文献情報
文献番号
202006053A
報告書区分
総括
研究課題名
COVID-19感染症の診療にあたる医療従事者の保護対策の確立に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2055
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
山縣 邦弘(筑波大学 医学医療系臨床医学域腎臓内科学)
研究分担者(所属機関)
- 原 晃(筑波大学 医学医療系)
- 平松 祐司(筑波大学 医学医療系)
- 人見 重美(筑波大学 医学医療系)
- 川上 康(筑波大学医学医療系)
- 荒川 義弘(筑波大学 医学医療系)
- 丸尾 和司(筑波大学 医学医療系)
- 川口 敦史(筑波大学 医学医療系)
- 千葉 滋(筑波大学 医学医療系)
- 鈴木 広道(筑波大学 医学医療系)
- 小島 寛(筑波大学 医学医療系)
- 甲斐 平康(筑波大学 医学医療系)
- 太刀川 弘和(筑波大学 医学医療系)
- 高橋 晶(筑波大学 医学医療系)
- 新井 哲明(筑波大学 医学医療系)
- 根本 清貴(筑波大学 医学医療系)
- 橋本 幸一(筑波大学 医学医療系)
- 松崎 一葉(筑波大学 医学医療系)
- 笹原 信一朗(筑波大学 医学医療系)
- 斎藤 環(筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
22,051,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は多くの医療従事者が罹患し、重篤となる者も存在した。また診療にあたる医療従事者には感染罹患の不安と同時に、本人及び家族が差別的な扱いを受けるなどの事実があり、医療従事者の精神的負担軽減、ストレス対策を確立することが急務である。本研究では感染した医療従事者と、同様に患者と濃厚接触しながら感染に至らなかった医療従事者の要因を詳細に検討し、日本人のCOVID-19の罹患率、重症化率が低い要因を明らかにすること、さらに医療従事者のメンタルヘルス悪化要因解明とストレス軽減手法を開発することにより、感染症医療現場における医療従事者の適正配置とメンタルヘルスを保つ体制作りに資する検討を行うことを本研究の目的とした。
研究方法
医療従事者の感染例のあった9施設から新型コロナウイルスに感染した医療従事者(感染者:24名)および患者との接触が感染者と同程度にもかかわらず感染しなかった医療従事者(濃厚接触者:142名)の背景調査(問診、バイタルサイン、血液尿検査、遺伝子検査、サイトカイン検査、ストレス調査)を実施し、比較検討した。
ストレス調査は、共同研究施設の9施設中7施設の職員にオンラインアンケート調査を実施した。参加者自身がストレス管理に用いられるよう心理尺度結果の一部はフィードバックした。さらに、全国規模の匿名オンラインアンケート調査の結果を二次解析し、医療従事者と他職種のメンタルヘルスの違いを比較検討した。
ストレス調査は、共同研究施設の9施設中7施設の職員にオンラインアンケート調査を実施した。参加者自身がストレス管理に用いられるよう心理尺度結果の一部はフィードバックした。さらに、全国規模の匿名オンラインアンケート調査の結果を二次解析し、医療従事者と他職種のメンタルヘルスの違いを比較検討した。
結果と考察
1)感染者と非感染濃厚接触者の比較調査
糖尿病の既往は感染者群のみに見られ、血圧(拡張期、平均)は感染者群で有意に高く、感染者群において総蛋白、IgG値、推算糸球体濾過量(eGFR)が有意に高かったがその他の病歴、一般血液検査に差はなかった。また抗COVID抗体陽性率は患者群95.8%、濃厚接触群1.4%で、PCR検査での陽性の記録がない濃厚接触群2名はPCR偽陰性症例として、感染時期が明確でないものの感染者として扱った。T-SPOT陽性は濃厚接触群の4名のみ、また免疫賦活作用を持つサイトカインであるsCD40L、FLT3L、Eotaxinが感染群で有意に低かった。接触程度の調査では、接触場面や接触時間には両群に差がみられなかったが、体位交換などの体を密着させる行為、気道吸引操作は感染者で有意に実施率が高く(p=0.01)、感染成立にはウイルスの曝露強度の影響の大きさを示唆していた。
遺伝子多型の検討では感染群に多いSNP変異としてIFNL遺伝子とACE2遺伝子、濃厚接触群に多い変異としてTMPRSS2遺伝子が見出された。各SNP変異の重複性を検討したところ、IFNL遺伝子とACE2遺伝子の両方、もしくはいずれかにSNP変異を保有する場合は、オッズ比が2.323と感染リスクが高く、これらのSNP変異にTMPRSS2のSNP変異を持つ場合、オッズ比は0.448まで低下することがわかった。
