文献情報
文献番号
202006050A
報告書区分
総括
研究課題名
COVID-19感染回復後の後遺障害の実態調査
課題番号
20CA2052
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
横山 彰仁(一般社団法人日本呼吸器学会)
研究分担者(所属機関)
- 野出 孝一(佐賀大学 医学部)
- 金子 猛(横浜市立大学 医学部)
- 髙松 和史(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
- 陳 和夫(京都大学 大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学講座)
- 小倉 高志(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科)
- 迎 寛(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
56,632,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急性期を過ぎても症状が遷延したり、新たに症状が出現しうる。これらを現在「罹患後症状」という。これまで本邦の実態については十分なデータがなかった。そこで今回、本邦における中等症以上のCOVID-19の症状の遷延(いわゆる後遺症)の実態とその予測因子を把握するため、以下の目的を設定した。
1. COVID-19回復後の肺機能の低下や、疲労感・睡眠障害など肺以外の症状の遷延の実態把握
2. 肺機能の低下やその他の症状の遷延を予測する因子(バイオマーカーを含む)の検索
3. 心臓への影響(潜在性/顕性の心筋炎や心不全)
1. COVID-19回復後の肺機能の低下や、疲労感・睡眠障害など肺以外の症状の遷延の実態把握
2. 肺機能の低下やその他の症状の遷延を予測する因子(バイオマーカーを含む)の検索
3. 心臓への影響(潜在性/顕性の心筋炎や心不全)
研究方法
多施設共同観察研究として実施する。適格基準は厚労省「COVID-19診療の手引き」による中等症(肺炎を有する)以上で共同研究施設に入院し、同意が得られた患者。除外基準は20歳未満、同意を得られない患者で、目標症例数は1000例である。退院後3か月ごとに診察、問診、肺機能検査、胸部CT検査、質問票を行う。いずれの症状も検査異常もない場合は、その時点で観察終了とし、いずれかの症状や検査値異常がある場合は3か月ごとに受診し、最長12か月観察する。
結果と考察
2020年9月から2021年9月まで、全国55施設から1091人の登録がなされたが、同意取得の不備や重複症例など削除し、最終的に1003例で解析を行った。50歳代~70歳代で約75%となり、男性が全体の72%を占めた。
罹患後症状は、筋力低下、呼吸困難、倦怠感、睡眠障害、思考力低下、筋肉痛の順で頻度が高かった。筋力低下、呼吸困難は重症度に依存して頻度が増加したが、倦怠感や睡眠障害などは差を認めなかった。
肺機能検査では肺拡散能(%DLco)が障害されている割合が最も高かった(3か月後の時点で約38%)。ただし、DLco/VAは正常のことも多く、肺胞換気量の低下が拡散能低下に寄与したと考えられた。また、肺拡散能を含めた肺機能の障害は重症度が上がるにつれて悪化する傾向がみられた。
胸部CTにて異常陰影が残存している割合は3か月目の時点で49%であった。3か月目の時点で胸部CT検査異常所見を認める群は、認めない群と比べて%DLcoを含む肺機能検査値の有意な悪化や呼吸困難、筋力低下の頻度の上昇が認められた。
3か月の時点でHADSスコアによる不安や抑うつ、ピッツバーグ睡眠質問票による睡眠の質(PSQI)は重症でも上昇していなかった。一般的な睡眠の質障害といわれているPSQI 6点以上を睡眠障害とした場合、3か月目の時点で38.3%が睡眠の質障害があると診断され、罹患後症状で認めた主観的な睡眠障害(23.2%)とはギャップを認めた。また、SF-8の精神サマリースコアも同様であったが、身体サマリースコアは重症者ほど低下する傾向を認めた。
