受精着床学会の会員(医療者)アンケート調査(2020年5月および11月)結果を合わせて比較した。
(4)妊娠、避妊に対する意識と行動の実態調査および若年者への啓発教材作成の取り組み 
・2020年3~5月での生活を想定して、自粛の状況、パートナーとのかかわり、性行動などについて、2020年10月に20歳~69歳の男女1万人を抽出して、インターネット調査を行った。
(5)自粛により妊娠継続に恐怖感を覚える女性のメンタルの諸問題の調査とその対応および支援方策の検討
・2020年12月に妊娠初期、およびその10週間後に妊娠中期となった妊婦を対象に、コロナ禍で妊娠届出をしない、健診に行かない、妊娠継続を希望しない等を規定する心理社会的要因を分析するためにインターネット調査を行った。
(6)「困難な問題を抱える居場所のない若年女性」の予期せぬ妊娠等に関する実態調査と支援方策の検討
・予期せぬ妊娠や望まない性交等の相談の受け皿となっているにんしんSOSを代表とする10団体へヒアリング調査を行い、相談件数の対前年同月比較を行い、相談内容の実態を把握した。
結果と考察
人工妊娠中絶件数は激減し、中期人工妊娠中絶の増加も認めなかった。国の調査による妊娠届け出数の減少とも合わせて、この人工妊娠中絶の減少は一般人の性活動の低下、妊活の抑制、不妊治療の控え等を反映した妊娠数の減少によるもので、慎重な避妊行動等の結果でなかったことは明らかであった。コロナ禍の影響によって人工妊娠中絶を選択した頻度は7.7%と低かったが、収入減少などの経済的な理由が大きく、性暴力増加の結果ではなかった。これは、一般人1万人に対する調査でも、パートナー間の暴力の頻度は4%であり、自粛の時期にはむしろ減少の傾向であった。強制性交等被害状況は、ワンストップセンターの調査からは、前年と実数はほとんど変わらないものの、外出先の強制性交等被害は、自粛期間中は減少し、DV等によるものがやや増加した可能性が示された。一方で、にんしんSOSなどで、妊娠不安や葛藤、養育不安などの相談件数は増加している傾向があり、休校・自粛の影響により平常時には見えにくい、元々存在していた家庭内の暴力や経済的困窮が顕性化した可能性が考えられた。
結論
コロナ禍において、予期せぬ妊娠等による人工妊娠中絶件数は明らかに減少し、性暴力に伴う人工妊娠中絶もコロナ禍の影響とは関連していなかった。一方、予期せぬ妊娠は、どの様な状況においてもできる限り減少させることが必要である。そのためにも小学校~高校における適切な包括的性教育を実践させ、さらに産婦人科医等による外部専門講師による性教育講座の開催、本研究で作成した性教育啓発資材「#つながるBOOK」の普及を奨励する。併せて種々の状況下で、適切な相談窓口につながる情報提供、アクセスの改善等は重要である。

公開日・更新日

公開日
2021-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-09-07
更新日
2021-10-22

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202006060C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型コロナウイルス感染症パンデミックでの外出自粛、在宅時間の増加の状況下において、日本人の性行動は抑制されやすく、妊活を控え、人工妊娠中絶に結びつく予期せぬ妊娠等は減少することが明らかとなった。また、コロナ禍が影響したための性暴力による人工妊娠中絶事例は本研究では認めなかった。世界的に懸念されたDV等増加のリスクは、日本では、コロナ禍のために新規に発生したというよりは、元々あった暴力がエスカレートして相談窓口に多く寄せられたと考えられ、総じて日本人の行動の実態が把握できた。
臨床的観点からの成果
感染症パンデミック時の予期せぬ妊娠等を減少させるためには、人との関わり、避妊の意義を学び、避妊の実施率の向上、確実な避妊法の使用を推進し、緊急避妊法の存在を知らせる必要がある。学校における包括的性教育を推進し、産婦人科医等の性教育出前講座の実施する追い風となる結果であった。また、パンデミックであっても、救急疾患のみならず、リプロダクティブヘルス・ライツを考えた丁寧な指導と対応ができるような医療機関の確保とそこへのアクセスをよくする必要がある。
ガイドライン等の開発
(1)医療機関や薬局等で使用する、「予期せぬ妊娠等への不安、避妊相談、妊娠継続した際の養育不安や人工妊娠中絶等に関する相談、性暴力等が疑われる状況に気づいた、あるいは性暴力等に関する相談等を受けた」際に、適切に支援できる窓口等へつなげるためのわかりやすいリーフレット、(2)学校等における思春期の子どもたちへの性教育啓発教材「#つながるBOOK」、(3)妊娠期にプライマリーケアを行う助産師等が妊婦のメンタルの状況を把握してより良い周産期の心理社会的支援を行うための指導書、の制作を行った。
その他行政的観点からの成果
感染症パンデミック時における、子どもたちにとって一番相談しやすく、信頼できる学校の保健室の機能を維持することの必要性が明らかとなった。学習指導要領の見直し、人間関係性を含めた包括的性教育をカリキュラムに取りいれる。各種相談窓口へのアクセスのしやすさ、それぞれが連携できるシステム、ここで活動できる相談員の研修と確保は必要である。年齢を考えつつも妊活を控える、不妊治療を控えることの葛藤に対して、不妊治療の助成、胚凍結費用の負担軽減などへの配慮が必要であることが示された。
その他のインパクト
ステイホームの中で、DV等で自宅にいることができなくなる子どもたちの相談の受け皿、LINE、SNS等でも可能な相談アクセスの拡大。逃避するためのシェルターを含めた保護・対応、逃避先で性暴力に巻き込まれた場合の相談窓口、18歳を過ぎた児相あずかりの子供たちのさらなる支援等の整備が必要である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
3件
「Psychology」「Healthcare」
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-09-07
更新日
2024-05-29

収支報告書

文献番号
202006060Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
31,200,000円
(2)補助金確定額
31,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,118,785円
人件費・謝金 6,221,660円
旅費 3,164円
その他 12,692,517円
間接経費 7,200,000円
合計 31,236,126円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-06-01
更新日
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