文献情報
文献番号
202006049A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症が医療機関の経営に及ぼす影響ならびにその支援策の効果の検証
研究課題名(英字)
-
課題番号
20CA2051
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
谷川 武(順天堂大学大学院 医学研究科公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
- 荒井 耕(一橋大学大学院商学研究科)
- 丸山 広達(愛媛大学医学部付属病院)
- 野田 愛(池田 愛)(順天堂大学 医学部)
- 友岡 清秀(順天堂大学 医学部公衆衛生学講座)
- 佐藤 准子(順天堂大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
13,560,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス感染症への対応では、多くの医療機関においてその受け入れが行われたほか、それ以外の医療機関においても新型コロナウイルス感染症疑い患者の外来対応等で過大な負担が強いられた。また、これらの対応は、新型コロナウイルス感染症患者以外の一般医療への影響を与え、医療機関の経営に大きな影響を及ぼす事態となった。
本研究は、このような現状を踏まえ、新型コロナウイルス感染症が医療機関の経営にどの程度影響を与えているかについて詳細な分析を行い、現在厚生労働省等で実施されている支援策の効果を明らかにすることで、新型コロナウイルス感染症の医療機関への経営影響の要因を明らかにするとともに、今後の支援策の検討に向けた検討材料とすることを目的とする。
本研究は、このような現状を踏まえ、新型コロナウイルス感染症が医療機関の経営にどの程度影響を与えているかについて詳細な分析を行い、現在厚生労働省等で実施されている支援策の効果を明らかにすることで、新型コロナウイルス感染症の医療機関への経営影響の要因を明らかにするとともに、今後の支援策の検討に向けた検討材料とすることを目的とする。
研究方法
方法として、2020年3~8月に新型コロナウィルス感染症入院患者数実績1名以上を受け入れた1,233病院、入院患者実績無しの1,233病院の計2,466病院を対象にアンケート調査を実施した。新型コロナウィルス感染症患者もしくは疑似症患者1人以上受け入れた施設を「対応実績有り」施設、受け入れた実績がない施設を「対応実績無し」施設と定義し、対応実績有無別に医療機関の基本情報(開設主体、種別、DPC対応状況、指定等)、職員数、病床数、入院患者数、新型コロナウィルス感染症の入院患者数、新型コロナウィルス感染症への対応状況、医業収支状況、空室確保料の申請状況、夏季賞与の支給状況等の項目について比較・検討した。また、部門別医業収支情報の提供協力可と回答した施設に、2019年ならびに2020年4~9月の診療科別損益情報を提供いただいた。診療科別前年同月の増減を可能な限り比較し、新型コロナウイルス感染症が医療機関の損益状況に及ぼす影響について詳細な分析を行った。さらに、DPCデータを用いた分析事業協力可と回答した施設に、2019年ならびに2020年4~9月のDPCデータを依頼し、82の医療機関から提供いただいた。対応実績有無別、許可病床数の400床以上、400床未満に層別し、より詳細な分析を行った。
結果と考察
分析の結果、対応実績有無別に見ると、対応実績有り施設は、比較的規模の大きい公立病院が多く、また、ICUを有する急性期病院の割合が多かった。2020年4~9月の診療等の実績の対前年比をみると、対応実績有無にかかわらず5月に最低水準となっており、9月に向けてやや回復基調だった。ただし、対応実績有り施設の方がより下げ幅が大きい傾向にあり、特に、健診は対前年同月比で3~4割程度までの落ち込みを見せた。
また、感染拡大ピーク時の入院、外来の受入患者の制限や手術の実施延期の状況をみると、当初の予定よりも制限や延期をした割合がやや高くなっており、医療機関側にとって想定よりも新型コロナウィルス感染症患者への対応の影響が大きかったことが示唆された。
入院・外来収入については、対応実績有無に関わらず、患者数の減少の影響が大きいことが明らかになった。年齢階級では若年層(15歳以下)の減少が顕著で、傷病別では、呼吸器系の疾患の減少幅が大きかった。呼吸器系の疾患のうち特に、急性上気道感染症や肺炎等の疾患が顕著に減少していた。外来収入については400床未満の病床規模の小さい医療機関の外来収入の減少幅が大きかった。手術件数の減少に加え、行為点数の減少が入院・外来収入の伸び率に影響を与えていた。
また、感染拡大ピーク時の入院、外来の受入患者の制限や手術の実施延期の状況をみると、当初の予定よりも制限や延期をした割合がやや高くなっており、医療機関側にとって想定よりも新型コロナウィルス感染症患者への対応の影響が大きかったことが示唆された。
入院・外来収入については、対応実績有無に関わらず、患者数の減少の影響が大きいことが明らかになった。年齢階級では若年層(15歳以下)の減少が顕著で、傷病別では、呼吸器系の疾患の減少幅が大きかった。呼吸器系の疾患のうち特に、急性上気道感染症や肺炎等の疾患が顕著に減少していた。外来収入については400床未満の病床規模の小さい医療機関の外来収入の減少幅が大きかった。手術件数の減少に加え、行為点数の減少が入院・外来収入の伸び率に影響を与えていた。
結論
新型コロナウイルス感染症の流行は、対応実績有り病院群を中心に、損益状況の悪化に大きく影響したと考えられた。しかし同時に、政府による支援金により、空床確保料を申請できた群では新型コロナ流行前の損益状況程度までは回復することができ、空床確保料に加えてさらに他の支援金も申請できた群では新型コロナウイルス感染症の流行前の損益状況よりも若干であるが改善した。また空床確保料は申請できなかったがその他の支援金は申請できた群は、新型コロナウイルス感染症の流行による損益状況の悪化を緩和することはできた。しかし、本調査に基づく研究では新型コロナウイルス感染症の流行による差分としての影響しか捉えることができておらず、過去からの慢性的な赤字を背景とした総量としての財務的ダメージ(倒産可能性)は評価できていないことから、注意が必要である。政府による支援金を加えてもなお赤字であることや、どの支援金も申請できなかった群は新型コロナウイルス感染症流行の大きな影響を受けた状況のままであることにも、留意する必要がある。また、本研究は、2020年4~9月までの新型コロナウイルス感染症の流行による損益状況への影響と政府支援策による効果の検証に限定されていることから、今後、このような調査研究が引き続き実施される必要があるといえる。
公開日・更新日
公開日
2021-08-13
更新日
-