2)医療従事者のストレス調査
1,317人が調査に参加し、709人が回答を完了した。対象者の10%以上が抑うつ状態、14%が倦怠状態、20%が外傷後ストレス状態、60% 近くが燃え尽き状態であり、性別や職種のほか、十分な休養がとれているか、感染症の相談窓口があるか、感情的なサポートを受けられる場所があるか、被差別体験があるか、などの職場環境因子や経験が関連していることが明らかとなった。一方で、感染者への直接業務を行っているか否かはストレスと有意な関連を見出せず、感染群と濃厚接触群間でも大きな差はなかった。
ポリフェノール摂取量が多い医療従事者では精神的回復力が高く、特にコーヒー由来ポリフェノールの摂取は、医療従事者の恐怖心や疲労の低減にも寄与する可能性があった。また感染者・濃厚接触者の血液調査からは、サイトカインの一部と倦怠感、IFNL遺伝子のSNP変異と外傷後ストレス状態との関連が示唆された。
全国調査の二次解析からは、医療従事者は他職種にくらべ、深刻なストレス下にあることが確認された。これらの問題を踏まえ、COVID-19感染症の診療にあたる医療従事者のメンタルヘルスケアを目的としたE-learning集を作成した。
糖尿病の既往は感染者群のみに見られ、血圧(拡張期、平均)は感染者群で有意に高く、感染者群において総蛋白、IgG値、推算糸球体濾過量(eGFR)が有意に高かったがその他の病歴、一般血液検査に差はなかった。また抗COVID抗体陽性率は患者群95.8%、濃厚接触群1.4%で、PCR検査での陽性の記録がない濃厚接触群2名はPCR偽陰性症例として、感染時期が明確でないものの感染者として扱った。T-SPOT陽性は濃厚接触群の4名のみ、また免疫賦活作用を持つサイトカインであるsCD40L、FLT3L、Eotaxinが感染群で有意に低かった。接触程度の調査では、接触場面や接触時間には両群に差がみられなかったが、体位交換などの体を密着させる行為、気道吸引操作は感染者で有意に実施率が高く(p=0.01)、感染成立にはウイルスの曝露強度の影響の大きさを示唆していた。
遺伝子多型の検討では感染群に多いSNP変異としてIFNL遺伝子とACE2遺伝子、濃厚接触群に多い変異としてTMPRSS2遺伝子が見出された。各SNP変異の重複性を検討したところ、IFNL遺伝子とACE2遺伝子の両方、もしくはいずれかにSNP変異を保有する場合は、オッズ比が2.323と感染リスクが高く、これらのSNP変異にTMPRSS2のSNP変異を持つ場合、オッズ比は0.448まで低下することがわかった。
2)医療従事者のストレス調査
1,317人が調査に参加し、709人が回答を完了した。対象者の10%以上が抑うつ状態、14%が倦怠状態、20%が外傷後ストレス状態、60% 近くが燃え尽き状態であり、性別や職種のほか、十分な休養がとれているか、感染症の相談窓口があるか、感情的なサポートを受けられる場所があるか、被差別体験があるか、などの職場環境因子や経験が関連していることが明らかとなった。一方で、感染者への直接業務を行っているか否かはストレスと有意な関連を見出せず、感染群と濃厚接触群間でも大きな差はなかった。
ポリフェノール摂取量が多い医療従事者では精神的回復力が高く、特にコーヒー由来ポリフェノールの摂取は、医療従事者の恐怖心や疲労の低減にも寄与する可能性があった。また感染者・濃厚接触者の血液調査からは、サイトカインの一部と倦怠感、IFNL遺伝子のSNP変異と外傷後ストレス状態との関連が示唆された。
全国調査の二次解析からは、医療従事者は他職種にくらべ、深刻なストレス下にあることが確認された。これらの問題を踏まえ、COVID-19感染症の診療にあたる医療従事者のメンタルヘルスケアを目的としたE-learning集を作成した。
結論
感染群と濃厚接触群の比較では、患者との密着や飛沫曝露などの影響は重要であるが、既往歴、併発症やサイトカイン類にも差を認め、遺伝子解析の結果からはIFNL遺伝子、ACE2遺伝子、TMPRSS2遺伝子のSNP変異の組み合わせと感染リスクの関係を明らかであった。医療従事者は他職種よりCOVID-19に関連し強いストレスを抱えており、良好な職場環境や生活習慣の構築がメンタルヘルス改善に寄与することから、継続的なモニタリングとともに、メンタルヘルスの支援体制を一層強化することが不可欠である。
公開日・更新日
公開日
2023-05-25
更新日
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