呼吸器系の罹患後症状に寄与する因子の多変量解析では、重症度と基礎疾患の呼吸器疾患が独立した因子であったが、年齢、性別、肥満(BMI 25以上)は呼吸器系の罹患後症状に寄与しなかった。また同様に、肺機能検査異常に寄与する因子については、年齢、重症度、SLAKが独立した肺機能検査異常に寄与する因子であったが、性別や肥満や基礎疾患は寄与しなかった。
血液検査で軽度の心筋障害が疑われる患者(高感度トロポニン陽性、BNPもしくはNT-proBNP異常)を退院3か月後の遠隔期において心臓MRIで評価した(31例)。その結果、心臓障害は13/31(42%)で認められた。最も多く認められた所見は左室の異常造影効果(late Gadolinium enhancement: LGE)であった。
考察:本研究は本邦では初めての前向き観察研究である。 3か月後の呼吸器系の罹患後症状発現あるいは肺機能検査異常に寄与する因子を検討した結果、いずれにおいても重症化を防ぐことが呼吸器系の罹患後症状の抑制にも重要であると言える。
また、心臓MRIで評価した結果、42%の患者で心臓障害を認めた。心筋障害の頻度、部位、パターンは先行研究とおおよそ矛盾しない結果であった。
罹患後症状は、筋力低下、呼吸困難、倦怠感、睡眠障害、思考力低下、筋肉痛の順で頻度が高かった。筋力低下、呼吸困難は重症度に依存して頻度が増加したが、倦怠感や睡眠障害などは差を認めなかった。
肺機能検査では肺拡散能(%DLco)が障害されている割合が最も高かった(3か月後の時点で約38%)。ただし、DLco/VAは正常のことも多く、肺胞換気量の低下が拡散能低下に寄与したと考えられた。また、肺拡散能を含めた肺機能の障害は重症度が上がるにつれて悪化する傾向がみられた。
胸部CTにて異常陰影が残存している割合は3か月目の時点で49%であった。3か月目の時点で胸部CT検査異常所見を認める群は、認めない群と比べて%DLcoを含む肺機能検査値の有意な悪化や呼吸困難、筋力低下の頻度の上昇が認められた。
3か月の時点でHADSスコアによる不安や抑うつ、ピッツバーグ睡眠質問票による睡眠の質(PSQI)は重症でも上昇していなかった。一般的な睡眠の質障害といわれているPSQI 6点以上を睡眠障害とした場合、3か月目の時点で38.3%が睡眠の質障害があると診断され、罹患後症状で認めた主観的な睡眠障害(23.2%)とはギャップを認めた。また、SF-8の精神サマリースコアも同様であったが、身体サマリースコアは重症者ほど低下する傾向を認めた。
呼吸器系の罹患後症状に寄与する因子の多変量解析では、重症度と基礎疾患の呼吸器疾患が独立した因子であったが、年齢、性別、肥満(BMI 25以上)は呼吸器系の罹患後症状に寄与しなかった。また同様に、肺機能検査異常に寄与する因子については、年齢、重症度、SLAKが独立した肺機能検査異常に寄与する因子であったが、性別や肥満や基礎疾患は寄与しなかった。
血液検査で軽度の心筋障害が疑われる患者(高感度トロポニン陽性、BNPもしくはNT-proBNP異常)を退院3か月後の遠隔期において心臓MRIで評価した(31例)。その結果、心臓障害は13/31(42%)で認められた。最も多く認められた所見は左室の異常造影効果(late Gadolinium enhancement: LGE)であった。
考察:本研究は本邦では初めての前向き観察研究である。 3か月後の呼吸器系の罹患後症状発現あるいは肺機能検査異常に寄与する因子を検討した結果、いずれにおいても重症化を防ぐことが呼吸器系の罹患後症状の抑制にも重要であると言える。
また、心臓MRIで評価した結果、42%の患者で心臓障害を認めた。心筋障害の頻度、部位、パターンは先行研究とおおよそ矛盾しない結果であった。
結論
本邦におけるCOVID-19(中等症以上)患者の罹患後症状は欧米の報告よりは頻度が少ないものの、3か月時点ではおよそ半数に認められ、その後、経時的に改善した。しかし、12か月後でも13%の患者で症状あるいは検査異常が残存していた。
公開日・更新日
公開日
2022-10-19
更新日
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